サイボウズ式:「新卒一括採用だと面白い人が入ってこない」は本当か?

ここ数年は学歴であったり、同じような感じの学生が採用されているように感じています。
マツナガエイコ
サイボウズ式編集部より:著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。読者のみなさまからご相談を募集したところ、たくさんのお悩みが届きました。届いたご質問やご相談をいくつか取り上げて、ブロガーのみなさまに回答していただきます。今回は、はせおやさいさんからの回答です。

ご相談内容

ーー:採用について、ここ数年は学歴であったり、同じような感じの学生が採用されているように感じています。突拍子もないような一芸を持っている(とにかく元気、あんまり賢くないけど愛嬌があるなど)人がいても良いのではないかと思います。

採用プロセスも画一化せずに、いろんなパターンがあってもいいのではないでしょうか(例えば、学生にどのパターンの面接を希望するか選択させるなど)。

これまでに面白いと思った採用などがあれば教えてほしいです。(ミドリムシ・リーダー/マネジメント層)

「画一化した採用プロセス」にもメリットがある

ご質問ありがとうございます。内容を拝見するに、新卒の採用についてかなと思うので、そちらについて書きますね。

まず、わたし自身の経験でいうと、これまで「社員数千人規模の大企業」から「社員数一桁のベンチャー企業」など、いろんな会社で働いてきました。いずれもの社員を経験してみて思うのは、「新卒一括採用」には、メリット・デメリットの両方がある、ということです。そして、それは会社の規模やフェーズに大きく関連します。「画一化した採用プロセス」というのは、大量に、しかも若い人員を採用しようというフェーズにある企業にとって、やはりメリットが大きい。

まだ何者にもなっていない新卒社員を採用し、彼らを育成するフローが整っているのであれば、画一的なプロセスを通過した人たち、つまり「最低限備えておいて欲しい」と思う能力の粒度がそろった人たちを育成のフローに乗せ、育てる過程で見えてきた個々の差異を見極めて配属する、というのは、非常に効率が良い方法です。

その場合、あまりに個々の差異が大きすぎると、既存のフローをカスタマイズしなければいけないので、育成に負荷がかかってしまいます。そのため、いわゆる「このラインまでクリアできていれば、入社後に育成するよ」という方針での採用スタイルになるのだと思います。

その人の「奇妙さ」を見つけて伸ばすのは、会社の役割でもある

とはいえ、なんだかんだで人間それぞれに個性は絶対にあるわけで、画一的な採用プロセスを経て入ってきた人でも、それぞれ面白い側面が(もちろん強弱あるものの)、必ずあると思います。面接でアピールしなかった隠れた特技があったり、面白い視点や発想を持っていたり、本人が自分を開示できるようになるに従って、「あれっ」と思う部分が必ずあります。

なので、「画一的な採用プロセスだからといって、面白い人が入ってこないか」というとそうではなくて、入社以降、その人の「奇妙さ」——ご質問内容でいう「突拍子もないような一芸」を見つけて伸ばすのも、会社の役割なのではないかと思っています。

会社という組織は、基本的にチームで動くものです。チーム内のメンバーの個性が似通っている場合、意思疎通がしやすかったり団結が生まれやすかったりなどのメリットもありますが、裏を返すと似たような意見やアイデアしか出なかったり、見落としをカバーするための視点が落ちてしまいがち。

たとえば、ホンダ(本田技研工業株式会社)の創業者である本田宗一郎氏が側に置き、「名参謀」として知られる藤沢武夫氏は、本田氏とは真逆のタイプであったと言います。本田氏が天才的な技術者であったのに対し、藤沢氏は根っからの経営者。藤沢氏は天才的な技術者である本田氏が研究開発に集中し、その才能をいかんなく発揮できるよう影から支えたそうです。

このように、それぞれのメンバーが持つ異なる特性が噛み合うとき、組織というのは最大のメリットを発揮するのではないか、と思います。そして、「その人自身だけでは到達できない場所へ行ける視点やチャンスを作る」というのは、「組織」というさまざまな人が集う場を提供している企業が、そこへ参画してくれるメンバーにプレゼントできる機会のひとつなのだと思っています。

何らかの利益を生み出せそうだと思える人を採用したいのは、どの企業でも共通

一方で、個々の能力差が大きくても「突出した何か」がある人材がほしい、ということに優先度を置き、そのための受け入れ体制は整えられるのであれば、プロセスはバラバラでよく、いわゆる「一本釣り」スタイルのほうが、求める人材と出会いやすいですよね。ただこの場合は、受け入れる側にもそれなりのコストがかかりますし、それぞれの人材に対してオーダーメイドでの育成フローが必要になるので、相応の覚悟が伴います。

また、一芸の有無を優先して採用するスタイルは一見面白く感じますが、基本的に会社は営利団体であり、何らかの利益を生み出せそうだと思える人を採用したいのは、どの企業でも共通です。多くの企業が画一的な採用プロセスに走ってしまうのは、この採用・育成コストと彼らから得られる利益のバランスを取るのが難しいからで、いたって合理的な判断で、一概に否定できないやり方だと思います。

「面白い採用」とは「その人の突出ポイントを見極める」ための手段

上記を踏まえた上で、「面白い採用」とは、あくまで「その人の突出ポイントをどう見極める」という目的を達成するための手段であり、その目的を達成できる範囲内での企画勝負になるのかなと思っています。もちろん、PR効果を狙って奇をてらう、という視点もあります。

たとえば日付や季節イベントに絡めたり、今までは「エントリーシートを書いて、さらに履歴書を書き、必要であれば印刷した上で郵送し......」などのステップが必要だった申し込みのプロセスを、「指定するSNSのアカウントさえあれば、ワンクリックで応募完了」にするなど劇的に変えてみたり、服装や面接場所の指定を、常識外れなものにしてみたり......という感じです。

今回いただいた質問をふりかえると、「もっと面白いメンバーに出会う採用方法があるのではないか?」という疑問は、もっともだと思います。そしてそういう採用方法を選択できる会社は、それだけメンバー受け入れに力を入れている、人材のユニークさに優先度を置く、という方針をとっていることのあらわれなのだろうと思います。(そういう会社が増えるといいな、とも思っています)

相手に求めるもの、与えられるものを最も効率的にアピールできる方法は何か?

そういった状況の中で、わたしが面白いなと思った採用は、一緒に働くであろうメンバーに「この人と、2人で2泊3日の旅行ができるかどうか? を判断させ、受け入れメンバー同士で議論させる」というものでした。

旅行というのは、さまざまな判断を即決で求められることが多いイベントです。行き先までどういう交通手段や経路で行くのか、もしそこにトラブルが発生したときどう対処するのか、どんな行動を取るのか、待ち時間や移動中の時間をどう過ごし、相手とどんな話をするのか。そして不測のトラブルに巻き込まれたり、お互いが疲れて無口になってしまうなど、いわゆる「uncomfortable(気まずい)」な時間を共にできそうかどうかを考えてみるのは、かなりハードルが高くはありますが、なかなかシンプルな判断基準だな、と思いました。

というように、自分たちが新しいメンバーとして受け入れる相手に何を求め、同時に自分たちが何を与えられるかを考え、それを最も効率的にアピールできる方法は何か、を考えることで、今後の採用プロセスも変わっていくのかもしれませんね。

とは言うものの、採用とは候補者の人生を大きく変えてしまう可能性をはらんだ決断です。「スキルはないけど面白そう」と思って採用したけれど、実際のビジネスの場では一緒に働きづらいと思ったのですぐサヨナラ、ということにならないよう、企業の果たすべき責任を重く考える必要も、同時にあるのではないかと思います。

どうかよきメンバーと出会えますように!

今日はそんな感じです。

チャオ!

イラスト:マツナガエイコ

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年4月26日のサイボウズ式掲載記事
より一部編集して転載しました。

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