東日本大震災が発生してから3年半以上が過ぎた現在、被災地では復興支援活動が続けられている。ヤフーは宮城県石巻市に支社「ヤフー石巻復興支援ベース」を開設して、現地の特産品を販売したり、イベントを開催したりしている。時間の経過とともに、被災地の状況について耳にすることが徐々に少なくなる中、復興支援活動はどんな状況にあるのだろうか。ヤフー石巻復興ベースで復興支援事業に取り組む長谷川琢也氏が現状を語った。
■地元では気づかない「わかめしゃぶしゃぶ」の良さ
ヤフーの長谷川琢也氏は震災前、Yahoo!ショッピングやヤフオク!の販促を手がけてきたが、東日本大震災を機に、同社が2012年7月に設立したヤフー石巻復興ベースに移った。常駐スタッフは5人で、現地の特産品のネット販売やイベントの開催など、数々の事業を手がけている。自ら漁を手伝うなど、現地に根ざした活動を展開している。そこで気づいたのは、現地の人たちが、地元の良さに気づいてないということだった。長谷川氏は、「わかめしゃぶしゃぶ」を例に挙げる。
こちらに来て、「わかめしゃぶしゃぶ」というのを知りました。わかめをお湯にさっと入れるとキラキラと緑に変わります。その体験も楽しいですし、すごく新鮮で、味付けも、海の味がそのままついています。1本丸々でも十分食べられるぐらい美味しいです。
そこで、「わかめしゃぶしゃぶ」を販売しようとしたところ、こんな反応が返ってきたという。
「わかめなんてネットで売れるわけがないだろ」と言われました。写真も「ただの緑の画像にしかならない」と言われましたが、とにかく用意して掲載してくださいと頼んで、去年の4月11日、「復興デパートメント」に「三陸の生わかめが旬」特集を組んで、「わかめしゃぶしゃぶ」を紹介したところ、思った以上に反応がよくて、1週間で数百万円の売り上げがありました。
震災を契機に全国各地から人が集まることにより、このような新しい情報発信の流れが生まれた。
地震と津波で色々なものが壊れましたが、建物だけでなく、人と人の間にあった壁も壊れたのが東日本大震災の一番の特徴なのではないかと思っています。全国からボランティアという形で人がくるようになって、若い人が漁師のおじいちゃんとつながって、新しい情報発信が生まれています。
長谷川氏は、「よそ者」の視点を生かして、事業を展開してきた。
■いかにストーリーを作れるか、「復興デパートメント」の挑戦
ヤフー石巻復興ベースの取り組みは、単なるボランティアではなく、ビジネスとして成功することを目指している。だから支援「活動」というよりも、支援「事業」だ。ビジネスとして、何かを買ってもらうためには、いかに多くの人の共感を集められるかが重要になるだろう。そこで、長谷川氏が重視したのが「ストーリー」の発信だった。
情報発信のうまくいく事例を作れるかもしれないと思い、ヤフーで「復興デパートメント」を立ち上げました。復興へと走り始めた人たちによる、東北の思いがつまった総合百貨店です。「デパートメント」という名前にしたのは、ものを売るだけではなくて、催事場で色々なプロジェクトの情報を発信する場所にしたいという思いがあります。
ものを売るだけでなく、情報を発信することを重視している。
単純にものを売っても、他の全国のライバルの商品に勝てないので、「復興」というストーリーが必要なのです。2011年に立ち上げた時は、商品数も34点だったのですけど、3年で2000点以上に増えました。しかし、ネットショッピングとしてはまだまだです。
ほかにも成功例が出てきている。その一つが、「石巻爆速復興弁当」だ。
石巻の美味しいものをお弁当にして、今このような状況ですというのを伝える弁当事業を、最初はヤフーの社食用に考えていたのですが、メディアの食いつきが良くて、駅弁、高速道路、インターネット、はとバスや空港の空弁としても売れています。弁当1個につき、50円が復興支援の寄付金になります。1000万円の売り上げを記録する月もあり、寄付金も累計で500万円くらい集まりました。
さらに、東北の工芸品をプロモーションする「東北ものづくり特集」や、全国から募ったデザイン案を東北の伝統工芸の技術で実現する「プロダクト・デザイン・ラボ」など、様々な事業を展開している。2014年9月には、自転車イベント「ツール・ド・東北」を開催するなど、復興を肌で感じてもらえるような企画も立案している。一過性のボランティアではなく、持続可能な展開を目指している。
社長にも事業を成功させてこいと言われています。インターネットでの情報発信や商売が得意だと言われている会社が、あっちに行って失敗をしてしまったとなると、他の人も離れてしまうから、そういう責任も感じながらやっています。今は黒字化できていない状況ですけれど、活動を続けています。
ビジネスとして成功させるにはハードルが高そうだが、今後の被災地の支援事業のモデルケースとして、注目すべき点は多そうだ。
■「よそ者」、「若者」、「馬鹿者」が地方を元気にする
企画を立案するためには、自分たちの強みがどこにあるのかを認識する必要がある。
「よそ者」、「若者」、「馬鹿者」が地方を元気にするという話があります。そういったコーディネーターが重要で、地方の面白いプロジェクトには優秀なコーディネーターがいて、素晴らしい情報発信やプロジェクトの企画を考えています。
長谷川氏はその一例として、「東北食べる通信」を挙げる。
食べ物と新聞が一緒に届くという月額購入のサービスです。こういったものが生まれています。2000人の会員がいます。会員の人たちのネット上でのコミュニケーションが活発で、深いコミュニケーションが生まれています。うまいファンを掴めるのであれば、場合によってはマスメディア的な発信が無くても成立するような情報発信になるかもしれません。
長谷川氏が注目しているものの一つが「けん玉」だ。
世界のストリートカルチャーの若者たちがけん玉をやっていて、日本で認定けん玉を一番作っているのが山形県長井市なのです。そこで町おこしの情報発信を頑張っている若者たちが、石巻にまでわざわざ会いに来てくれて、『山間部と沿岸部両方が疲弊しているから、両方が盛り上がるようなプロジェクトをやりませんか』とアイデアを出してくれました。そのアイデアを受け、BEAMS創造研究所と一緒に「KENDAMA TOHOKU」というプロジェクトを行いました。日本で今ストリートけん玉の第一人者とも言えるNOBさんや宮藤官九郎さんがデザインを担当して、かなりヒットしました。
外から来た「よそ者」たちが次々と新しい動きを起こしている。地元にはない「視点」をいかして、新たなつながりが生まれている。地元で愛される「よそ者」として、長谷川氏のチャレンジは続いている。(編集:新志有裕)
※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第12回討議(14年6月開催)を中心に、記事を構成しています。