森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。2月号の「時評」欄では、東京五輪会場となるお台場海浜公園の海洋汚染問題で、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが、雨庭(あめにわ)という解決策について論じています。
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「それは雨庭で万事解決しよう!」。東京オリンピック・パラリンピックのオープンウォーター・スイミングやトライアスロンの競技会場となるお台場海浜公園(港区)の海の水質検査で、大腸菌数が基準値の20倍以上など基準値を上回るバクテリアが検出されたという報道に接して、ひらめいた。競技団体である国際トライアスロン連合が懸念を示し、東京都は競技会場となる海に水中スクリーンを設置する実証実験や、下水処理施設の整備などの対策を進めるというが、筆者はアメリカ・シアトル市の雨庭プロジェクトを思いだした。
写真のちょっと変わった庭はLID(低環境負荷開発)の取り組みで、市が費用負担までして普及を図っている雨庭だ。芝生の庭に窪地を作って多様な植栽を施し、屋根からの雨樋の水を導き、砂利は小さな河原のようだ。雨樋から直接下水に排水するのではなく、各戸敷地での雨水一時貯留機能を持たせている。各住戸の要望に配慮して施工されるから、街路はさながら雨庭展覧会だ。住民に聞いてみると、お庭がきれいになる費用を負担してくれる上に、汚染物質浄化機能も期待できて素晴らしい、とのこと。雨庭の汚染物質除去率は条件によって変動すると思われるが、アメリカ環境保護局は、リン70~83%、金属(銅、亜鉛、鉛)93~97%、窒素68~80%、全蒸発残留物90%、有機汚染物質90%、細菌90%の除去能力が期待できるとしている。
この雨庭プロジェクトが進んだのは、2003年の大雨の時に、ピュージェット湾で産卵直前のギンザケが大量斃死した事件があったからだ。下水処理場の処理能力を超えた合流式下水道の水が未処理のまま海に流出したのである。汚染対策で大規模な分流式下水道や下水処理場を整備するよりも、こうした小規模分散システムがコストだけでなく、多機能性の点で優れていることが、雨庭やその一種の生態緑溝(植栽や砂利等で構成された排水溝)の普及を図る大きな動機となっている。
報道された東京都の担当者のコメントによると、お台場の汚染は「東京で8月に21日間連続で雨が降った影響が出た」ため。雨水と汚水を一緒に流す合流式下水道のこの弱点に対して、みんなで雨庭化プロジェクトを推進する、という解決策を提案したい。庭や公園はもちろん、青空駐車場も既存ビルも、雨庭化が可能なのである。東京都としては街路植樹帯の生態緑溝化を図って都市環境を改善する良い機会だ。ニューヨーク市がハリケーン・サンディの時の浸水被害に懲りて、雨庭の整備や街路の生態緑溝化に乗り出したのも、洪水調節や水質浄化のみならず、生物生息環境保全、ヒートアイランド現象緩和や景観改善など、様々な機能が期待されるからだ。筆者の監修した京都学園大学京都太秦キャンパス雨庭や京都駅ビル緑水歩廊は、「環境・経済・社会」の諸問題の同時解決を目指したグリーンインフラの事例として、2017年度版「環境・循環型社会・生物多様性白書」で紹介された。