ボート競技(漕艇、rowing) は異常にキツい。
今まで色んなスポーツをやってきたがボートは異常だ。
「水上の2000mかけっこ」
と言えば非常に爽やかなスポーツだが、レース後は
「もう二度と漕ぎたくない」と思う。
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予選、準決勝、決勝とあり、決勝をfinalというが、
ボート競技のfinalとは「決勝」という意味じゃなくて
「最期」って意味なんだと思う。
そしてレース時間は6分程度だが、なぜか練習は100分間ぐらい漕ぎ続ける。最大心拍数の9割ぐらいを。
サッカーやバスケのように技術練習が途中で挟まれることは滅多にない。基本漕ぎ続け。
「レース6分なんだから100分も漕ぐ必要あるのか?だから日本弱いんじゃないのか?」
と思っていたが、
今年からシドニー五輪金メダリストのフランス人コーチが指導に加わってくれ、
そうした練習量が残念ながら世界標準だと知った。
1回の練習で1000kcal以上消費し、
市販されている回復時間を計測してくれる時計には
「1日以上休みましょう」と出る。残念ながら6時間後には午後練だ。
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我慢、我慢、我慢のスポーツ。
そう思っていた。
我慢すれば世界一になれると。
世界一我慢すれば世界一になれるとそう思っていた。
でも違った。違った。
フランスの金メダリストコーチは言う。
「no pressure, take pleasure. to win, you must take pleasure」
つまりは、「楽しめ、楽しまんかったら勝てんぞ」
という意味だと思う。
アスリートに「我慢」は当たり前だと思っていた。
永遠に続く練習、「1日オフ?何それ?」状態、体重制限、消灯、門限。
どんな困難・苦難にも我慢ができるかどうか、それが選手の成長の可否だと思っていただけに、
「楽しまないと勝てない」という言葉は衝撃だった。
我慢せざるを得ないように会社辞めたり、いろんな事を捨てた自分にとって、
特に衝撃的だった。
今の日本は「楽しそうに」すると怒られそうだ。
漕いでる時に笑顔だと、
「自分を追い込んでいない」
「練習が軽いんじゃないのか」
「ちゃんとやってればそんな余裕はないはずだ」と。
練習後、今にも死にそうな顔をしている選手は「よく頑張った」とほめられ、
練習後は、ニコニコしてる選手は、「もう一回やってこい」と言われそうな雰囲気だ。
「仕事が楽しいわけがない」って色んな人から聞くように。
実際どうなんだろうか。
世界選手権で優勝する人たちを見ても、みんな楽しそうだし、すごいボートと寄り添っている。
国内でも、マラソン高橋尚子選手の「すごく楽しい42kmでした」という言葉の意味もそういう意味なのかもしれない。
「我慢」が足りてなかったんじゃなくて
「楽しむ」ことができてなかったのかもしれない。
我慢は創意工夫を生まない。耐えるだけ。
できたらできた、できなかったら自己否定すればそれで済む。
「楽しむ」は難しい。異常にキツいスポーツを「楽しむ」。そこに創意工夫、発想が生まれ、世界一に繋がるんじゃないか。今はそう思っている。
成功のために「我慢」ではなく、
成功のために「楽しむ」。
一見矛盾しているこの言葉を、ちゃんと体現できたらもうちょっと頂点に近づけるのではないかと思い、
一生懸命「楽しむ」ことを頑張ろうと思う。
そしてもっと楽しそうに漕ぐ選手が日本にたくさん増えるといいな。
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中野紘志(なかのひろし)、現ボート日本代表。
4月に行われたアジア大陸予選でリオ五輪の出場権を獲得。種目は軽量級ダブルスカル。
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