机では解けない問題がある

最近、大手の会社経営者がランニングを習慣にしているとか、ランニング中に良いアイデアが浮かんだとかいう話をよく耳にする。

どうしても解けない問題に直面したとき、皆さんはどうしているだろうか?

ある日、仕事でどうしても前に進めなくなってしまった。頭をフル回転させても、結局よいアイデアが浮かばず、堂々巡り。普段から、どうしようかと悩み始めると、考え込み過ぎてドツボにハマるタイプだった。納得いくまでじーっと考えたくなるくせに、その答えに辿り着く前に私の脳はすぐにオーバーヒートする。

そんなとき、ある女性ランナーの言葉をふと思い出した。

以前ランニングタウンで紹介をしたデザイン会社経営の大竹明子さんの言葉だ。

―「ランニングを始める前は疲れたら寝るという生活でしたが、今は疲れたら走りたいと思うようになりました。普通は、走ることは疲れるのだけど、リフレッシュできるので少しでも走るようにしています。仕事で行き詰まったときに走ると良いアイデアが浮かぶこともあります」―

大竹さんのいう「疲れたら寝る」に共感できる人が大半だろう。

しかも、大竹さんは子どもの頃から体育嫌いで走ることは苦痛以外の何物でもなかったという。その彼女が「今は疲れたら走りたいと思うようになった」とまで言うのだ。

私は昔から体育が一番好きで、社会人になってからもしばらくの間、ランニングは続けていた。しかし、仕事をしていると「やらなければならないことがたくさんあるのに、のん気に走っている場合ではない」という罪悪感と、走った後の睡魔に勝てない弱点からランニングから遠ざかってしまった。

頭では良いとは分かっているけどできない。よくある自分を正当化させようとする「やらない言い訳」パターンだ。しかし、目の前の仕事の期日はとうに過ぎている。これ以上考え込んでいる訳にはいかない。

『ここは試しにやってみようか』

ものは試しだ。早速、翌朝、走ってみることにした。まず空気が清々しい。つい夜型生活をしてしまう私にとって、朝の空気はとても気持ちがよいものだった。運動不足から、5分走っただけで20分くらい走った気分になってしまい、そこからはゆっくり走ったり、歩いたり。すると、滞っていた血液が全身に巡ってくるのを感じた。きっと、脳にも新鮮な酸素を含んだ血液が届いたに違いない。自然と、頭が冴えた気分になった。

最近、大手の会社経営者がランニングを習慣にしているとか、ランニング中に良いアイデアが浮かんだとかいう話をよく耳にする。元々そういう発想ができる人だからだろう、と疑ってしまいたくなるが、調べてみると、それには確かに科学的根拠が存在する。

最大心拍数の60~70%強度のランニングを実施した後は、脳の判断速度や認識の柔軟性が向上する、ということが実験により実証されている。

同様に、子どもに対する実験でも、ランニングが脳に及ぼす影響は実証されていた。ある実験では、子どもの肥満と学業成績の低下が問題となったアメリカの中学校で「0時限体育」(始業前にグランドを走る)や「長距離走を取り入れた体育授業」を毎日実施したところ、有酸素運動能力の向上、BMI(肥満度を表す体格指数)の低下のみならず、学業成績の向上、暴力・懲罰事件の減少も顕著にみられたというから驚く。だが、なんとなく納得できる気がする。

走ることで脳が活性化されると、感覚が研ぎ澄まされ、集中力も増し、常に元気が湧くようになるという。その結果、学業成績が飛躍的に向上し、自信を持ち、コミュニケーションも上手にとれるようになり、暴力・懲罰事件も減少したそうだ。嘘みたいな本当の話が実在している。

これは、人生や仕事場という大きな教室にいる我々大人にも同じことがいえるのではないだろうか。

運動は、単に気持ちがリフレッシュされるだけでなく、細胞レベルで学習に直接影響し、新しい情報を記録し分析する脳の機能を高めることが期待できるのである。

さて、実際に走ってみた私がどうだったかというと...

良い仕事に繋がったかどうかは上司やお客様に判断を委ねるが、前進できたことは確かだった。走っているうちに、今まで良かれと固執していた考えから離れて、全く別の視点からその仕事の糸口を見つけることができたからだ。やっぱり本当だった。

机では解決できない問題に直面したとき、頭だけではなく、全身で取り掛かってみるといい。その手段として、ランニングやウォーキングは一人でもできるので手軽でおすすめ。

仕事や勉強などで行き詰まったときは、だまされたと思って、一歩外へ出て走ってみてはいかがだろう。もちろん、職場から逃亡しない範囲で(笑)。

脳が喜んで動き出す感覚にきっと驚くはずだ。

昼休みにランニングをして午後の会議に出たら、会議の主役はあなたかもしれない。