「憲法は同性婚の法制化を認めている」という考えを、2月25日に開かれた衆議院予算委員会の分科会で衆議院法制局が示した。
同性婚を認める法案に関する憲法解釈を述べたもので、「同性婚の法制度化は憲法上求められている」という考えが成り立つという。
同性婚の法制度化は憲法上の要請である
25日の委員会では、立憲民主党・尾辻かな子議員が「憲法24条は同性婚を禁止していないと解釈できるか」と質問。これに対し、衆議院法制局は次のように回答した。
「憲法24条1項と同性婚の関係については、論理的にいくつかの解釈が成り立ち得ると考えますが、結論から申しますと、少なくとも日本国憲法は同性婚を法制化することを禁止はしていない、すなわち認めているとの『許容説』は、十分に成り立ち得ると考えております」
尾辻議員らは2019年6月に、民法の一部を改正して同性間の婚姻ができるようにする法案(婚姻平等法案)を提出している。
法案成立のポイントの一つが、憲法24条「婚姻は両性の合意のみに基いて成立する」という規定が、同性婚を禁止していないかどうかだ。
同性婚に反対する人たちの中には、「24条の両性が男女を指しているため、同性婚は認められない」と主張する人もいる。
現在全国5地裁で行われている同性婚訴訟でも、国は「両性は男女を表しており、同性婚の成立は想定されていない」という主張している。
しかし憲法学者の木村草太氏は、両性は「結婚は本人たちの合意のみでできるということを示すもので、同性カップルの結婚を否定するものではない」という考えを示している。
25日の質疑で衆議院法制局は、「憲法24条の規範内容は近代的家族観を超えるものであり、同性婚も憲法上認められるとの見解もある」という考えを東京大学の宍戸常寿教授らが示していることも紹介。
このような学説から、「憲法13条(個人の尊重と幸福追求権)や14条(法の下の平等)等の他の憲法条項を根拠として、同性婚の法制度化は憲法上の要請であるとするような考えなどは、いずれも十分に成り立ち得る」と述べた。
「通説である」→「通説であった」
委員会では、「同性婚は憲法で保障されていないという考え方が過去のものになっている」という見方も示された。
尾辻議員の質問に答えた国立国会図書館の専門調査員よると、代表的な憲法教科書「立憲主義と日本国憲法」の同性婚に関する記述は、この15年で変化している。
2005年刊行初版や2010年刊行第2版では、「結婚の自由については憲法24条が保障しているが、近年議論され始めた同性間の結婚まではカバーしていないというのが通説である」と書かれていた。
しかし2013年第3版では、その文章の後に「しかしヨーロッパ諸国やアメリカの州では、同性婚を認める例も増加してきている」という一文が加わったという。
さらに2017年第4版には、第3版で加わった文書の末尾にカッコ書きで「アメリカ合衆国最高裁は2015年6月26日判決で、同性婚を禁止した州法を違憲と判断した」という補足説明が付け加えられた。
そして最新の2020年第5版では、文言自体に変更があり「同性婚の結婚まではカバーしていないというのが通説である」の末尾が「通説であった」になったという。
「憲法は同性婚まで保障していない」という通説が、過去のものとして捉えられている表れと見ることができる。
実際過去20年の間に、オランダやアイルランドや、ニュージーランド、台湾、エクアドルなど、30近い世界の国と地域が、同性婚を法制化した。
25日の委員会でも、衆議院憲法審査会が「G7諸国で同性カップルへの法的保護がないのは日本だけだ」と回答した。
政府は「想定していない」繰り返す
「同性婚の法制度化は憲法上の要請」という考えが示されたものの、日本政府は「憲法は同性婚を想定していない」という説明を繰り返している。
25日の委員会で内閣法制局は、「憲法24条第1項は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立しと規定をしており、同性婚成立を認めることは想定されていない」「想定されていないので、同性婚を検討したことはない」と一貫して主張した。
「憲法は同性婚を禁止していると考えているのか?」という質問にも、「想定していない」と述べるだけで、禁止されていると考えているともいないとも述べなかった。
答弁に立った上川陽子法務大臣も、「政府は現時点で同性婚の導入を検討していないので、憲法に適合するかどうかの検討もしていない」と述べた。
同性同士の結婚を認める法律がないため、結婚できない多くのLGBTQ当事者が、法的保護を受けられない、パートナーと扱われないなどの不平等な扱いを受けている。
同性婚訴訟の原告の佐藤郁夫氏が2021年1月に脳出血で倒れて入院した時には、長年連れ添ったパートナーが病状説明を受けるのを病院から拒否された。佐藤氏は同月、結婚の望みが叶わないまま亡くなった。
尾辻氏は「こういうことが起こるからこそ、今日本政府は、本来同性婚を認める議論を始めなければいけない」「この間にも多くの当事者の方々が結婚ができないために、不利益を被っております」と訴えた。
そして「導入を検討していないということが、あまりに不作為(法律を制定する義務を怠っていること)だ」と強く批判した。
これに対して上川大臣は、思いに寄り添いたいと答えたものの、「同性婚を認めるか否かについて、このことについては我が国の家族のあり方の根幹に関わる問題で、極めて慎重に検討を要する」と答えるにとどめた。