PRESENTED BY レゾナック・ホールディングス

変化を勝ち抜く組織はこう作る。「大企業=安心」ではない時代の、会社と社員の新しい関係

今年1月に「昭和電工」から社名を変更した新生「レゾナック」。老舗大企業の変革と、その先に見据える「未来」とは?

日本型雇用システムの崩壊、加速度的に地盤沈下していくように思える日本の経済と社会システム。「大企業に入社したから安心」ではない時代には、会社と社員の関係もアップデートが必要だ。

1939年(昭和14年)に設立された大手化学メーカー「レゾナック」では、ジーンズ姿の社長が「人材育成」に力点を置いた経営改革を実践している。

昭和電工と日立化成という日本の化学産業をリードしてきた2つの老舗企業が実質統合した2022年1月、就任直後から「企業文化のスクラップアンドビルド」を実行してきた髙橋社長。元Googleの人材開発責任者で、組織開発に詳しいピョートル・フェリクス・グジバチ氏との対談から見えた、変化の時代を勝ち抜くために必要な会社と社員の新しい関係性とは?

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(左)と髙橋秀仁社長(右)
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(左)と髙橋秀仁社長(右)
Photo by Yuko Kawashima

「昭和」のスーツ文化を脱ぎ捨て、カジュアルに転換 

──2022年の社長就任と実質統合から1年。文化の異なる2つの企業の統合はどのように進められたのでしょうか? 

髙橋秀仁社長(以下、髙橋) 2022年は「発信の年」と位置付け、どういう会社にしたいのか、どんな社員を求めているのか、僕が思っていることをみんなに説明することに力を入れました。まず、年頭挨拶にこの格好で登場し、「みなさん、今年からカジュアルです。ビジネスカジュアルではありません。完全なカジュアルです」と伝えたんです。

もう一つ変えたのが「呼び方」です。旧昭和電工では肩書きで相手を呼んでいたのですが、旧日立化成の「さん付け文化」に揃えましょう、と。 

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル) カジュアル宣言はつまり「オープンになろう」ということですよね。カジュアルなコミュニケーションは心理的安全性の面からも重要です。僕の元職場のGoogleのドレスコードは“Wear something(何か着ていればいい)”でした。“You can be serious without a suit.(スーツを着なくても真面目に仕事はできる)”ともよく言います。

Photo by Yuko Kawashima

「いい会社」とは、トップが自分の言葉を自分自身で語れる会社

髙橋 大切なのは形式ではなく本質です。心を広げて会話すること。そのために行ったのが「タウンホールミーティング」と「ラウンドテーブル」でした。

タウンホールは国内と海外合わせて70拠点を回って、僕が考えていることを直接伝えました。ラウンドテーブルでは1回につき10〜15人くらい集まってディスカッション。これは110回やりました。もちろん、管理職だけではなく非管理職の従業員も対象です。2時間半、ファシリテートも手伝いながらコメントもちゃんとして…というのは、かなりコミットメントは高いのではないでしょうか。

Photo by Yuko Kawashima

ピョートル 本当に「いい会社」というのは、経営者が明確に「自分は何者だ」「この組織は何者だ」というのを語れるんですよ。PRが書いた綺麗な文章や広告代理店が作ったスローガンではなく、自分が信じるものを自分の言葉で語れば、社員も信じてくれるのです。

髙橋 うちの会社ではPRにはすごく手伝ってもらっていますが、僕の言葉はほぼすべてが僕自身の言葉です。お膳立てしてもらった原稿を読み上げることは、ほぼないですね。そうじゃないと意味がない。自分の言葉で自分の思いを伝えなかったら、熱量をもっては絶対に伝わらないからです。

──レゾナックのバリュー(大切にしている価値観)は、①プロフェッショナルとしての成果へのこだわり、②枠を超えるオープンマインド、③機敏さと柔軟性、④未来への先見性と高い倫理観──の4つ。社員が日常会話でも使うくらい浸透しているそうですね。 

髙橋 僕らのバリューって仕事をする上で当たり前のことばかり。でも、それを社員1人1人に言語化してもらうのが大事だと思っています。レゾナックのパーパス「化学の力で社会を変える」も、役員みんなで議論を重ね、化学メーカーで長く働いている人たちの強い想いを言語化したものです。

Photo by Yuko Kawashima

化学は世の中にとって「良い」こともたくさんしてきたけれど、一方で「悪い」こともしてきた。そこに真摯に向き合ったうえで、それでも社会をプラスに変えるイノベーションを起こせるのもやっぱり化学。化学を起点に世の中を変えていこう、という想いを込めているんです。

ピョートル 日本の文化は「曖昧さ」を美徳としている文化で、言語化があまり得意ではないんですよね。でも結果を生み出すために必要なのは「明確さ」です。変化や競争が激しい今の時代に、経験が長い人同士が共有する「想い」や「空気」を言語化していくのは、非常に大切だと思います。

Photo by Yuko Kawashima

「働き方改革」の前に必要な改革とは?

髙橋 僕はよく「総合化学メーカーの中期経営計画を読み比べてごらん。全部同じことしか書いてないから」って言っています。戦略とかポートフォリオなんて、誰が作っても同じところにしか行き着かない。差別化要因は、それをやりきる経営陣と、支える人材にかかっています。企業価値を上げる一番の近道だと信じているから、僕は人材育成をやるんです。

ピョートル 同感です。必要なのは、働き方改革よりも経営改革。どんなパーパスをもって、どんなビジネスモデルを実践していくか。働き方を変える前に、まずは経営がそこを明確に言語化しないといけません。人は、何のために生きて何のために働くのか、常に意味を探している動物ですから、組織と個人の関係性にどんな意味を持たせるか、は経営者のとても大事な仕事だと思います。

Photo by Yuko Kawashima

髙橋 僕が社長に就任した時に最初に宣言したのが、「全員は幸せにできません。ただし、幸せの総和が大きくなるような会社にします」ということ。変革によって既得権益を失った人にとってはハッピーなことばかりではありません。

社員の受け止め方は、変革に対して共感している人が3割、6割ぐらいが悩みながらも変わろうとしていて、1割は諦めているような感覚ですね。問題は、1割の中に、変わろうとしている人の足を引っ張る方たちがいることです。今年の僕の仕事は、会社のパーパスとバリューに納得できず足を引っ張る方たちには、当社ではない別の道を提案すること。そして、3割の共感層をインフルエンサーとして育てて共感を広げていくことです。

「離職」は数より理由が大事

ピョートル 僕は離職率よりも辞める理由の方が大事だと思っています。例えばマネージャーとの関係、チームとの関係が建設的でないなら辞めた方が良い場合もある。「この会社にいたくないけどいる」という人には、倫理的に望ましいプロセスを経たうえで去っていただいた方がいいこともあります。

ただ、その前にはもちろん社内がオープンにコミュニケーションできる雰囲気にしておくことは必要です。

Photo by Yuko Kawashima

髙橋 それで言うと、今年は「双方向コミュニケーション」に力を入れようと、「モヤモヤ会議」というものを始めています。僕や現場責任者がいる前で、社員が抱えている「モヤモヤ」を出してもらい、その場で解決できることは解決します。もちろん、すぐに解決できないものもありますが、「モヤモヤ」を吐き出して聞いてもらえただけで、モヤが晴れて良い仕事をしようと思ってもらえるんです。

求めるのは「共創」と「自律」

Photo by Yuko Kawashima

髙橋 僕が育てたいのは、共創型・自律型の人。僕らが目指すのは、作った商品を売る化学メーカーではなく、顧客の求める機能を作れるスペシャルティの化学メーカー。顧客のニーズを引き出しながら、社内外を巻き込んでバックキャストで製品を作り、すり合わせていく。上意下達の組織ではなく、自律した共創型の人材じゃないとやっていけないんですよ。

ただ、必ずしもそういう人すべてにスポットライトが当たるわけではない。会社が見つけて、ちゃんと光を当てて賞賛する文化が必要だと思っています。それを体現するのが「UNSUNG LEADERS(知られざるリーダーたち)」という言葉であり、「グローバルアワード」というグローバル全体でバリュー実現のための共創事例を共有する場なんです。

ピョートル 大切なのは「人に優しく、結果に厳しく」ということ。例えば、結果が出ていない人には「どうしたの?」と、まずは優しさから入る。「モヤモヤ会議」や「UNSUNG LEADERS」がまさにそれですが、ゴールまでの道のりを整えてあげた上で、結果はしっかり評価するのがマネジメントの役割です。

閉塞感漂う日本経済。打破するための経営マインドとは?

Photo by Yuko Kawashima

髙橋 今の日本の閉塞感ってものすごいですよね。ゼネラル・エレクトリックのCEOを務めたジャック・ウェルチの言葉で「内部の変化が外部の変化についていけなくなった時、終わりは近い」という言葉がありますが、まさに日本の今の状況がコレ。年功序列、終身雇用、新卒一括採用、学歴主義。僕は日本をダメにしたのは、この4つのパッケージだと思っています。

ピョートル 終身雇用や年功序列という考え方は、戦後の日本経済には非常にマッチしていました。でも、猛スピードで新しい価値と結果を生み出そうという企業には、真逆の考え方が必要です。どんなインパクトを作るのか、そのためにどんなアウトプットが必要で、どんな人材や制度があればいいか。逆算設計のマインドです。

髙橋 せめてレゾナックは外(世界)と同じスピードで変化し続けることができる会社にしたい。実力主義の良い緊張感のもと、価値観を共有した人たちが集まって結果を追求する。チームで目標を達成できた時に、気持ちがいいと思える会社にしたい。

そして、僕個人のことを言えば、老害にはなりたくないですね(笑)。引き際はきれいにしたいといつも思っているので、そういう会社ができたら「ああよかった」と引退したいです。

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(左)と髙橋秀仁社長(右)
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(左)と髙橋秀仁社長(右)
Photo by Yuko Kawashima

髙橋秀仁(レゾナック・ホールディングス代表取締役社長兼CEO)

1962年、東京都出身。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)、日本ゼネラル・エレクトリックなどを経て、2015年に昭和電工入社。常務執行役員などを経て、22年1月に社長就任。23年1月レゾナック・ホールディングス発足に伴い現職。

ピョートル・フェリクス・グジバチ(プロノイア・グループ 代表取締役)

連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。ベストセラー「NEW ELITE」、「心理的安全性 最強の教科書」(東洋経済新報社)など執筆。ポーランド出身。  

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