フリーランスのネットワークを生かして、Webコミュニケーション事業を中心としたサービスを提供する合同会社カレイドスタイルの代表・小野梨奈さん。ご自身も10年前に独立し、Webプロデューサーとして活動するかたわら、女性フリーランスのための総合メディア『Rhythmoom(リズムーン)』を立ち上げ、編集長として女性フリーランサーの支援にも力を注いでいます。
プライベートでは3人のお子さんを育てながら、経営者として忙しい毎日を送っている小野さんに、女性、そして母として自立して働くことへの思いや、リモートツールを活用した効率的なワーキングスタイルについてお伺いしました。
小野梨奈(Rina Ono)/合同会社カレイドスタイル(KaleidoStyle LLC)代表
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修了後、IT企業、働く女性向けのWebメディア編集部を経て2006年に独立。女性向けライフスタイル全般のコンテンツ企画・制作のほか、最近は理系大学院出身を活かし、サイエンスアウトリーチをテーマにしたWebコミュニケーション案件も多く手がけている。女性フリーランスのための総合メディア『Rhythmoon(リズムーン)』の運営や、女性フリーランスコミュニティを生かした総合プロデュースサービス『RhythBiz(リズビズ)』を展開中。
カレイドスタイル公式HP:http://www.kaleidostyle.jp/
Rhythmoon(リズムーン):http://www.rhythmoon.com/
RhythBiz(リズビズ):http://www.rhythbiz.jp/
自身の経験がオウンドメディア立ち上げのヒントに
―小野さんは、女性向けウェブメディアの編集部を退職したあと、どのような経緯で独立されたのでしょうか?
小野さん(以下敬称略):当時は、一度会社を辞めてリセットしたいという気持ちが強かったので、退職後になにをやるかまでは考えていませんでした。辞めた会社から、「暇だったら手伝って」と声をかけていただき、フリーランスとして働き始めました。
いざ独立してみると、営業も経理も自分でやるの? 請求書ってどうやって書くの? と分からないことばかりで。実は、独立したと同時に一人目の妊娠も発覚して。どうやって育児と仕事を両立させればいいのかとても悩みました。当時は、育児をしながらフリーランスで働いている知り合いが周りにいなかったので、誰かに聞きたくても相談できる人がいませんでした。
―どのように情報収集をしたのでしょうか?
小野:子どもを持つフリーランス同士で情報交換できる場所を自分で作ってしまおうと、ミクシィで「フリーランスで働く母」というコミュニティを主催したんです。オフ会を開いて、実際にフリーランスで働くママの話を聞くと、みんな同じ悩みを抱えていることが分かって。それで、自分自身が大変だったことや、先輩フリーランサーにお聞きして役に立ったことを情報として発信すれば、同じように悩んでいる女性の役に立つのではないかと気づいたことが『リズムーン』を立ち上げるきっかけになりました。
働く女性を応援したい、でもそのためには何が必要なんだろうとずっと考えてきた自分にとっては、まさにやりたかったことを形にできたので嬉しかったですね。
「リモート」と「リアル」を使い分けて円滑なコミュニケーションを実現
―リズムーン立ち上げ当初は小野さんお一人で運営されていたのですか?
小野:最初は取材、原稿作成、更新作業などすべて一人で担当していました。1年くらい経った頃に、リズムーンを見てくださった方が「お手伝いしたい」と申し出てくださり、徐々にコンテンツの幅も広がっていきました。現在は編集メンバーやライターなど約20名くらいの方に参加していただいています。
―編集部メンバーとはどのようにコミュニケーションをとっているのですか?
小野:リズムーン編集部では、「サイボウズLive」を利用して、月に1度の編集会議を行っています。サイボウズLiveで事前にアジェンダを投稿し、オンライン上でブレストを行います。外部案件ではクライアントに合わせて、チャットワークやフェイスブックグループなどの機能を使うこともありますが、情報がどんどん流れていってしまうので、必要な情報を探したいときには困ることがあって。その点、サイボウズLiveは情報をストックできるので編集部のリモートツールとして重宝しています。
―編集部のメンバーは東京近郊にお住まいの方が多いのでしょうか?
小野:去年まで大阪在住のメンバーが一人いました。3カ月に1回はリアルミーティングを行っているのですが、その時は大阪のメンバーとはスカイプやGoogleハングアウトでつないで参加してもらいました。仕事で東京に来られたタイミングで会うこともありましたね。
とくに、クライアントと大事な打ち合わせをするときは、なるべく会うように心がけています。円滑なコミュニケーションをとるためにも、リモートと非リモートを必要に応じて使い分けています。
―リモートワークは顔が見えないので意思疎通が難しいこともありますが、小野さんは一緒に仕事をする人たちとのコミュニケーションをとても大切にしていると感じました。編集部のメンバーとも良好な関係を築かれているのでしょうね。
小野:リズムーンに参加することが他のお仕事にもプラスになっていることが理想なんです。なので、編集部メンバーには半年に1度、継続意志を確認するアンケートに答えてもらっています。会社組織ではないので、辞めるのも自由ですし、状況が変わったときにまた戻ってきていただいてもいいんです。その辺りはゆるい感じで臨機応変に対応しています。
今後は、お仕事の機会を創出するという部分も強化してきたいと思っていて、2015年から女性フリーランサーとお仕事をつなぐ『リズビズ』という事業を本格的に始めました。登録されている方は、フリーランスののデザイナーさん、カメラマン、ライターさんなど様々ですが、登録いただいた方とお仕事する際には、なるべく直接お話する機会をもつようにしています。
―リズムーン編集部で、ライター・エディター向けのバッグをプロデュースされたそうですね。
小野:はい。荷物が多いライター・エディターにとって使い勝手の良いバッグがあればいいなと。編集部内で開発チームを結成し、裁縫のプロの方にもお手伝いいただいて1年以上かけて企画・開発をしました。そうして完成したのが3WAYで使える「Riz Clutch(リズクラッチ)」で、7月から発売を開始しました。アンケートでも、取材やイベント時に貴重品だけ持ち運べる見た目も可愛いバッグがほしいという声が多かったので、スマホやICレコーダーが入るポケットをつけ、実用性とオシャレ感を兼ね備えたバッグに仕上げました。編集部ではこれからも、あったらいいなと思うような商品の開発にも力をいれていきたいです。
―2014年にリズムーンを事業化されて、リズビズも始まり、さらには商品開発まで! かなり多忙だと思いますが、効率的に仕事をするためになにか工夫をされていますか?
小野:限られた時間の中で、いかに自分がやるべき仕事に注力できるかが課題でした。そこで、自分じゃなくてもできる仕事は他の人に任せようと、1年ほど前からリモートアシスタントのサービスを活用しています。例えば、リズムーンの更新作業や、原稿の入稿作業、レシートの入力といった細かい作業をお任せしています。時間があればやろうと思っていた実績の更新やリサーチなど、手が回っていなかった仕事もお願いできるのでとても助かっています。営業活動やディレクション業務など自分がやるべき仕事に集中できるようになったので、精神的にもすごく楽になりました。
お迎え時間がタイムリミット。締切効果で仕事の効率がアップ!
―会社員と違って、フリーランスは産休・育休手当がないので大変という話をよく聞くのですが、小野さんは産後どのくらいで仕事復帰されましたか?
小野:一人目のときは、産後半年くらいから、メルマガの執筆作業などの家でできることから少しずつ再開しました。子どもが7ヵ月のときに、申し込んでいた保育園に空きがでたと連絡があり、本格的に仕事復帰するチャンスかなと、思い切って預けることにしました。はじめのうちは、仕事を調整しながら徐々に園生活に慣れるようにしたので、私も子どもも無理なく新しい生活に馴染めたと思います。こういうことができるのもフリーランス、そしてリモートワーカーならではですよね。
―リモートワークは自由度が高い反面、スケジュール管理が難しいと感じることがあります。育児もしながらどのように仕事に集中する時間を捻出しているのでしょうか?
小野:子どもを保育園にお迎えに行く18時から就寝時間までは仕事ができません。でも、今から思えば、子どもが生まれる前は、自由な時間が多い分、ダラダラ仕事をしてしまっていました。今は、「18時にお迎え」というタイムリミットがあるので、それまでに仕事を終わらせないと! という締切効果で以前よりも効率的に仕事ができていると思います。
―家事・育児はご主人と分担されているんですか?
小野:出産後は私がメインで家事・育児を担当していましたが、一人目を保育園に預けてしばらくすると、忙しくてうまく回らなくなってしまって。私は仕事に集中できる時間をきちんと確保したかったので、家事と育児をリスト化して見せ、二人で分担することを夫に提案しました。
―それは男性にとってすごく効果的ですね。小野さんのご家庭ではどのような役割分担になっているんですか?
小野:毎朝、子どもを保育園に預けにいくのが夫の担当で、お迎えが私です。厳格に決めているわけではないですが、食事を作るのは私で、後片付けは夫という感じになっていますね。現在、夫も独立をして外にオフィスを構えていますが、以前自宅で仕事をしていた時期もありました。夫が隣で仕事をしていることは気にならなかったのですが、ランチの準備がとてもストレスで。仕事に集中しているときは仕事を中断したくなかったので、ランチは別々に好きなタイミングでとることに決めました。特に在宅のリモートワーカーが良い仕事をするためには、家族の協力を仰ぐことも必要なことですね。
場所や時間に束縛されないことがリモートワークの醍醐味
―子どもが生まれて仕事を辞めたという話をよく聞きます。小野さんはどのような思いで育児と仕事の両立を続けてこられましたか?
小野:私が就職した頃はちょうど就職氷河期でした。でも、20代の頃は結婚後にすぐ仕事を辞める友人も多く、「苦労して就職したのにもったいないな」と思っていました。
―バリバリ働いていた人ほど、出産後に今まででどおり働けないという理由で仕事を辞めてしまうケースが多い気がします。
小野:辞めるか続けるかの二者択一ではなく、少しやり方やペースを変えて続けていくという働き方もあるということを知ってもらいたいです。
いつか仕事復帰するつもりなら、細々とでもいいので仕事を続けて、ゼロにしないことが大切だと思うんです。リモートワークであれば、子どもが小さい間は、週2、3日だけ預けて働くということも可能です。育児だけじゃなくて、家族の介護や自分が病気になったときにも柔軟に仕事を調整できますよね。
―小野さんご自身は、小さい子どもを保育園に預けて働くことに抵抗はありませんでしたか?
小野:私も一人目を出産したときは、子どもが1歳になるまでは一緒にいたいと思っていました。でも、一緒に過ごす時間の長さはあまり問題ではなくて、子どもと関われるときに一緒に楽しい時間を過ごすことが大切だと気づきました。そして、保育園に子どもを預けて働くのであれば、自分がやりたい仕事をしようと思ったんです。やりたくない仕事をしながら子どもを保育園に預けるのはすごく子どもに対しても失礼ですし。当初は自分の思いだけで始めたリズムーンをきちんと事業化しようと思ったのも、3人目が生まれて「これでやっていくぞ」と、自分の中で覚悟を決めたことが大きかったです。
―小野さんの場合は、お子さんの存在がお仕事にも良い刺激となっているのですね。お母さんが好きな仕事で頑張っている姿を見ていれば、子どもも自分の将来に希望を持てるようになる気がします。
小野:子どもを預けて働くということを選択したので、大変なこともあるけれど、楽しんで仕事をしている姿を見て、子どもたちがなにかを感じてくれると嬉しいです。
―最後に、小野さんにとってのリモートワークのメリットを教えてください。
小野:まず、通勤時間を節約できるということです。子どもがいる人は保育園から呼び出されるたびに早退する必要もないですし。先ほども言いましたが、ライフステージに合わせて仕事を調節できることも、女性にとっては大きなメリットですよね。
リズムーンやリズビズの運営などを通して「多様な働き方を拡散する」という事業を展開していますが、場所にとらわれず自由に働く場所を選べるという点も魅力です。私も夫も北海道出身なので、いつか故郷に戻りたいという気持ちもあるし、海外にも住んでみたい。東京にいなくても今と同じように仕事ができるようになることが理想です。
―ライフスタイルの変化をチャンスと捉える小野さんの生き方は、まさにカレイドスタイルが提案する「自分らしく、しなやかに生きる女性」を体現しているように見えました。Web事業だけでなく、女性フリーランスの支援やバッグの企画など、世の中のニーズを敏感にキャッチして、軽やかに実現していく姿に今後も期待が高まります。
この記事の著者:柏木 真由子(Mayuko Kashiwagi)
6年間PR会社に勤務した後、結婚・出産を経てライターに転身。育児・出産・キャリアなどの分野で執筆。プライベートでの夢はすべての猫が幸せになれる世の中をつくること。
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