リプロダクティブライツが十分に守られていない日本。旧統一教会などの宗教右派による影響はあるのか

入手しづらい経口中絶薬や性教育の遅れ。リプロダクティブライツが進まない背景に中絶反対派の影響はあったのでしょうか
経口中絶薬について厚生労働省の担当者に要望書を提出する産婦人科医などの有志団体「セーフアボーションジャパンプロジェクト」の遠見才希子代表(左から2人目)ら=撮影 2023年02月21日
経口中絶薬について厚生労働省の担当者に要望書を提出する産婦人科医などの有志団体「セーフアボーションジャパンプロジェクト」の遠見才希子代表(左から2人目)ら=撮影 2023年02月21日
時事通信社

連邦最高裁が中絶の権利を保障したロー対ウェイド判決を覆したアメリカでは、現在20以上の州で中絶が全面禁止、もしくは厳しく制限されるようになっている。

この中絶禁止の動きを後押ししてきたのが、キリスト教福音派の原理主義者など、宗教右派だ。

日本では中絶手術は禁止されていないものの、経口中絶薬が入手しづらいなど、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)が十分に守られていない状況だ。

日本のSRHR推進の遅れも、宗教右派との関わりはあるのだろうか。立命館大学国際関係学部教授でモンタナ州立大学名誉准教授の山口智美氏に聞いた。

――アメリカでは宗教右派が政治と結びついて中絶を禁止しようとしていますが、日本でも類似の動きはあるのでしょうか?

日本でもアメリカ同様、中絶に反対する宗教右派が、政治に働きかけるという動きはあります。

その一つが、宗教団体「生長の家」による、優生保護法改正の試みです。

生長の家に所属する国会議員が1972年と82年に、優生保護法から「経済的理由で中絶ができる」という部分をカットするなどして、中絶手術を受けにくくしようとしました。

フェミニストからすれば「改悪」の動きであり、改正案は女性団体や医師会などの強い反対で頓挫しました。

生長の家はこれをきっかけに、政治活動から撤退していくのですが、一部が分裂して政治活動を続け、日本最大の保守系団体「日本会議」の中心を担うなどして、政治の中で中絶反対の流れを引き継いでいくことになります。

他にも、マザー・テレサの来日をきっかけに設立された「生命尊重センター」、さらには「旧統一教会」も中絶反対運動を展開してきました。

生命尊重センターは、2017年に石川県加賀市の「お腹の赤ちゃんを大切にする生命尊重の日条例」を導入する動きを後押しした団体です。

政治家と連携して、経口中絶薬反対の動きにも関わってきました。生命尊重センターのニュースレターには、自民党の参議院議員で日本会議国会議員懇談会に所属し、自らがカトリック教徒でもある山谷えり子氏も寄稿しています。

旧統一教会も、世界日報の社説で経口中絶薬に反対しているほか、関連団体が主催するピースロードなどのイベントで中絶反対の集会を開いたり、学校で実施した性教育講座で中絶を批判したりしてきました。

とはいえ、アメリカに比べて、中絶反対は日本で一般の人たちの支持を得にくいイシューだと思います。実際、70年代、80年代の生長の家の法改正も失敗しましたし、法律で中絶を禁止しようとすれば自民党の議員の中にも反発する人もいるかと思います。

しかし、日本で反対派の影響がなかったわけではありません。アメリカのように表立った中絶禁止運動ではなく、経口中絶薬の反対や性教育バッシングなどの形で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下リプロ)を押さえ込もうとしてきました。

その反対運動の先鋒の一人が、山谷議員です。山谷氏は2000年代にリプロを具体的に説明した中学生向けの性教育冊子を「過激な性教育」と批判するなど、性教育バッシングを展開してきました。

こういったバッシングのために教育現場が萎縮して、性教育の授業で中絶を含めたリプロが語れなくなりました。現在、学校の性教育ではそもそも性交について教えられない状態です。

ピルも認可に時間がかかり、いまだに使いづらいなど良くないイメージで語られがちです。経口中絶薬についても、2023年にようやく認可されましたが、値段が高い上に一部の病院でしか手に入れられない状況です。

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時事通信社

――日本では、中絶に配偶者の同意を必要とする法律もあります

配偶者の同意を必要とする考えは家父長制的で、女性の人権や「自分の身体に関することは自分で決める」というリプロの基本理念と真逆です。

そういったリプロを取り巻く状況が改善されない理由の一つには、女性議員が少ない上に、与党の中に山谷氏など中絶に反対している女性議員がおり、中絶に反対する右派勢力と緊密な関係を持ち支援されてきた議員も多いという状況があると思います。

また、男性議員はリベラル派でさえリプロを理解しているかどうかも疑問です。リプロへの理解を進めるためには、男性議員が興味・関心を持つ必要があると思います。

中絶は女性だけの問題ではありません。さまざまなジェンダーの人たちがいる中で、トランスジェンダー男性など女性以外で中絶を経験する人たちもいるということも忘れてはいけないと思います。

選挙も重要です。自分自身もそうですが、若い世代や、外国籍の人たちなど、選挙権がない人たちのリプロダクティブライツも選挙結果に左右されるのです。

選挙権のある人たちが権利を行使しなければ、中絶を受けにくい状況にあるマイノリティの人たちに甚大な影響を及ぼすということを忘れてはいけないと思います。

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