日本から「難民」が出る時代に?  伊藤詩織さんと辛淑玉さんのケースに見る日本における迫害と人権侵害

「明日は我が身」です。
A big airplane flying in the sky.
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kokouu via Getty Images

最近とても気になることがあります。いよいよ日本から「難民」が発生することになるのでは、と思わせるような事件が続いているように感じられるのです。

1.伊藤詩織さんのケース

毎日新聞の記事によれば、伊藤詩織さんは性被害を告発した後、インターネット上などで激しい中傷や脅迫を受けた結果、自宅に戻れなくなり、人権団体の助けで昨年秋頃ロンドンに移住されたそうです。

私は伊藤詩織さん個人の「移住」の経緯について詳細は知りませんが、一般論から言えばこのようなケースの場合、イギリス政府によって「人道保護(Humanitarian Protection)」の枠で受け入れられた可能性があります。 

イギリスにおける人道保護制度とは、難民条約上に言う「難民の定義」には当てはまらないけれども、母国に帰ると「深刻な危害に遭う現実的なおそれ」(real risk of serious harm)がある人に与えられる滞在許可です。許可が与えられるのには様々な根拠がありますが、「非人道的な又は品位を傷つける取り扱い」を受けるおそれも、一つの根拠とされています。

例えば、レイプ被害に遭ったのに、その加害者が有力政治家と繋がっているために不起訴処分となり、更に性被害を公表したために一般人から激しい中傷や脅迫を受け、自宅に戻れなくなった等の場合、明らかに「非人道的な又は品位を傷つける取り扱い」にあてはまります。

もちろん本人の主張だけではなく、一定の裏付け資料も必要となります。ただ日本の場合、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ・ランキングで、2017年は144カ国中114位、近年は一度も100位以上に入れたことがありません。これでは、女性の性犯罪被害者に対する日本政府の保護が不十分で、そのような女性に対する社会一般からの差別も激しいというのは「さもありなん」と理解されてしまうのが関の山です。

2.辛淑玉さんのケース

最近海外に逃れたのは伊藤詩織さんだけではありません。ヘイトクライムから逃れるために「事実上の亡命」として昨年秋にドイツに移住したのが、辛淑玉さんです。

報道によると、いわゆる「在日」という出自のために嫌がらせはもともとあったそうですが、某テレビ番組におけるフェイクニュースのために「政治的意見」に基づく激しい迫害に発展したそうです。

しかも2月23日には、極右思想を持つ日本人2名が朝鮮総連に実際に発砲までしていますので、在日コリアンの方々に命の危険が迫っていることが明らかです。

これは難民条約上の「難民」の定義に照らし合わせると、「人種」(コリアン)、「国籍」(韓国籍)、「特定の社会的集団」(女性の在日コリアン)、「政治的意見」(沖縄基地問題)に基づく迫害のおそれがあると、重層的に「難民」の定義にあてはまる可能性があります。

ただし辛淑玉さんの場合は日本国籍ではなく韓国籍をお持ちのようなので、そのような方が国際法上で「難民」と認められるためには、国籍国(この場合は韓国)でも保護が期待できないことを立証しなくてはなりません。

しかし、日本生まれ日本育ちで日本に永住しておいでの辛淑玉さんに突然韓国に行け、というのはさすがに非人道的なので、「難民」としての庇護(亡命)ではなく(人道的)「入国許可」という形でドイツが受け入れたと推察することができます。

辛淑玉さんの移住の経緯について私自身が詳細を承知している訳ではありませんし、全く別(例えば「一時滞在許可」などの)在留資格が与えられたのかもしれませんが、日本で辛淑玉さんが受けたような人権侵害や迫害のおそれのためにドイツが人道的保護を与える、というのは少なくとも一般論としては考え得るシナリオです。

3.人権後進国である日本に対する国際社会の不名誉な見方

残念ながら、日本における迫害や人権侵害が理由で他国に保護される人がいることは、実は新しい話ではありません。

以前のブログでも紹介した通り、日本出身の難民も世界には一定数います。UNHCRの統計資料によれば、世界で難民と認定されたあるいは何らかの人道的保護を与えられた日本人は、2009年~2016年の期間、59人~263人の間を推移しています。

また少し前の事例になりますが、日本における非嫡出子に対する差別を根拠にオーストラリアで難民認定された日本人の方もいますし(但し現在は非嫡出子に対する差別的条項は改正)、アフリカ出身の男性と結婚して生まれたお子さんが日本の公立学校でひどいイジメに遭い、しかもその状態に日本の公的機関が有効な措置を採らなかったので、イギリスで人道的保護が与えられた日本人の方もいます。

実は先進国の多くは難民認定審査において、「通常は迫害が起きない国なので、その国から来た難民申請者については真剣に審査しなくて良い国」を、「安全な出身国」としてリスト化しています。(このリスト化自体の良し悪しについては多々思うところはあるのですが)、ここで非常に不名誉なのは、この「安全な出身国リスト」に必ずしも日本が入っている訳ではない、ということです。(日本を「安全な出身国リスト」に入れていることを現時点までに私が確認できているのは、オランダ、デンマーク、マルタ、スロヴァキア。)

言い換えれば、日本はその他の多くの国によって「日本では個人の人権が蹂躙されたり、日本政府が個人を迫害から保護できない可能性があるから、日本から逃げて来た人はとりあえず保護することを真剣に検討しなければならない」と見なされていることを意味します。

確かに、何が国際法上に言う「迫害」なのかは専門家の間でも必ずしも完全な国際的合意がある訳ではないのですが、日本が難民条約に加入するか否かを審議していた1981年5月29日の国会で政府委員が、迫害とは

たとえば生活手段を剥奪される結果生存に著しい障害が生じるというような場合とか、あるいは不当な拘禁、軟禁あるいは強制労働等、その当該個人の身体の自由が害されるおそれがある場合が『迫害』の具体的な事例かと思うわけであります。

と答弁しています(法務委員会議録第十七号昭和五十六年五月二十九日六頁。また栗山尚一外務審議官(当時)も1981年6月2日の外務委員会で同様の発言)。

この答弁内容に則れば、「生活手段を剥奪される結果生存に著しい障害が生じ」、「身体の自由が害されるおそれがある」ためにイギリスに逃れたのが伊藤詩織さん、ドイツに逃れたのが辛淑玉さんとあてはめることができるでしょう。

日本が、「迫害や人権侵害を行うまたは放置・黙認するような国家」だと見做されてしまうような事件、そのような国際的な評価を強化し裏付けてしまうような事件が今、次々と起きているのです。

そのような日本について「誇らしい」と思えるでしょうか? 

また、日本におけるこのような人権侵害や迫害を放置していたらどうなるのでしょう?

「明日は我が身」です。

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