子どもの教育が世界を変えるーー。この信念で活動する認定NPO法人「ルーム・トゥ・リード・ジャパン」は、2020年に日本での活動が10周年を迎える。
日本の事務局長を務める松丸佳穂さんは、自身が「本に世界を広げてもらった」経験から、活動に携わってきたという。
みんな価値があり、みんな可能性を秘めているーー。活動を通じて、日本の次世代にも伝えたい思いを聞いた。
女の子が直面する壁
「ルーム・トゥ・リード」は、「本を読む部屋」の意味を持つ国際NGOで、2000年の設立以降、アジア・アフリカなど世界16ヶ国で1660万人の子どもたちの教育をサポートしてきた。日本法人は2010年に設立された。
「すべての子ども達が質の高い教育を受け、自らの可能性を広げ、コミュニティや世界に貢献することができる」ことを目指し、識字教育と女子教育に力を入れている。
文字を学ぶ上で、小学校1、2年生は非常に重要な時期であるとして、識字教育プログラムでは、初等教育におけるアプローチを重視。支援先で不足している現地の言葉で書かれた本の出版や教材の開発、教師の育成、図書室の設立に取り組んでいる。
本の出版や教材開発では、現地のイラストレーターと作家を育成し、現地の文化や伝承も採り入れながら本を作っていく。これまでに1600タイトル以上の本を出版してきた。
これらの支援に携わるのは、現地採用の職員たちだ。松丸さんは「文化や風習を分かっている人が携わることが重要なんです。文化が違えば、子どもたちが直面する『壁』にも違いがあります。経済的な問題だけではなく、学校と家の距離が遠すぎる、子どもに求められる家事の量が多くて学校に行けない…など、様々な壁があります」と話す。
特に女子教育プログラムを通じて、松丸さんは「女の子が直面する壁」を実感してきた。
少女達が、困難な場面でも自分で決断できるように
例えば、児童婚の風習がある地域では、女の子が学校に行くことについて親への説得が必要であったり、通学路の安全性が低くて女の子の移動が制限されていたりする現状もある。女子教育プログラムでは高校卒業を目標に、奨学金を出すだけではなく、女の子たちの精神面を支える女性のメンターも派遣している。
また、少女達が勉強を続けられ、困難な場面でも自分で決断をできるようになるための「ライフスキル」のワークショップも行っている。安全な空間とは何か、お金の使い方、SNSで自分の身を守る方法、自分と対話し意思決定すること、まだ結婚したくない時に親と交渉する方法ーー。
「女の子の人生には分かれ道がある。高校まで卒業することは、とても大変なことです。自分自身で強い意志をもって、そのチャンスをつかみ取り続けないと高校卒業までいけないという現実があります」
そうやって大学進学までたどりついたプログラム卒業生たちに会う時、松丸さんは心が震えるような感情を抱くという。
「努力を重ねた末、大学に進学した子どもたちは、もちろん自分自身の努力もありますが、多くのサポートやチャンスを得て、今の自分があることをよく分かっています。それだけに、惜しみない感謝の気持ちを持っています。
そして、感謝の気持ちを持つ子どもたちは、『何かを返していこう』という希望を抱いています。『この子たちは将来、何かをやってくれる』と思わずにはいられません。プログラムが機能していることも実感できる瞬間です」
私たちに、何ができる?
ルーム・トゥ・リードの活動は、持続可能な社会を実現するための国際目標「SDGs」における「4:質の高い教育をみんなに」「5:ジェンダー平等を実現しよう」に直接的に関わっている。また、「1:貧困をなくそう」「10:人や国の不平等をなくそう」などとも関係がある。
「受け取ってきたものを返していくことが、私たち世代の責任だと思っています」と語る松丸さん。一方で、活動に対して、「日本にも貧困があるのに…」といった声が聞こえてくることもあるという。
「どちらの問題も取り組むことが大事だと思います。私は海外で育ち、日本語の本や漫画が大好きだったこともあり、この活動に携わっています。その人、その人が自分の人生の中で出会った問題に取り組んでいけば良いのだと思っています。一つにしぼる必要もないと思います」
ルーム・トゥ・リード・ジャパンでは、募金につながるイベントやキャンペーンなども催している。12月は、クリスマスに「教育のギフト」を世界中の子どもたちに送ろうと、Action for Educationを行っている。日本発の参加型のキャンペーンで、寄付を通じての支援だけではなく、個人が様々なチャレンジを行ってそれに対して寄付を募るというユニークな取り組みだ。
日本でボランティアなどとして参加する人の中には、プロボノ(専門知識を生かして取り組む社会貢献活動のこと)として携わる若手のコンサルタントや弁護士がいたり、オフィスでの事務局業務を得意とする主婦、チャリティイベントを開催する会社員、学校で講演活動をする学生インターンがいたりする。
「お互いの素晴らしさ、みんなに価値があることを実感します。互いに得意なことをお願いしあって運営して行けばいいし、社会も色んな人のサポート、支え合いで成り立っていると感じています」
本が世界を広げてくれた
松丸さんは、2010年にルーム・トゥ・リード初の日本人職員として採用され、日本事務所の立ち上げから携わってきた。
根底にあるのが、自身の世界を広げてくれたのが「読むこと」だった、という思いだ。
ヨーロッパで幼少期を過ごし、多感な時期に「本に支えられた」という。
「本を通して、自分の内面と対話をしてきました。本からは、私は誰とも違うし、ゆえに他者が大事にしていることを私も尊重しないといけないということを学びました。本が世界を広げてくれました」
現在の活動では、インターンの学生ら若い世代と交流する機会も多い。
「私の若い時と比べて、今の学生さんたちは社会課題に敏感で、女子教育などへの関心が高く、質問も多くてうれしいです。『みんな価値があり、みんな可能性を秘めている』。そのことを日本の若い世代にも感じて欲しいと思っています」