「2022年までに再生可能エネルギー100%を目指します。」
ある有名IT企業が、事業活動がどれだけ温室効果ガスの排出・削減に寄与したかを集計する「炭素会計(カーボンアカウンティング)」を製品化し、提供すると発表した。ゼロ・カーボンに向けた取り組みを、社外にも広めていく狙いだ。
こうした、事業による環境に配慮した取り組み「サステナブル・ビジネス」は、世界のビジネス業界において重要なキーワードになっている。
2月19、20日に開催された「サステナブル・ブランド(SB)国際会議2020横浜」には、サステナブルでユニークな取り組みを行う多くの企業が国内外から集結。
これからサステナブル・ビジネスに取り組もうとしている企業のヒントにもなり得る取り組みを紹介しよう。
SB国際会議での一幕、「グローバル先進企業に学ぶサステナブル・ビジネスの実践法〜課題を乗り越えるための方策とは」と題されたセッションに登壇したのは、株式会社セールスフォース・ドットコム、フィリップ モリス ジャパン合同会社、ノボ ノルディスク ファーマ株式会社の3社。
「株主だけでなく、ステークホルダー全体の利益を考えています。環境は最も大きなステークホルダーです」。
こう話すのは、セールスフォース・ドットコムの遠藤理恵さん。
アメリカに本社を置く、顧客情報管理システム(CRM)大手の同社が創業時に目指したのは、ビジネスと社会貢献を両立させ、社会をよりよいものにしていく企業になるということ。
株主だけでなく、社員・サプライチェーン・NPO・地域コミュニティなども含めたステークホルダー全体の利益を考慮して、独自の社会貢献モデルや環境の取り組みを実施しながら成長している。
世界経済フォーラムの創設者であり、会長を務めるクラウス・シュワブ氏が提唱する、ステークホルダー全員の利益を重視するべきだとする「ステークホルダー・キャピタリズム(=ステークホルダー資本主義)」。株主の利益を考える資本主義から、広く社会を構成するステークホルダー全体の利益を考える新たなビジネスのあり方へのシフトを、同社はまさに創業当初から掲げているのだ。
世界最大のたばこメーカー「フィリップ・モリス インターナショナル」の日本法人である「フィリップ・モリス ジャパン」。同社のサステナブル・ビジネスの取り組みは、「自社製品の害と向き合う」ことからスタートした。
紙巻たばこが持つ健康への害、そして生産活動で生じる環境への害を1日でも早く解決するために同社が掲げたのが、「紙巻たばこからの撤退」という目標。
「加熱式たばこの研究開発は、紙巻たばこを燃やすことで出る有害物質を減らすため、そして喫煙者によりサステナブルな選択肢を提供するために、私たちができることの一つ」と、同社の濱中祥子さん。自社製品の害と向き合うという「自己否定」により、イノベーションを生み出した手法だ。
デンマークに本社を置くグローバル製薬企業のノボ ノルディスク ファーマのサイモン・コリアさんは「デンマークが環境先進国ということもあり、当社は創業時から財務や社会、環境に対する責任を果たすことが長期的な繁栄のための基本原則である、という“トリプルボトムライン”に沿った事業活動を展開してきた」と同社のサステナブル・ビジネスを紹介。
その中でも、環境に対しては「全事業活動における環境に与える負の影響をゼロにする」という大胆かつシンプルな目標を掲げており、自らハードルを上げ、そのゴールに到達するために必要な事業のあり方を模索してきた。
同社は、生産拠点やオフィス、研究所で使用する電力の再生可能エネルギーへの移行、環境に優しい製品の再設計、そして環境への影響をゼロにするという目標をステークホルダーと共有して取り組んでおり、社内外を巻き込んでゴールに到達しようとしている。
「サステナブル・ビジネスの取り組みには3つのアプローチがある。自らハードルを上げてそこに到達をする、創造的な自己否定によりイノベーションを起こす、そして、達成したい目的を明示して行動するパーパス・ドリブン」。
こう話すのは、ファリシテーターを務めた一般社団法人NELISのピーター D. ピーダーセン代表理事。
「今や全世界に88億人の消費者がいる。各社のリソースや得意分野に合わせた、三者三様のサステナブル・ビジネスが存在することが必要」とセッションを結んだ。
「インパクトを出し、社会から求められる企業に」
セッション後、セールスフォース ・ドットコムのサステナビリティ戦略をリードする同社執行役員の遠藤理恵さんに話を聞いた。
── セッションは超満員でした。サステナブル・ビジネスへの注目を感じますね
遠藤さん(以下、遠藤) セールスフォース・ドットコムは「ビジネスこそが世界を変えるプラットフォーム」であるとして、創業当初よりビジネスと社会貢献を統合して、ステークホルダー全体の利益を考えながらビジネスを成長させてきました。
私たちが大切にしている4つのコアバリュー(行動規範)が、信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、そして平等。これらが当社のビジネスを導いていることはもちろん、ステークホルダーエンゲージメント戦略の礎にもなっていますし、「平等」は、「誰一人取り残さない」世界の実現を目指すSDGsとまさに同じ方向を向いています。
── 日本国内でも、サステナブルに対する意識が高まっています
遠藤 昨年9月にニューヨークで開催された国連気候行動サミットやClimate Week(気候ウィーク)では、現在の状況を「気候変動」どころか「気候危機」であるとして、今後10年で世界中がパートナーシップを組み、具体的なアクションを実現させていくことの重要性について共通認識を持ちました。日本企業も多く参加しており、気づきや学びを持ち帰ってきたことと思います。
低炭素から脱炭素へ、国も企業もシフトしていくために、私たちはテクノロジーでいかに貢献できるかを考えています。具体的には、カーボンニュートラル、つまり排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量になるクラウドを提供し、2022年までにを再生エネルギー100%を目指しています。
さらに、脱炭素に向けて取り組む企業・団体向けのソリューション「Sustainability Cloud」も開発しました。カーボンアカウンティング(炭素会計)ソリューションです。温室効果ガス排出量データを追跡・分析・報告することで脱炭素化に向けた迅速な判断・アクションをサポートするもので、日本語版のリリースに向けて準備しています。
── 今後、企業とサステナビリティの関係はどのように変化していくのでしょうか
遠藤 ステークホルダー資本主義の考え方がさらに多くの企業に取り入れられるようになり、SDGsのゴール達成に向けた動きとともに、企業は社会全体のニーズを把握しながらサステナブルなイノベーションを起こしていくのではないでしょうか。その際に大切なのは、企業の文化・価値観にしっかりと根付かせること。インパクトをしっかりと出していくことで、社会から求められる企業になっていくと思います。
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企業の成長のために欠かせない要素となっているサステナブル・ビジネスの視点。
これから取り組もうとしている企業も、さらなるサステナビリティを追求する企業も、これらのユニークな取り組みをぜひ参考にしてみてはどうだろうか。