同性婚を認めないことの違憲性を問う全国初の訴訟が2月14日、東京や大阪など4地裁で起こされた。
原告に名を連ねるのは13組の同性カップルだ。
結婚の自由をすべての人に──。そんな思いで提訴を決意した6組の「物語」を紹介する。
■ 古積健(こづみ けん)さんと相場謙治(あいば けんじ)さん / 埼玉県川越市
「異性カップルと、同じように扱って欲しい」
「男性同士だから結婚なんてできない」。そんな考えが変わったのは、相場さんが勤めている会社で、同性パートナーにも結婚のお祝金が出るようになった時だ。
お祝金を申請したのをきっかけに、家族や友人にも認めてもらいたと思うようになった。2013年には東京都内のホテルで結婚式を挙げた。
ただ、同性カップルは法律上の家族として認められていないため、ふたりの間に配偶者としての相続権や相続税の優遇措置はない。以前、相場さんが単身赴任した時には、古積さんが部屋の保証人として認められなかったこともある。
自分たちはカミングアウトできる分だけまだいい。声をあげられない人はもっと苦しんでいるかもしれない。同じ問題を抱える同性カップルのためにも、訴訟に参加する決意した。古積さんはこう語る。
「誰かが動かないと、実態は動いていかない。盾になって進んでいけるなら役に立ちたい」
■ 中島愛(なかじま あい)さんとクリスティナ・バウマンさん / 神奈川県横浜市
「日本でも、結婚して家族になりたい」
2011年にドイツ・ベルリンで知り合った中島さんとバウマンさん。ふたりは国際同性カップルが日本で立たされている苦境を訴える。
バウマンさんの出身国ドイツでは、2017年に同性婚が認められた。中島さんとバウマンさんもドイツで2018年に婚姻届を提出し、正式な家族になった。
しかし、日本では同性同士の結婚が認められていないため、バウマンさんには配偶者ビザがおりない。
現在は留学生ビザで日本に滞在しているが、何らかの理由で学校に通えなくなったら、ビザが取り消される可能性がある。卒業して就職して就労ビザが出たとしても、勤務先が倒産するなど問題が起きたら、ビザが取り消されるかもしれない。
「何かあったら強制送還されるかもしれないといった恐怖や心配を日々感じてながら暮らしています」とふたりは訴える。
中島さんたちの周りには、自分たちのように不安を感じている国際同性カップルはたくさんいるという。そういった人たちも安心して暮らせる社会にしたいと、原告になる決心をした。
■ 大江千束(おおえ ちづか)さんと小川葉子(おがわ ようこ)さん / 東京都中野区
「結婚が選べないのは不平等。国を動かしたい」
1993年に出会ってから25年以上、ともにパートナーとしてLGBTの啓発活動や居場所づくりに携わってきた大江さんと小川さん。
2018年9月に中野区でパートナーシップ制度がスタートした時は、第一号カップルとして宣誓した。
パートナーシップ宣誓後、生活しやすくなった面はある。大江さんが病院で手術する時、小川さんが同意書にサインできた。しかし、パートナーシップ制度は使える地域が限られている上、結婚と同じ法的権利は発生しない。そもそも、相手が同性だという理由で、結婚制度が使えないこと自体が不平等だとふたりは訴える。
「同性愛者たちに選択肢すらないことが問題だと思います。婚姻制度を選ぶ自由・選ばない自由を、すべての人が選択できるようにして欲しい」
長い間、LGBTの権利活動をしてきて、社会を変えるためには声を上げなければいけないと実感してきた大江さんと小川さん。今回の訴訟で原告となり、国を動かすための大きな一歩を踏み出す。
■ 田中 昭全(たなか あきよし)さんと川田 有希(かわた ゆうき)さん / 香川県三豊市)
「僕たち、フツーの家族。結婚できないのはおかしい」
田中さんと川田さんは、一緒に住み始めて12年。2013年には中古の家も買った。日々の生活は結婚した男女となんら変わらない、と話す。
「朝起きて、ご飯食べて、出勤して、洗濯して。そんな毎日の生活があります」
「家は、僕たちにとって帰る場所。ふたりが最後まで一緒に過ごす場所です。愛犬がいて、友達を呼んで...。ゲイカップルの家庭が変わっているかというと、別に普通です。なんら変わりがない」
しかし結婚できないため、田中さん名義で購入した家を川田さんは相続できない。
川田さんより8歳年上の田中さんは、自分に何かあったときのことを心配している。遺言を残すことはできるが、それでも親族と争いになった場合、川田さんが家に住めなくなるのではという不安はぬぐいきれない。遺言を作るにしても多額の費用がかかるし、相続税の配偶者控除も受けられないことにも不平等を感じる。
他の同性カップルの中には、相続の問題を解決するために養子縁組して親子という形で家族になった人たちもいる。しかし田中さんと川田さんは「自分たちの対等なパートナーであり、親子になりたいわけではありませんから」と話す。
性別や性的指向によって、婚姻制度を使える人が限られる現状を変えたいと思っている。
■ 西川 麻実(にしかわ あさみ)さんと小野 春(おの はる)さん / 東京都世田谷区
「LGBTの家族と、その子供たちにも目を向けて」
西川さんと小野さんは、原告で唯一子育てをするカップルだ。それぞれがかつての婚姻で産んだ子供たちと、5人で暮らす。
LGBTファミリーの会「にじいろかぞく」の代表を務める小野さんは、子育てしている同性カップルは日本中にいるのに可視化されていない、と話す。子供の安全を考えて、親たちが声をあげにくいためだ。
3年前、小野さんに乳がんが見つかった。その時に、自分たちのような同性カップルが、いかにセーフティーネットのない状態で暮らしているか、気が付いたという。
病院の説明に西川さんが同席できなかった。体調が思わしくなくて仕事量を減らしたくても、相手の扶養に入れなかった。万が一自分が亡くなったら、自分が産んだ子供の親権を持っていないパートナーは、大きな負担を背負うかもしれない。
同性カップルとその子供たちは守られない現実を突きつけられた小野さんは、身近に暮らしている同性ファミリーにも目を向けてと訴える。
「すでにいる家族のことを無視しないで欲しいと思っています。色々な家族がすでにいます。その家族とそこで育つ子供たちのこともちゃんと見て欲しいなと思います」
■ 国見亮佑(くにみ りょうすけ)さんとたかしさん / 北海道帯広市
「モヤモヤした生きづらさ、無くしていきたい」
国見さんとたかしさんは、周囲にセクシュアリティをオープンにしていない。これまでの人生で、わざわざカミングアウトしない方が生きやすい、と思う場面が多かったからだ。
国見さんは公立学校の教諭。学校の外では、当事者としてLGBTのイベントの企画運営に積極的に携わっているが、学校では親しい同僚にしか伝えていない。周りに伝えて微妙な空気になるくらいなら、言わずに仕事に集中したいという思いからだ。
ただ、職員会議で「ある男子生徒が、別の男子を好きなようだ」という話題が出たとき、「同性が好きだというのは病気じゃない。同性を好きなことに対する偏見は持たないほうがいい」と訴えた。
職場では当事者というより、アライとして生徒たちをサポートしていると話す。
たかしさんも、同僚が「男性カップルは気持ちが悪い」と話しているのを聞いたり、差別的な扱いを受けた経験があり、ゲイであることは周りに隠している。
それでも、訴訟の話を聞いた時、ふたりはすぐに原告に加わろうと思った。たかしさんはこう話す。
「やっぱり、生きやすい世の中にしなきゃいけないという思いが、自分の中にあったと思います。生きづらさって、一人一人違います。自分自身もうまく表現できずモヤモヤしてた。でも訴訟と聞いた時に、やっぱりこのままじゃだめだ、理不尽なことはなくなっていかなきゃいけないって感じたんだと思います」