同性同士の結婚、いわゆる「同性婚」ができないのは憲法違反だと国を訴えている裁判は、3月17日に札幌地裁で最初の判決を迎えます。
判決は、憲法を巡って国が同性婚を実現させるべきかどうかを裁判所が示す、日本で初めての司法判断になります。
この同性婚裁判にはどんな争点があり、原告は何を訴えているのでしょうか。ポイントをまとめました。
どんな裁判?
「結婚の自由をすべての人に」と名付けられたこの裁判は、2019年2月14日に東京、大阪、名古屋、札幌の4地裁で13組の同性カップルが国を提訴して始まりました。
2019年9月5日には福岡地裁にも訴えが提起され、現在は5つの地裁で28人が国を訴えています。
原告たちは、「異性カップルと同じように同性カップルも結婚できるようにしてほしい、結婚制度を平等にしてほしい」と求めています。
また結婚できないことで精神的な損害を受けたとして慰謝料請求をしていますが、原告弁護団によると裁判の目的は慰謝料の支払いではなく「同性間の婚姻を認めない法律は憲法に違反している」という裁判所の判断です。
裁判のポイント1:結婚できない状態は憲法違反かどうか
この裁判には争点が2つあります。
1つ目は、同性同士で結婚ができないことが憲法違反と判断されるかどうかです。
📝争点1
同性同士の結婚ができない法律は、結婚の自由や差別禁止を定めた憲法に違反する?
原告は次のように主張しています。
👉憲法24条には「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と書かれていて、人は「いつ誰と結婚するか」を自由に決められると定めている。それなのに同性同士の結婚が認められていないのは結婚の自由の侵害だ
さらに原告は、同性同士で結婚できないのは憲法14条の平等原則にも反すると述べています。
👉憲法14条は差別を禁止し、法の下の平等を定めている。それなのに異性と結婚したい人は結婚できて、同性と結婚したい人は結婚できない。これは性的指向に基づく不当な差別だ
一方国は、次のように反論しています。
▶️憲法24条の「両性」は男女を意味する。だから憲法は同性カップルの結婚を想定しておらず、憲法違反ではない
▶️そもそも憲法24条が同性婚を想定していないのだから、同性同士が結婚できないのは差別ではなく合理的な区別。平等原則に反しない
国は他に、次のような主張もしています。
▶️結婚は子を産み育てるための制度であるから、異性カップルと別の取り扱いをしても問題ない
▶️異性愛者も同性愛者も、異性とは結婚できるのだから、性的指向に基づく差別にはあたらない
原告の反論:「両性の合意」は「当事者の合意」を表す
「両性」は男女なので、憲法は同性同士の婚姻を想定していない――国のこの主張に対し、原告は「両性」というのは「両当事者の合意」という意味で使われているのであって、「男女」を強調するものではないと反論しています。
憲法24条が作られる前の旧民法では、結婚には家長である戸主の同意が必要でした。
それを本人の意思だけで決められるようにしたのが憲法24条です。つまり「両性の合意」という言葉は「男女」を強調するのではなく「当事者の合意」を強調すると弁護団は言います。
さらに「結婚の目的は子を産み育てるためのもの」という主張に対して、原告は「憲法24条は子どもを持つか持たないかに一切触れていない」と反論。
結婚の目的は、子を産み育てることではなくパートナーとの人格的な結びつきの安定化にあり、それは異性愛者でも同性愛者でも変わらないと述べています。
さらに「同性愛者も異性愛者と結婚できるのだから差別ではない」という主張に対しては、かつてアメリカに存在した異なる人種間の結婚を禁止した法律を挙げ、「国の主張は白人と黒人も異人種と結婚できないのだから人種差別ではないというようなものだ」と、主張の合理性のなさを指摘しています。
裁判のポイント2:同性婚ができない状態を放置しているのは違法か
裁判でもし「同性同士が結婚できないのは憲法違反」と判断された場合、2つ目の争点になるのが「憲法に違反している法律を国が放置しているのが、法律違反かどうか」です。
📝争点2
「結婚の自由」や「法の下の平等」を定めた憲法に違反する法律を、国が放置しているのは違法か?
原告は「同性同士の婚姻ができないことが人権侵害になることはずっと前からわかっていた。そして国は法律を作る義務があった。それなのに義務を怠ってきたことで、原告らに精神的損害を与えた」という主張しています。
人権侵害がずっと前からわかっていた理由を、原告は次のように説明しています。
👉国連の人権機関や、1990年代の「府中青年の家裁判」の判決などで、「公権力を持つ人は性的少数者に配慮すべき」だという判断が何年も前から示されてきた
👉地方自治体で次々とパートナーシップ制度が導入され、当事者や同性婚の必要性が可視化されてきた
👉海外でも同性婚の法整備が進んでいる
原告のこの主張に対して国は、
▶️そもそも同性婚ができないのが憲法違反ではないため、違法ではない
と反論しています。
今回の判決では、この争点1と争点2で裁判所がどんな判断を示すかがポイントになります。
同性婚をめぐる世界の動き
2001年にオランダで初めて実現した同性婚は、これまでに29の国や地域に広がっています。
主要7カ国で同性パートナーへの法的保護はないのは日本だけで、他国に遅れをとっている状態です。
ちなみに同性同士が結婚できず困っているのは、必ずしも同性愛者だけに限りません。
例えばトランスジェンダーの人の中には、自認する性別と戸籍上の性別が違うため、結婚を望む相手との戸籍上の性別が同じになる人たちもいます。
彼らは自認する性では「異性カップル」なのですが、戸籍上の性で「同性カップル」となってしまい、結婚できないのです。
そのため、同性同士の結婚を望む人の中には(性自認上の)異性カップルもいますが、「戸籍上の性別が同じ」という意味合いで「同性婚」という言葉が使われています。
北海道ではどんな人たちが訴えているの?
一斉に訴訟をスタートした4地裁の中で、札幌で最初に判決が出ることになった背景の一つには、新型コロナによる進行スケジュールの影響が比較的少なかったことがあります。
また札幌地裁の武部知子裁判長は裁判当初から「こういった人権に関わる問題で、長期の審議をするのは望ましくない」として2年以内に判決を下すと述べていました。
初めての判決が下される札幌地裁で原告になっているのは、3組の同性カップルです。
帯広に住む国見亮佑さんとたかしさんは、出会って18年の男性カップル。国見さんは公立学校教諭ですが、同性パートナーのたかしさんと官舎に入れないなど不利益を受けています。
札幌に住むCさんとEさんは、付き合って13年の女性カップルで、ペアローンが組めない、社宅に入れないなどの不平等を経験してきました。Eさんは10代の頃、結婚できないことで将来を悲観し死んでしまいたいと考えたこともありました。
もう一組の札幌に住む男性カップルは、ハワイで結婚式を挙げ、母と3人で同居しながら住宅ローンを共同で返済しています。家の所有者が死亡した場合に、パートナーが相続できない、母の介護に支障が出るなどの不安を抱えています。
原告の多くは、自分たちのためだけではなく、若い世代のためにも同性婚の実現が必要だと訴えています。
世界で広がる同性婚。日本初の判決で、「同性カップルも平等に結婚制度を使えるようにすべき」という判断が示されるのでしょうか。
性的マイノリティの人たちの人権に大きな影響を与えうる3月17日の判決に、注目が集まります。