外国人から回避されつつある日本。“現代の奴隷“が生み出されてしまう原因とは?

欧州や他のアジア諸国の人気が高まる中、働く場所としての日本が選ばれなくなる未来が近くまで来ている。
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世界的な新型コロナウイルス危機の中、サプライチェーンの分断や機能不全が危惧されている。多国籍企業はその影響を踏まえ、取引先(以下、サプライヤー)との取引の保証や、事業継続に向けた対策をとりはじめた。とくに影響を受けやすい脆弱な人々の存在を把握し、保護するといった責任ある行動が、企業の事業継続、ひいてはそこで働き、また製品を購入する私たちの生活にとっても重要だ。

国内に目を向けると、外国人労働者がまさにその影響を受けやすい人々だ。厚生労働省によると、日本の外国人労働者数は2019年10月時点で166万人と過去最高を記録した。一方で、2019年4月に新たな在留資格である「特定技能」が創設されて1年が経つが、受け入れ数は当初想定された10分の1にとどまっている。特に人手不足に陥る繊維産業や建設産業、食品産業など人手を多く要する産業における外国人に対する不当な扱いは現代奴隷や強制労働にあたるとして国内外で問題視されている。

企業の持続可能なサプライチェーン推進の観点からみると、外国人労働者の受け入れを適正なプロセスで行うとともに、自社および取引先(以下、サプライチェーン)でいかに生きがいを感じて働いてもらえる環境を構築できるかが重要となる。

サプライチェーンにおける外国人労働者の問題とその原因

外国人労働者が強制労働のリスクに晒されやすいのはなぜだろうか。まず、外国人であるがゆえに社会的・経済的差別を職場で受けやすいこと。そして、国境をまたがる移民経路(コリドー)が複雑であり、それ故に関与する機関が多岐にわたること。求職者(労働者)の立場が弱く情報へのアクセスも限られていることが理由として考えられる。

一つ目の社会的・経済的差別は、外国人労働者に対する不当な扱いを引き起こす。長時間労働や法外な低賃金での就労については、企業がサプライチェーン上でこうした問題が発生しないよう、労働環境のモニタリングに取り組むのが一般的だ。外国人労働者については、パスポートの没収や来日のために背負わざるを得ない多額の借金や保証金の徴収がないかなどにも注意する必要がある。

外国人労働者に関わる問題の解決を難しくしているのは、残り二つの原因からである。特に移民経路での問題を解決しようと考えたときに問題となるのが、「仲介機関の不正行為」。外国人労働者を受け入れる際に企業は、「同業他社から紹介された」「労働力不足を補えると直接営業に来たから」などの理由で、受入監理団体などの仲介機関を適切に選定、精査せずに契約することが多く、仲介機関の不正行為が発覚せずに野放しになることがままある。仲介機関は、労働者から過剰な手数料や保証金を徴収するなど、直接的に問題を引き起こす場合がある。また、海外の送出機関から国内の仲介機関へ支払われる営業接待費が、労働者の手数料に転嫁されるといった間接的な問題も関わっている。

注意しなければならないのは、こうした問題が、各企業の人権侵害のリスクだけにとどまらないことである。労働力の確保の悪化という形で日本全体に長期的な影響を与える可能性があるからだ。

実際、われわれの調査では、あるベトナムの送出機関は日本への送出しの近況について「特に縫製業界と建設業界については人気がなくなってきており、応募が少なくなっている」と述べている。働き先として日本を嫌厭する傾向が高まりつつある。さらに、賃金だけでなく「手続きに関するサポートの手厚さや商習慣、社会インフラや社会保障、福利厚生の手厚さ」といった理由で渡航先を選ぶ外国人が増えているため、欧州や他のアジア諸国の人気も高まっているという。このままでは、働く場所として日本という国が選ばれなくなってしまう。そんな未来が近くまで来ているのである。

課題解決に向けたイニシアチブ

この問題に対し、筆者の所属するNGO一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(以下、ASSC)は、「外国人労働者協議会(ラウンドテーブル)」(以下、協議会)を2018年10月に創設した。本協議会は、日本における外国人労働者の受入れに関わる特有の問題に対応しつつ、日本企業の取り組みを世界に誇れる水準まで引き上げることを目指す日本発のイニシアチブとして、①国際的な基準と日本の制度のずれ(ギャップ)を整理すること、②企業が国際的な基準を遵守するための指針を明らかにすること、そして③当指針に基づく共通の理解と目標を関係する諸団体と設定し、これらと協力しながら企業の実践を後押しすることに取り組んできた。

協議会では、日本の大企業を中心に、政府関係者、NPO/NGO、研究機関、学生など多様な関係者が参加。顔を突き合わせて、上述した問題を共有しつつ、それぞれの立場での見解や解決に向けたアクションの必要性を議論してきた。

また、2019年5月に実施したベトナムとミャンマーでの現地視察ツアーでは、外国人の送出機関で日本語を学ぶ外国人の様子を見たり、現地政府や送出機関経営者にこの問題に対する考えを聞いた(詳細は報告書を参照)。

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 私が見た、現地で日本への渡航を待つ外国人の方々は、皆一生懸命に机に向かって日本語を学び、日本への渡航、そして働くことを夢見ていた。彼らが数ヶ月後にたどり着く“日本”は、彼らの目にどのように映るだろうか――。こうした海外の若者が、日本で夢を満足に追うことのできる環境をつくることは、受け入れ国の社会の一個人として、大切なことだと改めて感じた。

2019年7月には、活動を加速させるべく企業分科会を発足し、参加した約10社の企業とともに、大手企業が自社のサプライチェーン上の企業にどのようにしてポジティブな影響を生み出すことができるか、具体的なアクションについて検討を重ねた。議論の中では、サプライヤーの協力をどのように得られるか、国際基準と国内の制度とのギャップをどのように表現するかといった、現場でいかにして活用するかという現実的な視点で何度も話し合った。

「外国人労働者の責任ある受入れに関する東京宣言2020」

目指すべき外国人労働者の受け入れのあり方を示すため、ASSCは4月1日、日本における「外国人労働者の責任ある受入れに関する東京宣言2020」(通称「ASSC東京宣言2020」)を発表した。本宣言は、日本で働く外国人労働者がいきいきと働ける環境を整備するための13要件をまとめたものである。法的な拘束力もなければ、これに賛同した組織に対して課される条件などもないが、企業は、これをサプライチェーン上の外国人労働者への配慮に対する姿勢を示し、現状をより良く変えて行くための指針として活用することができる。宣言には「外国人労働者に採用手数料および関連する費用を負担させないこと」「身分証明書等がいかなる場合も労働者本人が管理可能であること」「外国人労働者の自由意思による転職、退職が尊重されること」などが含まれている。

本宣言は「責任ある移民労働者の雇用」に関する国際的な規範とされる、ダッカ原則や国際移住機関、国際労働機関等の提唱する各種ガイドラインを参照した。日本における外国人労働者の受け入れに関する諸制度を踏まえつつ、国際基準に最大限準拠するよう考慮している。

本宣言に沿った取り組みを推進する上でのポイントになるのは、①ビジョンの共有、②影響力の創出、③各組織へのエンパワーメントである。

ASSCは外国人労働者ラウンドテーブルと東京宣言の発表を「ビジョンの共有」と位置付け、今後は目標を共有する企業や政府機関、NPO/NGOと協力して、社会的な影響力を高めると同時に、本宣言に取り組む企業を後押しするためのアクションを起こしていこうと考えている。具体的には、外国人労働者ラウンドテーブルの一環として、日本国内の仲介機関(受入監理団体など)を対象としたイニシアチブの発足や、企業のサプライチェーン上の労働者の声を拾い上げ、よりよい労働環境の創出につなげるための「ASSCワーカーズ・ボイス」の展開を予定している。宣言には、すでにトヨタ自動車やアシックス、ミキハウスといった企業のほか、海外の送出機関からも賛同表明がある。

外国人労働者のより良い受け入れ環境をいかにして整備するかというテーマは、国際社会の目指す持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた重要な取り組みである。労働力不足が叫ばれて久しい日本は、移民の受け入れこそ公に認めていないものの、実際には私たちの生活は多くの外国人の働きに支えられている。コンビニやそこで売られる食品、その原材料が作られる農家や漁場、あるいは日本製の衣服を作る工場、すでに生活の中で共存しているのである。受け入れ環境の整備は、日本が「世界の働く人々から選ばれる国」になるために欠かせないものである。そのためには多様な角度からより良い解を導き出し、実行していくことが求められる。企業だけでなく、日本社会全体で考えていく必要がある。

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