同性パートナーが「見える化」されると、どうなるか?

LGBTが「見える化」されると、LGBTの抱える困難が「見える化」されるのです。

2015年11月5日より、東京都渋谷区、世田谷区において、同性間のパートナーシップに関する公的書類の発行が始まりました。まだ国レベルでは同性パートナーへの法的保障がまったくない中で、地方自治体レベルの取り組みがスタートしたことは、大きな一歩だと考えます。ここ数日、大阪を拠点とする私たちの団体にも、メディアからの問い合わせが殺到しています。これで何が変わるのか、当事者としてどう思うのか、等々です。

私としては、当事者に変化があるというよりは、これをきっかけに同性をパートナーとして生活する人たちが日本社会の中で「見える化」されることが重要だと思っています。

企業は、行政による文書発行を「社会的認知が広がった証」と捉えて、すでに先んじて動いています。docomo、auの「家族割」の同性パートナーへの適用、ライフネット生命の生命保険の受取人に同性パートナーOKというニュースはメディアでも大きく報じられました。

特にライフネット生命は、行政の証明書は不要で、全国で申し込み可能、という点が画期的でした。居住する地域に限らずお客様を公平に扱おうとすると、そういう判断になるのかと思います。企業の取り組みは、行政区域を超えて、全国に広がる可能性があるのです。

しかし、例えば、ライフネット生命の場合も、税制上の取り扱いは婚姻の有無で異なります。これは一企業ではどうにもできないことで、企業の取り組みが進むにつれ、その限界も見えてくるでしょう。それが法改正への動きに繋がることを期待したいと思います。

一方で、メディアでLGBTが大きく扱われると、それに対する反応も大きくなります。すでに、職場や学校で、身近な人が渋谷区等のニュースに否定的な反応をしたことに傷ついた、という当事者の声を耳にしています。嬉しいニュースが増えるほど、実生活では居心地の悪い思いをする当事者も、きっと多いだろうと思います。ツラい気持ちになった個々の当事者を受け止める場所があるのか、というと、残念ながら、まだまだ少ないのが現状です。

2013年9月に行政として初めて「LGBT支援宣言」をした大阪市淀川区では、2年間の交流会や電話相談といった取り組みを通じて、当事者の抱える複合的な困難が見えてきています。

「ハローワークにずっと通っているのに、なかなか働き先が見つからない」というトランスジェンダーの就労困難とその結果としての貧困の問題、「同性のパートナーから暴力を受けているが、相談窓口ではまともに聞いてもらえなかった」というDVの問題、「精神疾患を持っているが、その障害には理解がある人でもLGBTに理解がないと相談しにくい」というダブルマイノリティの問題。LGBTが「見える化」されると、LGBTの抱える困難が「見える化」されるのです。

淀川区のLGBT支援事業は、虹色ダイバーシティとQWRCという当事者支援団体で受託していますが、正直、もう私たちだけでは対応しきれません。貧困やDVなどの問題の専門家としての、行政職員の皆さんの助けが必要です。

住民の命と健康と財産を守るのが、地方自治体の役割であるはずです。LGBTも、当たり前ですが、地域の住民です。自治体のLGBT対応は、一部の人が新しい業務としてやるのではなく、自治体職員の本来の仕事の一部として、各部門で取り組んで欲しいと思います。行政の支援を点から線へ、線から面へ展開しながら、LGBT等の性的マイノリティ当事者が地域で生きていくためのセーフティーネットを編み上げていくことが求められています。

マイノリティの権利獲得のうち、特に法律に関する部分は、マジョリティの理解なしには進みません。渋谷区や世田谷区、それに伴う企業の動きが、多くの人の関心を呼んでいる今、私が呼びかけたいのは、「もっと話そう」ということです。当事者や支援者が傷つくシーンもきっとあると思いますが、否定的な思いも一旦どこかで吐き出してもらわないと議論になりません。

多分、ここからがツラい道ですが、避けては通れないだろう道でもあります。しかし、今ならきっと、家族、友人、同僚、隣人、行政、企業、などなど、当事者以外の多くの人が、一緒に歩いてくれるのではないかと期待しています。