歯の汚れを落とすという「引き算」から、歯に成分を与えるという「足し算」の発想への転換――。
1980年に発売された世界初のハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤「アパデント」開発のきっかけになったのは、意外にも宇宙技術にありました。
初めは専門家たちにも「不可能」だと言われた開発は、思いもよらぬところにヒントを得て研究を重ね、発売から45年となるロングセラー商品を生み出しました。
ユニークな科学実験で知られる米村でんじろうさんがサンギのロズリン・ヘイマン代表取締役社長と対談し、開発秘話について聞きました。
「不思議」から始まった研究が、生活に欠かせない「技術」に
――米村さんは科学の楽しさを伝える活動を長年続けられてきました。ショーなどでの実験では、科学はどのように人々を魅了しますか?
米村でんじろうさん(以下、米村):普段は子どもたちや親御さんを中心に、サイエンスショーで実験をすることが多いのですが、科学や技術の始まりの頃の実験をよく取り入れています。
例えば、電気の始まりの静電気。人々がまだ電気がない生活をしていた時代にヨーロッパで静電気の研究が始まり、静電気の実験は当時の人々をとても驚かせました。
私が実験で静電気を起こして紙人形が踊ったり、風船が髪の毛にひっついたりという実験を見せると、今の子どもたちもとっても驚きます。始めは「不思議」や「驚き」から始まった研究や発明が、想像もつかないような発展をして、人々の生活を変えるくらいの技術となるのが、科学のすごいところだと考えています。
ロズリン・ヘイマンさん(以下、ロズリン):たしかに、「驚き」や「疑問」などから発明や研究のきっかけは生まれますよね。そしてそのきっかけをスタートにして、研究を「継続すること」も大切です。
サンギは研究にかなり力を入れており、全従業員のうち、約30%が研究員です。
生活の身近な場所で取り入れられている、意外な宇宙技術
米村:宇宙技術も私たちの生活に取り入れられています。身近な例だと、防災グッズやアウトドア用品として使われている保温アルミシートがあります。
これは宇宙技術を活かして作られていて、薄いシート1枚をまとうだけでも保温効果があります。災害時には毛布代わりになり、アウトドアでも使われています。
NASAのアポロ計画で月面着陸をした宇宙船の写真を見ると、金色や銀色のシートが貼ってあるのが分かります。太陽の直射日光から機体を守るためにそのフィルムが開発されました。
ロズリン:身近な防災グッズに入っているアルミシートに、宇宙技術が使われているとは知りませんでした。
米村:「アパデント」という歯みがき剤も、NASAの宇宙技術をヒントに開発されたそうですね。
ロズリン:はい。サンギは1974年、貿易商社としてスタートしたのですが、特許の売買を行う中でNASAの技術に注目しました。当時NASAは、宇宙飛行士の歯や骨を無重力の環境下で守るために、歯と骨の構成成分であるハイドロキシアパタイトを使った研究を進めていました。
サンギの創業者(現会長)で私の夫の佐久間周治は、その技術をヒントに、「歯とほぼ同じ成分のハイドロキシアパタイトそのものを歯みがき剤に配合すれば、日々の歯みがきで歯の表面にとりこまれ、修復するのではないか」と思いつきました。
研究を重ねて1980年に世界初の、「ハイドロキシアパタイト」配合の歯みがき剤「アパデント」が誕生しました。
米村:全く関係のないように思える「宇宙」と「歯みがき」が繋がるとは本当に意外ですよね。
ただ、科学や技術の歴史を見ると、優れた発明や製品は結構、偶然も含めて意外なものの組み合わせで生まれていると思います。本当に優れたものは、想像ができないような意外性があり、何かのきっかけに新しい工夫が加わり開発されるのだと思います。
「引き算の歯みがき」から「足し算」の発想へ
ロズリン:それまでの歯みがきの概念は、歯の汚れを落とすという「引き算」の考え方でした。しかし、サンギの歯みがき剤はこの点が違います。
もちろんブラッシングをしながら汚れは落としますが、歯とほぼ同じ成分のハイドロキシアパタイトそのものを歯みがき剤に配合することで、歯に成分を与えるという「足し算」の発想なのです。
米村:なるほど。発想の転換ですね。先ほどもお昼ご飯を食べた後にアパデントを使って歯みがきをしてきましたが、みがき心地も良く気分もスッキリしました。
私は子どもの頃から歯みがきはあまり得意ではなく、サンギさんの有名なテレビCMのキャッチフレーズ「芸能人は歯が命」とは真逆の生活をしていましたが、今回のお話を聞いて歯みがきの大切さを改めて感じています。
アパデントは発売から約45年と、そんなにも長く使われ続けているということが、愛される製品だという実証ですね。
ロズリン:はい。最初は日本で開発されて国内だけで使われていましたが、今はヨーロッパを含む世界各地で使われています。
2024年は創業50年記念でアパデントのリニューアルをし、新しく歯周病予防の「アパデント歯周ケア」、口臭予防の「アパデントピュアブレス」とラインナップを拡充しました。
ロズリン:そして偶然なのですが、創業50年の節目となる年、思いがけないことに、宇宙技術に関する優れた開発を表彰するアワード「宇宙技術の殿堂」で、日本企業としては初めて「殿堂入り」をすることができました。突然連絡を受けたので、私たちも驚きました。
「宇宙技術の殿堂」は、アメリカのNPO法人が主催するアワードで、2024年4月にはアメリカ・コロラドスプリングスで開催された「宇宙シンポジウム」の期間中の表彰式で、メダルを受け取りました。
NASAの技術をヒントに、薬用ハイドロキシアパタイトを配合した歯みがき剤を開発した、サンギの「開発力」が評価されました。
米村:日本の企業がそのように世界で認められたというのは、素晴らしいことですね。宇宙技術に関する開発を表彰するアワードも、とても面白いですね。
「不可能」を「可能」に。「失敗」から「発見」が生まれる
ロズリン:開発は、初めからうまくいった訳ではありませんでした。実は一番初めに創業者の佐久間が、ハイドロキシアパタイトを歯みがき剤に入れようと提案した時、専門家は皆「不可能だ」と言って、最初は開発にすら反対したそうです。
まずは、研究や開発に挑戦してみることが大切だと思います。
米村:まさにその通りですね。私自身も、サイエンスショーでの実験内容の考案も試行錯誤の繰り返しです。今度こういう企画があるからこんな実験はどうだろうかと頭で考えたものは大概つまらないのですが、実際に実験してみて工夫を加えていくうちに途中で面白い点が出てきて、それを追求していけば意外な面白さが生まれることがあります。
結果的にそうして生まれたものが好評なのですが、100個ほど色々な工夫をしてみて、その中で1つ面白いものが出てきたら良いなというくらいです。おそらく研究でも、試行錯誤の繰り返しですよね。
ロズリン:そうですね。そして意外と失敗から生まれる「発見」もあります。アパデントもそうですが、最初の技術をそのまま使おうと思ったらうまくいかなかったと思いますが、壁にぶつかって他の方向を探っているうちに発見が生まれました。
米村:宇宙飛行士の歯や骨を守るための研究が、アパデントの開発のヒントになるという、意外な物語が生まれたように、きっと今後も想像もできないような技術が意外なところに生かされていくのだと思います。
今後もまた、そのような意外性がある研究や開発が生まれてくると思うと、とても楽しみです。
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(写真=川しまゆうこ)
「アパデント」に関する詳細はこちらから。
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