この夏の参議院選挙から『18歳選挙権』が実現します。
でも、日本のメディアでは、あまりこのことについて議論されていないように思い、ジリジリとした気持ちでいました。
なぜ、18歳から選挙で投票できるようになるのか。そうなることで、社会にはどんなメリットがあって、どんな影響があるのか。そもそも、選挙って何か。清き一票というけれど、なぜ選挙で投票に行った方がいいのか。選挙に行くと、社会はどう変わるのか。
こういうことを、学校でも、家庭でも、地域でも、じっくり話し合う必要があるのではないかと感じています。
そうしたら、昨日、NHKで『18歳からの質問状』という番組が放送されたようで、私もちらっと拝見する機会がありました。
ここでは、多くの18歳のみなさんが、現在、それから将来へ向けて感じる不安について、それから選挙で投票することの意味について、話し合われていました。
近い将来に対峙する就職や結婚などだけでなく、老後についても、すでに不安を感じているということに、悲しみを覚えました。18歳や19歳という年齢は、少なくとも私の育ってきた年代までは大半の人にとって『夢と希望でいっぱいの世代』だったと思うのです。でも、大変な受験勉強をやり遂げて、やっとの思いで大学や希望の進学先に進んでも、その先には大きな不安が立ちはだかっている...。なんだか、やりきれない気持ちです。
人は、基本的に生まれてくる国を選ぶことはできません。普通は、生まれた国で育ち、そこで暮らしを続けていきます。幸いにして、日本は民主主義国家です。ウィキペディアを見てみると「『国民主権』が日本国憲法第一条で定められており、『平和主義』『基本的人権』とともに三大原則のひとつとされている。」「国民主権のもとでは、主権は国民に由来し、国民は選挙を通じて代表機関である議会、もしくは国民投票などを通じて主権を行使する。その責任も国民に帰趨する。」とあります。
つまり、私たち国民が、自分たちが暮らしたいと思う国づくりをするためには、「選挙を通じて代表機関である議会、もしくは国民投票などを通じて主権を行使」することに「責任を負っている」ということになります。『国民主権』も、『平和主義』『基本的人権』も、日本国憲法で定められている事柄ですから、私たち国民には、それを享受する権利と、守っていく責任があるということですよね。
そうすると、おのずと、なぜ選挙に行く必要があるのか、の答えが見つかります。
ただ、日本は、国民から政治がなんだか遠い国になってしまっている気がします。それはなぜか、今、私が暮らしているデンマークと比較して考えてみると、いくつか理由が見えてきます。
- 普段の生活の中で、政治の話はタブーな雰囲気がある
- 学校で、自分の生活と密着した形で地域の政治、国の政治、国際政治、民主主義について実践的に学ぶ機会が少ない
- 家庭で、あまり政治の話をしない
- 大人も子どもも忙しすぎて、身近にいる地元の政治家や政党がどんな政策を持って活動しているのかを知る機会を得られない
- 被選挙権年齢が高く、供託金も高額なので、選挙に立候補できる人が選別されている可能性がある。一般的に若い年代での立候補は難しく、世襲政治家や職業的政治家の増加を助長する一端となりかねない
- メディア上での政治や政策に関する良質な議論や討論の場が日常的に少ない。メディアの大きな役割の一つである、政治についての報道をすることで、国民に政治的判断の基準を与えるという部分が不十分である
- 政治家と腹を割って話せる機会が限られていることが多く、政治に接するのはメディアを通してなので、過去の事例などから、国民の、政治家や政治自体に対する漠然とした不信感が拭い切れない
他にも、いろいろ理由はあるかもしれません。
デンマークと比較して、と前に書きましたが、デンマークではここに羅列したことの反対のことが行われています。国の規模の違いはあろうかと思いますが、全体的に政治が国民、市民に非常に近いところにあります。これまでの国政選挙の投票率が常に85%以上を保っていることからも、その一端がうかがえます。
デンマークは、各種調査で『世界で一番幸せな国』に何度も選ばれています。かといって、全く不満のない国かというと、もちろんそういうわけではなく、問題や課題もたくさんあります。ただ、毎日の暮らしの中で、自分や、家族や、地域の人たちや、国や、世界の人たちの不安をひとつでも取り除いて、心地よく生きられる社会を作ろうと、あきらめずに様々なチャレンジをしている国だなぁというのが、この国に暮らす私の実感です。幸せは、様々な立場の人たちの不安な要素を一つでも減らしていく努力をすることで、得られているものなのです。
そう考えると、冒頭に触れた、日本の18歳、若い世代が感じている不安を減らしていくことが、暮らしやすい国、この国に生まれてよかったと思える国、日本をつくっていくことにつながるのだろうと思います。
デンマークでの民主主義はどのように機能しているのか、教育、福祉、エネルギー、NGO活動を通して、日本はどんな国になりたいのかを、皆さんと一緒に考えるスタディツアーを、この夏に企画しています。見どころ、体験どころ満載ですが、特筆すべきは、かつて1970年代に環境NGOとして、デンマークでの原発の利用の是非について国民や政治家を議論に導いた元原子力情報組織(OOA)の幹部が、草の根民主主義やデモなどについて、一緒に議論に参加してくれることになっています。8月22日〜29日のこのツアーでは、私が責任を持ってコーディネーターと案内人を務めます。ぜひご参加ください!皆さんにお会いするのを楽しみにしています。
※写真はコペンハーゲンのクリスチャンスボー城。デンマーク王室や政府の迎賓館として利用されているほか、国会議事堂、内閣府、最高裁判所が置かれています。デンマークの歴史や民主主義について知るために、ぜひ一度は訪れたい場所です。タワーの上には、眺めがよく、雰囲気のいいレストランも。
(2016年5月5日「Denmark & Japan 日本とデンマーク - aTree」より転載)