女子高生クライマー白石阿島さん、未知の世界へ

ロッククライマーとして世界中から注目を集める女子高生がいる。白石阿島(しらいし・あしま)さん。日本語よりも英語のほうが上手な高校1年生だ。

この手で世界の岩をつかんできた 今井尚撮影

ロッククライマーとして世界中から注目を集める女子高生がいる。白石阿島(しらいし・あしま)さん(15歳)。両親ともに日本出身だが、生まれも育ちもアメリカ・ニューヨーク。日本語よりも英語のほうが上手な高校1年生(日本の中3と同級生)だ。

アウトドアメーカー各社のスポンサードを受け、世界中の岩場を歩く。去年は雑誌「TIME」が選ぶ「最も影響力のある10代 2015」にパキスタンのマララ・ユスフザイさんらと並んで紹介された。

今年3月下旬、白石さんは宮崎県延岡市にある比叡山周辺の岩場を訪れた。去年12月にも挑戦し、ついに登れず涙を流した岩に再挑戦するためだ。

目的の岩にはトンネル状に穴があいていて、その天井部分にぶら下がり、横に移動しながら登る。「ほとんどさかさま状態。しかも長い。持久力が必要で、一番難しい核心部分が最後に出てくるので、精神力も必要」と言う。

去年12月、このルートを初登者であるプロ・フリークライマーの小山田大(こやまだ・だい)さんに指導してもらいながらトライ。体の動きはすべて理解することができたが、ついに登れなかった。「くやしくて、くやしくて、涙が出た」

ニューヨークに戻ると、平日は学校に通い、週に5日クライミングジムに通う。日本でやり残してきたこの課題のことは忘れられなかった。「やったことのない難易度。でも、がんばったらできるかもしれないとトレーニングしてきた」と振り返る。

春休みを利用しての来日。挑戦3日目だった。岩が少し濡れていて状態は悪かったが、ついに登りきった。

難易度はV0から最高V16まであるうちのV15。成功した3月末時点での年齢は14歳。世界最年少記録であり、女性初の記録とされる。

「すごいびっくりした。(小山田)大ちゃんのおかげでできた。サポートしてもらわなければまだできていなかったはず」

3月下旬、宮崎県内の岩場で国内最難の課題の一つを登る白石阿島さん。Brett Lowell撮影

6歳のころ、セントラルパークにある高さ数メートルの岩を遊びで登ったのがすべての始まりだった。フィギュアスケートを習っていたが、「すっかり岩登りに夢中になった。岩登りも体の動かし方が面白く、まるでダンスしているみたい」と言う。その後、練習用のジムに通いはじめ、めきめきと腕をあげた。

スポーツクライミングには、ロープを使って十数メートル以上の壁を登るリードクライミングのほかに、ロープを使わず高さ数メートルほどの岩で技術を試すボルダリングという分野がある。

阿島さんはいずれも高い実績を誇るが、もともとはボルダリングから始めた。8歳でV10を達成し、米国で広く知られるようになった。

それからも年々、確実に難易度をあげていった。

「(集中しきらず)ぶらぶらやっても遠くまではいけない。集中してやれば、たとえできなくてもどんどん近づくことができる」

どうしても集中できないときは「少し休んで、頭をリフレッシュさせる。中途半端が良くない」。オフのときは友達とショッピングに行ったり、映画を見たり。

「クライミングは、ほとんど落ちていることのほうが多いです。何度やってもできそうにない時は、いつできるんだろうって、いつも思う。くやしくて、あきらめたいと思うこともある。でも、あきらめない。すごく難しいことだけど」

落ちたら立ち上がって、またやってみる。「クライミングは人生と通じる」と話す。

クライミングの世界では、すでにかなり高いところまで登ってきた。「これからは男性と競うことになるんだろうなと思っている」。白石さんが次にどんな記録を出すのか、世界中のクライマーたちが注目する。

「プレッシャーもあります。でもそれは私の目標でもあり、サポートになる。(みんなの期待を)私の力として使っています」。登り続けるモチベーションは、「世界で最も上手なクライマーになりたい」という1点だ。

「夢は東京五輪への出場」 今井尚撮影

「阿島」という名前は父の故郷、愛媛県の地名。ニューヨークとはまったくの別世界だが、日本の精神的なものを受け継いでもらいたいとの願いが込められている。

学校の休み期間は世界各地の岩場を旅する日々で、日本に来る機会は必ずしも多くはないが、「日本は大好き。宮崎は地元の人たちがとても助けてくれる。それに比叡山周辺には世界でもトップ級の岩があり、どんどん新たな(ルートとなりうる)岩も見つかっている。世界中のトップ選手が来たいと思うはず」

スポーツクライミングは2020年の東京オリンピックで追加競技の候補にあがっている。夢は「東京でオリンピックに出ること」だ。

休息日、庭先のボルダー(岩)でポーズを決める白石さん 今井尚撮影

「クライミング(登る)という行為は、ランニングやスイミングなどとともに赤ちゃんでもやろうとする人間としてとてもナチュラルなもの」と感じている。これからも、「世界じゅうをまわり、世界じゅうにいろいろな課題をつくり、それぞれの地域の人とインスパイアしあいたい。世界じゅうに岩はたくさんあるから!」

(朝日小学生新聞、朝日中高生新聞の記事を加筆修正)

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