「この裁判の判断が、多くの人々の将来を決定づけるということをどうか忘れないで下さい」――。2019年4月に裁判所で訴えたEさんとパートナーのCさんは間も無く、その裁判の判決を迎えます。
レズビアンカップルのEさんとCさんは、「結婚の自由を全ての人に」裁判の札幌原告です。
この裁判では戸籍上同性間の結婚、通称「同性婚」の実現を求めて、全国5地裁で28人が国を訴えています。
そして3月17日に、CさんとEさんが原告となっている札幌地裁で、この裁判の初めての判決が下されます。
裁判はなぜ、ふたりだけではなく多くの人にとって重要なのか。判決を目前にしたCさんとEさんが話してくれました。
変わらない若い同性愛者の苦しみ
結婚できないことで、ふたりは子ども時代から将来への不安を経験してきたといいます。
Eさんがレズビアンだと自認したのは中学生の時。はっきりと同性愛者だとわかるにつれ、将来結婚ができないことに不安や絶望を感じるようになりました。
「誰からも祝福されず、後ろ指を差されながら生きていくしかないんだ」「この世から早くいなくなりたい」と思ったこともあるとEさんは裁判で語っています。
一方、小学校にあがる頃には同性愛者を自認していたCさんも、結婚という選択肢がないことで「道が閉ざされているんだ」と感じ続けていました。
当時テレビでは同性愛者が“オカマ”や“レズ”と揶揄され、ネガティブに描かれていた時代。それを見て「同性愛は人には言っちゃいけない恥ずかしいことなんだと感じ、ずっと隠して生きてきました」とCさんは振り返ります。
自分たちの経験から、結婚できるかできないかが自己肯定感や生死を左右すると感じてきたCさんとEさん。
そんなふたりが今特に心配しているのは、自分たちと同じように未来を悲観的に捉え、生きる希望を失う若者たちがたくさんいることです。
ふたりはNPO団体で、セクシュアルマイノリティの人たちのLINE相談をしていますが、結婚できないことで苦しむ10代や20代の若者たちの相談が寄せられるといいます。
「16歳や17歳で同性が好きだと自認した子たちの中には、結婚ができないことで人生の選択肢を断たれ、塞ぎ込んでしまう子たちもいます。その気持ちは、私が10年前に感じていたものと全く同じです。そういった若者の声を聞いていると、早く日本でも同性同士の結婚が認められるようになるべきだと肌で感じます」とEさんは話します。
同性婚には性的マイノリティの生きづらさを減らす効果があるということは、研究でも明らかになりつつあります。
2019年の研究では、同性婚をできるようにしたデンマークとスウェーデンで同性愛者の自死率が大幅に減少したことがわかりました。
研究者たちは「同性婚の法制化には、セクシュアルマイノリティに対するスティグマを無くす可能性があるのでは」と考えています。
Cさんも「国が同性同士の結婚を認めるということは、国が同性カップルを認めるということ。若い頃に認められていれば、自分のネガティブだった気持ちや生き方も変わった気がします」と話します。
異性カップルだけしか結婚制度を使えないのはおかしい
CさんとEさんの普段の自分たちの普段の生活を、「結婚した男女夫婦と何も変わらない」と言います。
朝起きて身支度を整え、それぞれ電車や地下鉄に乗って通勤。
先に帰宅した方、大抵はCさんが食事をつくり、飼っている猫に餌をあげる。
遅く帰ってきたEさんがCさんが作り置きしてくれた食事を食べ、Cさんと少し言葉を交わした後に就寝。
休みの日は、一緒に出かけたりゆっくり話をしたりして過ごす。
家事をシェアし、精神的にも金銭的にも支え合うCさんとEさんがともに積み重ねてきた月日は13年になります。
Eさんの転勤が決まった時にはCさんも一緒に転居しました。
しかし同性同士の結婚が認められていないために、ふたりのパートナー関係は何度も差別されてきました。その一部を、Eさんは次のように話します。
・2人で家を購入しようとした時――。
「ペアローンを組もうとしたのですが、パートナーシップ制度を利用している同性カップルであってもペアローンを組める銀行はとても少なく、組めたとしても公正証書が必要でした」
・2人で家を借りる時――。
「契約書に同居する人の続柄を書く欄があったので、不動産屋さんに『同性パートナーと書いてもいいか』と尋ねると、『大家さんの中には同性カップルに理解がなく家を貸してくれない人もいるから、ここは自分たちを守るために嘘をついてください』と言われました」
・社宅にも入れず――。
「会社命令での転勤だったので、社宅に住むこともできたのですが、一緒に住むのが許されているパートナーは、結婚した配偶者か結婚を前提した婚約者。同性のパートナーは配偶者にも婚約者にもなり得ないので、社宅にも住めませんでした」
同性パートナーだと契約書に書かないほうがいいと言われた時、「これは明確な差別だ」と思ったとEさんは話します。
しかし急いで家を決めなければいけない状況だったため、仕方なく友人と書きました。
他にも「パートナーが救急車で運ばれた時には自分に連絡が来るのか」「手術の同意書にサインできるのだろうか?」などの将来への不安を感じているとCさんは語ります。
「想定していません」に思うこと
CさんとEさんを含め、札幌の6人の原告たちは自分たちの差別の経験や将来への不安を、法廷で語ってきました。
しかしこの2年間、国は一貫して「憲法は同性同士の婚姻を想定していない。だから同性婚は検討していない」と主張してきました。
さらに、「婚姻は子どもを産み育てるための制度なので、同性愛者は対象になっていない」「同性愛者も異性愛者と結婚できるのだから差別ではない」と述べて、同性婚を否定してきました。
同性愛者も異性愛者と結婚できるのだから差別ではない――その主張に、「もし自分に子どもがいたとしたら、好きにならない相手とも結婚できるから結婚しろって言えるのだろうかと思う」と、Cさんは疑問を感じざるをえません。
Eさんも「異性カップルの中にも、高齢になってから結婚する方や子どもを作らない選択肢をする方、作れないという方もいる。『結婚は子どもを作って育てるためのもの』という主張は、そういった方たちの気持ちも踏みにじっていると思います」と言葉に怒りをにじませます。
国の主張に怒りや失望を感じる一方で、2年間励みになったのは多くの人たちからの応援でした。
「傍聴席は毎回満席になっていて、裁判所にこれない人もSNSで応援のメッセージを発信してくれました。法廷に入るたびに、まだ会ったことがないけれど、この裁判を応援してくれている人たちが全国、全世界にたくさんいるんだということを、背中でひしひしと感じました」と話すEさん。
「この裁判は日本で同性同士の結婚が認められるようになるための、大事な布石だ」とも励まされ、改めて同性婚を望むすべての人のためにも頑張りたいと決意を固めています。
本当はこんな裁判はしたくない
同性婚は2001年にオランダで初めて法制化され、これまでに同性同士が結婚できるようなった国や地域は29。
主要7カ国で同性カップルを保護する法律がないのは日本だけという状態ですが、国が法制化を検討する様子はありません。
そんな国に対し、Eさんは「本当はこんな裁判はしたくない」と伝えたいと話します。
「私たちにも自分たちの生活があって暮らしがあるんです。将来のことを考えるエネルギーを、裁判ではなく自分たちの将来のために使いたい。だけど国会で法律が変わったり作られたりすると様子がないので、この裁判をしています」
今回の判決で「国が同性婚を認めないのは憲法違反だ」という判断が示されても、国が控訴して裁判は続くと考えられています。
その一方で、たとえ裁判で負けたとしても、国会で法律を改正することで、同性婚はできるようになります。
「最高裁までいく前に、同性どうしでも結婚できるような法律を整え、結婚制度を平等なものにして欲しい」とEさんは望んでいます。
Cさんも「実際にこんなに困っている人がいる。同性同士で結婚できるようになっても不幸な人が増えるわけじゃありません。人の心を持って判決を出して欲しいなと思います」と話します。
「私たちのありふれた日常生活を、当たり前の幸せを守る判断をしてほしい」という原告たちの声は届くのか。
日本で初めて、同性同士が結婚できない法律が憲法違反かどうかを示す判決の行方を、多くの人たちが注目しています。