「誰かに『好かれるため』に仕事したくないんです」
ぺえさんはすっきりとした顔で断言した。原宿竹下通りのカリスマショップ店員から芸能界にデビュー、バラエティ番組での活躍、最近ではYouTubeでの発信や、映画の出演も。飾らないキャラクターと、歯に衣着せぬ大胆な発言が人気だ。
自分らしさを大切にしながら、チャレンジを続けるその強さはどこから来るのだろう?
視点を変えて、常識を見つめ直すアクションを発信する「Rethink PROJECT」は、「Rethink」の秘訣をぺえさんに伺った。
「結婚」という想いが出てきた理由
──ステイホーム期間中、自分自身について考えることが増えたと伺いました。
ぺえ:何もしない時間が長かったので、立ち止まって考える良いきっかけになりました。
そしたら、自分のこれまでの生き方について「なんであんなことをすごく気にしていたんだろう?」「なんであんなに怒ってたんだろう?」と振り返ることができて。
人生なるようにしかならないから、細かいことにとらわれず「自分」を持って生きたい、と思うようになりました。
──8月にご出演いただいたLIVE番組では、「『ぺえ』個人としてだけでなく、『LGBT』としての自分」について語られていました。「パートナーシップ」ではなく、「結婚」を目指したいと。
ぺえ:最近、LGBTであるということが、なんのコンプレックスでもなくなりました。子どもの頃から、自分のことは好きだけれど、心の底から自分を認めてあげられないような状況が続いてたんですけど。
「結婚したい」という願望は、「ステイホームで一人が寂しかったから」っていう理由だけじゃないんですよ。私、今28歳なんですけど、まだ成し遂げていなくて、本当にしたいことって、それくらいしかないかもと思ったんです。一回くらいちゃんと「いい恋愛だった」って思えるような恋愛をして、結婚したいなって。
おこがましいかもしれないけれど、私が一歩踏み出して、それを実現できた姿を見せられたら、自分のセクシュアリティに悩んでいる人の支えになれるかも、と思います。私にとっても大切なことだけれど、私だけの話じゃないな、って。
理解されないのは「嫌なこと」として捉えない
──価値観が異なる者同士だと対立してしまうこともあります。そんなとき、ぺえさんはどうしていますか?
ぺえ:セクシュアリティのことだけじゃなく、私、物事を100%理解できるなんて思ってないし、自分のことを100%理解してもらいたいとも思わない。長い目で「理解してもらえたらいいな」くらいのテンションでいると心が苦しくない。
両親にゲイであることをカミングアウトした時、「すぐに『はいそうですか』と認めることはできない」とはっきり言われたんです。でも徐々に理解しはじめてくれている、ということを、直接的な会話からでなくても感じます。母親とフランクに恋愛の話ができるようになったり。少しずつだけど、前に進んでいるのかな、と。
理解されないのを「嫌なこと」として捉えずに、最近は楽しんでいます。考え方は違うけど共存できる、という感じかな。
SNSの攻撃には「お前そいつになんかされたのか!?」
──ぺえさんのようにYouTubeチャンネルを持つタレントさんも増えて、今、芸能界は過渡期である印象は受けます。ぺえさんは今の芸能界についてどう思いますか?
ぺえ:今、芸能人って100点満点の「いい子」じゃないといけないっていう圧力がある気がするんです。私も仕事をする上でブレーキがかかる時がある。普通の社会よりも楽しくて、いろんな人がいるのを見せるのが芸能界だと私は思うんですけどね。
良いことを誰かが成し遂げた時よりも、悪いことが起こった時のほうが世間って団結しますよね。それが目に見えてしまうのがSNS。とにかく「叩く!」「責める!」──なんでそうなっちゃうの?と。
ぺえ:みんな、疲れてて、幸せじゃないんです。不景気だし、すごく働いてるのに決まった金額しかもらえない、自分のやっていることがちゃんと評価されてるのかもわからない社会ですよ。だから、テレビで見る「自分よりも充実した人生を送ってるな」っていう人に対して、鬱憤を晴らすみたいに厳しくなっちゃう。「お前そいつになんかされたのか!?」って思いますよ。
私もSNSで心ないことを投げつけられることもあります。でも、一回もお会いしたことない人の言うことなんて、何も響かない。私、誰かに「好かれるため」に仕事したくないんです。
──昔からそんなスタンスだったんですか?
ぺえ:全然! デビューしてから2年目くらいまでは必死に「好かれよう」「自分じゃなくなってもそれは我慢だ」って思ってた。でも、それって全然面白くないし、苦しい。見てる人も嫌ですよ。自分の立場や仕事に、執着してプライドを持つことも大切なんですけど、しすぎないことも大切。
バラエティは戦場だった。
──これから、表現者としてはどんなお仕事に力を入れていきたいですか?
ぺえ:この前、映画で初めてお芝居をしたのが楽しかったんですよ。私の演技がどうだったかはさておき、制作現場が、一つのゴールを目指して、みんな協力しながら完成に向かっていたのが心地よかった。
私がずっとやっていたバラエティって、一つの番組をつくっているはずなのに、みんな違う方向を見てるんですよ。自分が目立つための、言うなれば殺し合いの戦場みたいなもんじゃないですか(笑)。
今、バラエティと演技どっちやりたいかって言われたら、演技です。いろんな自分になれるのが楽しかったし、自分の中でも、「私こんな表情できたんだ」とか、「私こんなこと思ってたんだ」とか、いろんな発見がありました。
──いっぽうYouTubeチャンネルでは、赤裸々な私生活の発信が人気です。
YouTubeで私は、本当の自分でいられる場所をつくることができました。私のチャンネルは見てくださる方が本当に優しくて、実家に帰ったような気分になるんですよ(笑)。
発信場所をいくつか持ちながら、バランスを保つのが向いているのかも。バラエティ番組に出てないと売れてない、という考えに縛られず、自分を大切に思ってくれる人とつくっていける表現の形を目指せたら良いな、って思います。
「100点満点を目指したって、何も良いことないですよ」
──Rethink PROJECTでは、視点を変えて、現在の常識を見つめ直してみるアクションを発信しています。ぺえさんが実践するRethinkのコツとはなんでしょうか?
ぺえ:自分を大切にするということを、まずは一番の軸に据える。これがまずスタートラインだと思います。みんな頑張りすぎていますよね。仕事も、ダイエット、恋愛も、家事も、育児も、ぜんぶ。
身近にキラキラしているものが増えちゃってるのも問題。SNSで、すごい綺麗な人が「ダイエット成功しました」とか「モーニングルーティン」とか発信してるでしょ。その人はその人、私は私、と割り切った方がいい。
好かれようとして100点満点を目指したって、何も良いことないですよ。芸能界の好感度ランキングも、無くせばいいのにと思います。そんなの一位になったって、うれしくない。周囲の目を気にして、間違っていることじゃないのに「言えない」って人、たくさんいると思います。
今の日本には、「ちょっと、自分に甘くなれ」と言いたいです。頑張りすぎず、自分の今の状態に満足することができたら、余裕が生まれて、人にも優しく寛容になれると思うから。
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自分を大切にする。それが、さまざまな人と共生するための一歩なのかもしれない。その先にはきっと、好きなものを好きと言えて、みんながみんなを認め合う、本当に豊な社会が待っているのだろう。まずは、自分の心地いい場所を探すためのRethinkから始めてみるといいかもしれない。