子供の頃の思い出の味がなくなってしまう……。そう悲しんでいる方も多いのではないだろうか。
「サクマ式ドロップス」の製造元である佐久間製菓が2023年1月20日に廃業することになったからだ。東京商工リサーチの11月9日の記事によると、他のヒット商品がなかったほか、コロナ禍で需要が減っていたことが背景にあるようだ。
しかし、悲しむのはまだ早い。あなたが子供の頃にスーパーや駄菓子屋で買って食べていた「ドロップ」は、本当に「サクマ式ドロップス」だっただろうか。
カラフルな果汁入りキャンディーが缶などに入ったいわゆる「ドロップ」は、「サクマ式ドロップス」と「サクマドロップス」があるのだ。よく似た名前だが、赤い缶が、廃業する佐久間製菓の「サクマ式ドロップス」。一方、緑の缶がサクマ製菓の「サクマドロップス」だ。つまり赤い缶はなくなる可能性が高いが、緑の缶は今後も続く見込みだ。
一体、なんでこんな分かりにくいことになったのか。その歴史的な経緯を解説しよう。
■明治時代に生まれたサクマ式ドロップス。『火垂るの墓』にも登場していた
「サクマ式ドロップス」を製造する佐久間製菓の公式サイトなどによると、それはこんな経緯だった。
もともと両者の源流は、千葉県出身の和菓子職人、佐久間惣治郎さんだった。佐久間さんは明治41年(1908年)に国産初のドロップ製造に成功。特許庁より「サクマ式ドロップス」の登録商標が認められたという。佐久間製菓を創業して販売したことで「サクマ式ドロップス」は大人気となり、佐久間さんは「ドロップス王」とまで呼ばれるようになったという。
佐久間製菓の公式サイトによると、戦前の時期に売られていたのは赤い缶だったようだ。スタジオジブリのアニメ映画『火垂るの墓』でも、「サクマ式ドロップス」として赤い缶が描かれていた。
■戦時中に廃業、戦後に関係者が別々に後継企業を立ち上げていた
佐久間製菓は、太平洋戦争末期の企業整備令で廃業に追い込まれる。戦後まもなく、関係者が別々にドロップ製造会社を復活させたことで混乱が生じることになった。
実業家の横倉信之助さんが佐久間製菓を立ち上げた一方で、廃業時の社長の三男、山田隆重さんがサクマ製菓を創業した。「サクマ式ドロップス」の商標をめぐって両社で裁判になったが、後に和解。佐久間製菓が戦前と同じ赤い缶の「サクマ式ドロップス」。サクマ製菓が緑の缶の「サクマドロップス」を販売することになった。
■ドロップの味は「変わらない」ものの、ブドウとチョコがあるのは赤い「サクマ式」だけ
いずれも8種類だが、赤いサクマ式に入っているブドウとチョコが、緑のサクマにはない。代わりにスモモとメロンが入っている。
サクマ式ドロップス(佐久間製菓)
リンゴ、オレンジ、イチゴ、レモン、パイン、ハッカ、ブドウ、チョコ
サクマドロップス(サクマ製菓)
リンゴ、オレンジ、イチゴ、レモン、パイン、ハッカ、スモモ、メロン
■存続するサクマ製菓の公式サイトまでアクセス困難に。「社名や商品名が似ているため、お客様に混乱を与えてしまった」とツイート
スポニチなどによると、佐久間製菓の廃業報道を受けて、緑の缶のサクマ製菓の公式サイトまで一時アクセスしづらい状態となった。
サクマ製菓は「佐久間製菓の廃業に関する影響はなく、通常通りキャンディー製造を続けている」と東京商工リサーチにコメントしている。
また11月9日には公式Twitterで、「社名や商品名が似ているため、お客様に混乱を与えてしまっているかと思いますが、引き続き精進して参りますので、何卒変わらぬお引き立てを賜りますよう、お願い申し上げます」と消費者に呼びかけている。
【参考資料】
・朝日新聞2010年4月24日朝刊 (サザエさんをさがして)ドロップ缶 思い出のカランカラン
・毎日新聞2019年3月24日朝刊 (もう一度食べたい)缶入りドロップス カランコロンに聞いた希望