有線放送最大手の株式会社 USENや映像配信会社、株式会社 U-NEXTなどを傘下に抱える、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGSは、9月からグループ企業の従業員の定年を60歳から70歳に引き上げることを決めた。
シニア社員を手放すのは「会社の損失」
同社のこれまでの制度では、60歳以降は「契約社員」として1年ごとに契約更新を行い、最長で65歳までしか働くことができなかった。新しい制度では、一旦は60歳の定年を設けるものの、その後希望者を「正社員」として70歳まで再雇用する。
USEN-NEXTグループはなぜ今、定年を10歳も引き上げる決定をしたのだろうか。
USEN-NEXT HOLDINGSの執行役員・住谷猛さんは、「労働人口の減少によって新しい人材を確保するのが難しくなっている現状」が背景にあると話す。そんななか、「既存の人材をどう活かすかや、いかに囲い込むかが、いままで以上に重要になってきた」という。
長年同社に勤めてきたシニア社員は、企業のビジョンやカルチャーを十分理解しており、必要な業務スキルも備えている。「定年後も働きたい」という意欲が旺盛な社員も多い。彼らを手放すことは「会社の損失」と考えた。
さらに、こうしたシニア社員を正社員として雇うことで、彼らがモチベーション高く働き続けてくれることを期待している。「優秀な人材ならばシニア社員など年齢に関わらず、昇進させるし、役職にもつけます。60歳までの人と60歳以降の人を一切区別しないというのが新しい制度です」と住谷さんは話す。
定年の引き上げに関しては、政府も強く進めている。5月に発表された高年齢者雇用安定法改正案の骨格では、「希望者が70歳まで働くことができる環境を整えること」が企業の「努力義務」として課された。
「長く働きたくない」そんな声も
「人生100年時代」といわれる中、65歳〜70歳まで働くことが当たり前の世の中になりつつある。一方で、定年が伸びれば、年をとってもずっと働くことになる。そのため、働く人から不安や反対の声も多く上がっている。
定年制度のある組織に在籍する40〜64歳男女への、定年後研究所の調査によると、「70歳定年」に対して「困惑・戸惑いを感じる」と回答した人が約4割、「歓迎できない」は約2割と、半数以上がネガティブな反応を示したことがわかった。
主な理由は、「収入が得られる期間が延びてよいが、その分長く仕事をしなければならないから」「60歳(65歳)以降は働きたくないから」など。定年以降も長く働くことを嫌がる人が多いようだ。
最近では、金融庁の審議会報告書で「老後の生活費2千万円が不足」ということが浮き彫りになったこともあり、生きていくために、定年後も働かざる得ないという事態も現実味を帯びてきている。今後、定年延長の流れは企業側の思いだけでなく、従業員の切実なニーズによってもさらに加速するだろうか。