37.1%ー。検挙された少年のうち再非行少年が占める割合が2017年、過去最悪を更新した。最新の2018年に発表されたデータでも、35.5%と依然として高い数字が続いている。非行少年の更生が簡単にはいかないことを、この数字は物語る。
現状を、矯正教育を施す現場はどう捉えているのか。従来と違ったアプローチで更生を促す多摩少年院を訪れた。
8月下旬の昼下がりの多摩少年院 。グラウンドからは、少年たちが運動する声が聞こえてくる。教室が並ぶ長い廊下を進んで、施設で一番大きいという実習室に向かった。ここで、出院間近の少年たちが、ある特別な授業を受けるという。
「起立!注目!礼!」「お願いしますっ」
短髪で、白いポロシャツに紺色の長ズボンを履いた少年たちは、脇に手をまっすぐ添わせ、一斉に礼をした。
多摩少年院には、主に詐欺や窃盗などの犯罪をした少年が入院している。彼らは、およそ11カ月の矯正教育を受けて社会に戻ることになる。
授業の目的は、少年たちに自信を持って社会に巣立ってもらえるよう、自分の強みを発見してもらうことだ。
この日授業に参加したのは、17歳から18歳の10人。3人ほどのグループに分かれ、お互いの良さを指摘し合う。
「みんなを引っ張っていく力があるね」。そう評価された少年は、「本当すか?」と髪の毛を手でいじりながら、白い歯を見せた。
少年たちは、こうして発見した自分の強みを、皆の前でスピーチする。自分は気づいていないけれど、人から見たら良いところもある。そんな気づきを得てもらうことがねらいだ。
「気づいていなかっただけで、これまで無かったわけじゃない。今日見つけた強みを、社会に出てからぜひ活かしてください」外部講師はそう授業を締めくくった。
授業を終えた少年たちの表情は、心なしか晴れやかだった。
このプログラムは「WORKFIT」と呼ばれる。人材サービス大手・リクルートが提供しているもので、5年前から全国では唯一、多摩少年院で実施されている。
多摩少年院では2018年、出院した少年のうち7割以上が就職を希望した。一方、社会に出たものの再び犯罪に手を染める少年も珍しくない。法務省が発表した2018年の犯罪白書によると、少年院を出てから5年以内に再び少年院もしくは刑務所に入った少年の割合は21.6%に及ぶ。
どうすれば出院後、社会での更生が上手くいくのか。多摩少年院は、WORKFITの中で育まれる自信、すなわち「自分には力があるという実感」が鍵の一つになると考えている。
「もう懲りただろう?」という指導だけではうまくいかない
多摩少年院の赤石龍馬・法務教官は、教官になって24年目のベテランだ。再犯を重ねる少年たちに、類似性を見出している。
「少年院にやってくる子たちは、『看板があった子』が目立ちます。特に元スポーツ少年が多いですね。たとえば、中学では県代表候補に選ばれるくらい上手くいっていたけれども、全国有数の強豪校に入った途端、埋もれて挫折し、非行に走ってしまった、みたいな子です。
何かに秀でていた子ほど、『いつも勝っていなきゃいけない』と、優秀であることが自分の存在価値になっていることが多い。それで一つ失敗した途端、『終わった』『死んだ』などと言って、全てを投げ出してしまう。そうして、楽な道を繰り返し選択し、少年院に行き着いてしまった子が沢山います」
自分たちはどうしようもないからここ(少年院)にいるーー。少年院の中で、反省だけを求めると、少年たちの自信はさらに下がり続ける。下がり続けたまま出院すると、社会で新しい拠り所を見出せず、再び挫折してしまう。
赤石さんは、少年たちが社会にうまく適応できない原因のひとつは、こうした負の循環にあるのではないかと考えている。
「これまで、少年院では『もう懲りただろう?』『反省しなさい』という指導が中心でした。でも、それだけでは再度の失敗を防げないことに、現場の職員も気付き出しました。『反省のベクトル』の指導だけではなくて、『自信のベクトル』も大切なんです」
現場がこれまでの指導方法を見直し始めた矢先、リクルートからWORKFIT導入の話が来たという。
「真の反省」が生まれるのは、社会で自立した生活を送れるようになってから
多摩少年院では、少年たちに高卒認定や資格の取得も推奨している。これも自信を養うための一環だ。
一方で、少年院のそうした方針に反発の声もある。
少年院は、刑務所とは違って、あくまで「矯正教育、社会復帰支援等を行う施設」。だが、少年たちの非行によって傷付いたり人生を狂わされたりした被害者がいる。
「『少年院は反省する場じゃないか』そんな声を頂くこともあります」赤石さんは重々しく話を切り出す。
「…でも、反省って実はとても難しい作業なんです。後悔は簡単だけども…。反省ってどういうことなのか、大人もよく分かっていないのかも知れません。
少年院を出て、自分で稼いだお金で生活をして、それが安定したとき初めて、自分のしたことに対する『真の反省』が生まれます。少年院ができるのは、彼らに『反省の種』を蒔くことだけなのかもしれません。その種が実るのは、やっぱり彼らが社会に出てから」。
「自分の人生、自分で作れ」。赤石さんは、出院する少年たちにそんな声をかけるという。
「意識的に非行に走る子なんていません。みんな流されてここに来た。出院する子は、99.999%、出院する瞬間までは再犯する気なんてありません。
でも、少年院が教えられるのはあくまで『プールでの泳ぎ方』。社会という『海』は、自分で泳いでいかなければなりません。波もあるし、足もつかないから、みんな不安です。そんな彼らに『君たちには海を泳ぐ力がちゃんとあるんだよ』って分からせてあげたいんです」
【訂正:2019/10/10/ 10:46】
本文中では当初「37.1%ー。検挙された少年が再び犯罪に手を染める割合は2017年に過去最悪を更新した」としていましたが、正しくは「37.1%ー。検挙された少年のうち再非行少年が占める割合が2017年、過去最悪を更新した」でした。