持続可能な社会に向けた取り組みが進む現在、さまざまな領域で循環型(サーキュラー)構造の実現に向けたイノベーションが生まれている。
ファッション領域においては「アップサイクル」という言葉も耳にする機会が増えるなか、大丸松坂屋百貨店が運営するファッションサブスクリプションサービス 「AnotherADdress」は、2月14日(金)〜16日(日)の期間で開催されたクリエイションの祭典 「NEW ENERGY TOKYO」にブースを出展。15日には会場内で衣類アップサイクルコンテスト「roop Award 2024-2025」を実施した。
アワードでは環境副大臣や同事業の事業責任者に加え、デザイナー・アーティストの篠原ともえさんや、女優の長谷川京子さんなどの豪華な面々が審査員を務め、ファイナリスト20人の中から受賞者を決定した。イベント及び、授賞式の様子を一部レポートする。
アップサイクルとは?リサイクルとの違いや注目背景
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日本最大規模のアップサイクルファッションコンテストである 「roop Award」には、「廃棄を減らす」「需要が伸びる」「技術を継承する」という3つのメッセージが込められている。
アップサイクルとは、リサイクルのように製品を「原料」に戻して資源として再利用するのではなく、元の製品をそのまま「素材」として活かす手法だ。これによって廃棄物の焼却や埋め立てを避けられるメリットはもちろん、カルチャーやアート領域において、ものづくりや環境保全におけるストーリーを通じて生活者に呼びかける装置として高い注目を集めている。
会場には「AnotherADdress」が展開するアップサイクルの取り組みやアップサイクル衣類の作成過程について学べるブースやアップサイクル衣類の展示ブース、端切れを使用した缶バッジ作成や実践型ワークショップなど、ファッションの未来を親子で楽しめる参加型コンテンツも展開された。
慈しんで、向き合って、未来につなぐ
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コンテストには、全国から94人のデザイナーによる450着のアップサイクル作品がエントリー。篠原ともえさんや、女優の長谷川京子さんなど、多様な領域の豪華な面々が審査員を務めた。
15日に行われた授賞式では、事前に特設サイトとInstagramにおいて投票数を多く獲得した上位者と審査委員会が推薦したファイナリスト(プロ部門と学生・アマチュア部門、それぞれ10人)がランウェイで作品を披露し、審査員が入賞者を決定した。評価基準は「デザイン性」「オリジナリティ」「完成度」「コンセプト(素材のストーリー解釈)」の4項目だ。
環境副大臣の小林史明さんはメッセージビデオを通じて「ファッションを楽しみながらサステナビリティに貢献できることが素晴らしいと思います。デザイナーをはじめとした方々の力を借りて付加価値を上げていくことで、ループを広げていきたいです。また、環境や循環経済についても考える機会にしてくれたら嬉しいです」とコメントし、会場の士気を高めた。
事前に作品を見学したというAnotherADdress 事業責任者の田端竜也さんは「本当に素晴らしい作品ばかりで、心から感動しました。本日はサステナブルとファッションが融合した形を体感していただけますと幸いです」と話し、作品紹介を兼ねたファッションショーが幕を切った。
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ファッションショーでは、デザイナーの個性や遊び心が凝縮した作品が次々とランウェイを彩った。
スペシャルゲストのお笑い芸人のくっきー!さんがビデオメッセージを寄せ、大阪文化服装学院の学生とコラボした作品が登場するサプライズもあり、あっという間にショーが終わると、審査員席からは「どれも素敵で選ぶのが難しい」という声が上がり、審査員同士が顔を見合わせる場面も見られた。
デザイナー・広川玉枝さんは「どれも素晴らしく独創的でした。私自身も今あるものに向き合って解体して作ることの難しさは実感しています。アップサイクルとは、その難しさとそれぞれの視点で向き合って、目の前にある物を慈しんで、丁寧に向き合って、未来につなげていく行為なのだと感じました。前向きな気持ちになり、とても学びになりました」とコメント。
ファッションジャーナリスト・向千鶴さんは「とても楽しかったです。誰かが着ていた服から新しいものが生み出される瞬間がこんなにも力強いのか、ワクワクするものなのかと感じました。サステナビリティや脱炭素をはじめ、環境課題と向き合いアクションする上での1つの方法を示してくれた意味のあるイベントだと感じます」と賛辞を送った。
総合グランプリに輝いた、妊娠経験に基づくデザイン作品
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審査を経て、総合グランプリに輝いたのは、プロ部門の播磨マイアさん(ブランド名:Maia Harima)。アワードにエントリーした「second skin」は、播磨さん自身の妊娠経験を基に誕生した「抱擁されるような着心地」を追求したシリーズだ。リサイクルポリエステル製の詰め物「Air Flake」を活用し、丁寧かつ正確な編み込みから織りなされる包容感を追求している。
播磨さんは「日本に来て5年間、ずっとアップサイクルの活動をしてきました。素敵なデザイナーさんが沢山いらっしゃるなかから選んでいただき、とても嬉しいです」と満面の笑みを浮かべた。
審査結果について、篠原さんは「審査はすごく接戦で、皆さんと時間が押してしまうほどの議論を交わしました。マイアさんの作品は審査における4項目のうち、オリジナリティとサステナビリティ、そしてご自身の経験に基づくストーリーが特に明確でした。SNSを拝見して、マイアさんがご自身のお子さんを抱っこしながら細かな作業や素材に向き合っている姿が印象に残っています」とコメントし、大きな拍手を贈った。
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授賞式を振り返り、長谷川さんは「元々あった服のストーリーにさらに息吹がかけられて、以前の服以上に素敵に変身したりもするのだと感動しました。仕事柄、色々な服を着る機会の多い私ですが、着なくなった服への次の選択肢が限られていることに課題を感じていました。今日はまた1つ、新しいアイデアをいただき、本当に楽しかったです」とコメントし、参加者全員に拍手を贈った。
最後に、大丸松坂屋百貨店 代表取締役社長・宗森耕二さんは「着なくなった服を提供してくださった皆様、そこに新しい価値を生んでくださったデザイナーの皆様、そして協力してくださった大阪文化服装学院の皆様に感謝申し上げます。今日の授賞式を通じて、Roopの取り組みが『想いを循環させるもの』だと確信しました。『服』『デザイナー』『お客さまの思い』という3つを循環させることが、私たちの仕事だと改めて感じました」と謝辞を述べ、イベントを締め括った。
受賞結果は以下。
総合グランプリ
デザイナーネーム:播磨 マイア
ブランドネーム:Maia Harima(マイア ハリマ)
部門グランプリ
デザイナーネーム:宮川 一葉(大阪モード学園)
ブランドネーム:KAZUHA(カズハ)
プロフェッショナル部門 準グランプリ
デザイナーネーム:非公表
ブランドネーム:BODYSONG.(ボディソング)
学生/アマチュア部門 準グランプリ
デザイナーネーム:TackT(Sho konichi Design Lab)
ブランドネーム:TACKT(タクト)
プロフェッショナル部門 特別賞
デザイナーネーム:野田 洋平
ブランドネーム:AN YO TAILOR(アンヨーテイラー)
学生/アマチュア部門 特別賞
デザイナーネーム:若林 唯(文化服装学院)
ブランドネーム:yui wakabayashi(ユイ ワカバヤシ)