「個の時代」といわれる今。あなたは何のために働き、何を実現したいのか。
社会課題を解決したい、なりたい自分になりたい、ワクワクを形にしたい−−。モチベーションは多様で、人それぞれ。
しかし、共通して重要なことは、「やりたいことを実現するスキル」ではないだろうか。
「貧困問題にビジネスで仕組み化して貢献する。学生時代に抱いた“思い”を実現しています」
「ひきこもりだった自分が感じた“機会の不平等”を減らすサービスを作りました」
“思い”をテクノロジーとビジネスによって実現させた元リクルートの二人に、「やりたいことを実現するために、会社を使い倒す方法」を聞いた。
──井原さんと前島さんは新卒でリクルートに入社後、現在は独立して起業されていますね。
井原 僕は、行政手続きをITの力で便利にする「株式会社グラファー」のCOO(最高執行責任者)をしています。2017年に設立し、現在は30人規模の組織になりました。
行政手続きって、すごく不便じゃないですか。平日の昼間に有給とって役所に行かなきゃいけなかったり、何枚も書類を手書きで書かなきゃいけなかったり。もっと手軽に行政手続きができるようなサービスを作っています。
前島 私は共働き世帯のフードデリバリーサービス「つくりおき.jp」を運営する株式会社Antwayを2018年に立ち上げました。
共働き世帯は増えていく傾向にありますが、共働き世帯でも女性の家事労働時間の方が長いんです。この不平等さを解決するために、「料理」という家事労働自体を“なくす”サービスを作りました。メニューの選定やキッチンの稼働時間など、テクノロジーの力を駆使して、安心安全な料理をコスト効率良く作って各家庭にお届けしています。
サンドウィッチを買うのに、ハンコを5個もらう。そんな仕事したくなかった
──お二人は学生時代から社会問題に興味があったそうですが、なぜ新卒でリクルートを選んだのですか?
井原 もともと日本の貧困問題に興味があったんです。生まれ育った場所がすごく貧しい地域で、仲の良かった友人がホームレスになっていたり、勉強すると虐待される家庭の子がいたりしていて。国内の貧困問題をなんとかしたい、という思いがありました。
学生時代は大手テレビ局で働いたりしたんですが、メディアは「みんなが興味のある時」しかアプローチしづらいのではないかと。何かサステナブルな仕組みで解決できた方が、個人的にはかっこいいなと思っていたんです。
しかも、とある大手テレビ局では500円のサンドウィッチを社内の喫茶店に頼むのに、ハンコが5個も必要だったんですよ。三十才過ぎの“若手”と呼ばれる人が延々とハンコを取りに行っている姿を見て、「僕はそんなの耐えられない」と思いました。若手に裁量権がなさすぎるんですよね。
そこで、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』の著者、城繁幸さんに会いに行ったんです。「どこかいい会社はないですか」と聞いたら、「外資で働くつもりなかったらリクルートがいいんじゃない?」と言われたのがきっかけですね。
「儲かっても人が喜ばないならやらない」会社の“倫理観”が決め手
前島 私も幼少期の出来事が自分の意思決定に大きく影響しているな、と思います。
私が生まれ育ったのは熊本県。のどかで自然が豊かな反面、東京に比べると子どもが選ぶことができる選択肢が少ない地域でした。学校に馴染めず、小学校2年生ぐらいからひきこもりに。
90年代のひきこもりって結構大変で、今みたいにネットもないし、その地域にはフリースクールのようなものもない。一度レールから外れると復帰の道がなく、完全に社会から断絶されたと感じていました。
その時強く思ったのが、「不公平だな」ということ。たまたまその場所に生まれただけで、選択肢が狭められてしまう。そこから「機会の平等」に興味を持つようになりました。
そんな経緯もあり、大学生時代は貧困問題、女性の権利問題、地域の活性化などについて学んだり、支援するような活動に関わっていました。エンジニアとして受託開発をしたり、地域行政のコンサルティングを起業しましたが、自分の経験値と能力に対して、ビジネスを成功させて社会に与える良い影響の大きさを考えたときに、「期待値が小さい」と思ったんです。
だからこそ、自分に足りないスキルを身に付けて期待値を最大化させたいと思って会社を探しました。その中でリクルートを選んだのは、「会社の倫理観」が決め手でしたね。「利益があっても人が喜ばないならやらないよ」って本気で言ってる人がたくさんいたので、これは間違いないなと思いました。
「2年目、TOEIC300点代でベトナムへ」2万%ムリな挑戦
──お二人とも、リクルートの事業内容というより、環境で選んだんですね。
井原 そうですね。とはいえ僕は入社当時、自分が起業するなんて思ってもいなかったし、むしろコンプレックスの塊でした。でもいくつかのターニングポイントを経て、だんだんできることが増えて、コンプレックスがなくなっていきましたね。
最初のターニングポイントが、1年目の時に「自分はCOO向き」だと気付いたこと。明らかにCEOに向いている同期がいて、「自分はCEOよりCOOを目指した方がいい」って気づけたんです。COOになるんだったら、多種多様な経験をした方がいいと方針を決めて、最終的に兼務も含めて35部署を経験しました。
入社2年目でベトナムのオフショア開発拠点(海外拠点)の立ち上げを自分から提案して、任されたことも大きかったですね。数千万の予算を持ってベトナムに飛んで、国営企業の役員と交渉したりしました。2年目で、ですよ?しかもTOEICは300点代。普通あり得ないですよね(笑)当初は2万%ムリだと思っていました。
しかしそこから最終的に1年半ほどかけて、自分一人から百数十人のベトナムスタッフを抱える組織に成長していきました。この経験は他社のCOOを見てもなかなかできない経験ですし、起業する時に非常に役に立ちましたね。
「実力以上のポジション、失敗ばかり」でも上司がサポートしてくれた
前島 私は入社当初から、自分に足りない「技術・プロジェクトマネジメント・ビジネス開発」の3つのスキルが身についたら「独立して起業する」と上司に伝えていました。私のなりたい姿に向き合ってもらい、いつも実力に見合っていないぐらい重要なポジションに置いてもらいましたね。
2年目には「ホットペッパービューティー」の開発統括にアサインされました。2年目でそこの開発リーダーって、信じられないですよね(笑)
でも上司がしっかり自分のことを見てサポートしてくれましたし、“よもやま”(リクルートの1対1のミーティング)も頻繁にしてくれたりして、なんとかやっていました。
この“よもやま”を通して、「自分のスキルを点検する能力」が得られたのが大きかったですね。実務をしながら、上司が外から見た視点で、私の思考のクセの補正にまで踏み込んでマネジメントしてくれたんです。自分で事業をやるとなると、常に自分のスキルや考え方が事業にとって最適なのか自己点検し続ける必要があるので、これが起業する時に非常に役に立ちました。
4年目にはホットペッパービューティーの新規事業とPL(収益と費用)を見るようになりました。ここで当初目標にしていた3つのスキルを一通り経験できたので、独立することに決めたんです。
共通するのは「成長欲求の高さ」と「プライドの低さ」
──「起業するとは想像もしていなかった」井原さんと、「最初から起業すると決めていた」前島さん。リクルートにはキャラクターが違う多様な人がいるんですね。
井原 今の自分の姿を想像もしていませんでしたよ。まさか自分が起業することになるとは。逆に前島さんと共通しているのは、「成長欲求の高さ」かもしれないですね。リクルートには「手を上げればチャンスがもらえる」環境がありますから。
前島 おっしゃる通りだと思います。リクルートは、 “やりたいこと“や“なりたい自分”など、何らかの意志を持っている人にはぴったりな環境だと思います。
「スキルを得れば、やりたかったことが実現できる」って、昔の自分に伝えたい
ーお二人とも、リクルートで得たスキルが今の事業に活かされていますね。
前島 そうですね。計画より少し遅くなりましたが、立ち上げた「つくりおき.jp」は、やりたかった「機会の平等」につながるようなビジネスです。
井原 今の行政手続きは難しくて時間もかかる。本来国からの援助が必要な人たちよりも、時間や精神的に余裕がある人の方がその恩恵を受けやすい状況にあるんです。そこを変えるサービスを作っているので、僕も回り回って実現できていますね。
リクルートでは日本の貧困問題と関係のない仕事をしていたけれど、「スキルを身につけてちゃんとやりたいことを実現するって、本当にあるんだよ」って、当時の自分に言ってあげたいです。
◇◇◇
井原さんと前島さんは、リクルートの環境や資源を“使い倒して”スキルを得ることで、自身の“思い”を実現させていた。
起業をするなんて考えたこともなかった井原さんと、最初から起業をすると決めていた前島さんのように、リクルートには多様なモチベーションや思いを持つ人がいる。
リクルートが運営する「SearchRight」では、様々なキャリアを歩んだ人のインタビューが掲載されている。多種多様なキャリアを知ることで、自分の道が広がるのではないだろうか。