アメリカ・ペンシルベニア州保健省のトップとして、新型コロナウイルスと日々闘っているレイチェル・レヴィン保健省長官。彼女は自身に向けられたトランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)とも闘っている。
レヴィン氏は7月28日、新型コロナウイルスの記者会見冒頭で「LGBTQハラスメント、特に私自身に直接向けられたトランスフォビアに対して、話したいことがあります」と切り出し、LGBTQの人たちに対するハラスメントをやめるよう呼びかけた。
パンデミックとともに増えた、侮辱やハラスメント
新型コロナウイルス感染が拡大して以降、ペンシルベニア州では、生活必需品以外の店舗の閉鎖や公共の場でのマスクの着用義務付けなど、感染防止策を進めてきた。
保健省長官であるレヴィン氏は、積極的にメディアに出演して、州のガイドラインや外出禁止要請について説明したり、マスク着用を呼びかけたりしてきた。
しかし、メディア露出や感染対策強化が進むにつれ、政策ではなくトランスジェンダー女性であるレヴィン氏の性自認に対する侮辱的な言動や攻撃が目立つようになった。
5月には、ラジオ番組の司会者がレヴィン氏に対して男性に使う「Sir(サー)」という敬称を使った。レヴィン氏は「どうか性別を間違わないでください」「とても侮辱的です」と答えたと地元のニュースサイト・ペンライブは伝える。
6月には、スコット郡区の委員が「女のような格好をしている男の言っていることはうんざりだ」と発言。委員はその後、辞任した。
7月初めには、歴史あるイベント「ブルームズバーグフェア」が、かつらやドレスを着用した男性の写真に「レヴィン博士ですか?」とコメントをつけてFacebookに投稿し、物議を醸した。
その後、モリス郡区にあるレストランが、レヴィン氏の名前を使った料理「レヴィン・ボール」を作って批判された。レストランを訪れた人が投稿したメニューの画像では、料理の説明にレヴィン氏の名前と「he(彼)」という男性を指す代名詞が使われていた。
寛容の精神だけではなく、受け入れ歓迎する精神を持って欲しい
レヴィン氏は28日の会見で、こういった侮辱や差別は、自分自身にだけに向けられているわけではないと語った。
「(差別や侮辱は)私に対する不満の表現だと思っているのかもしれません。しかし実際には、ペンシルベニアの大勢のLGBTQの人たちを傷つけています。彼らはハラスメントに直接苦しんでいるのです」
「こういった行動は、LGBTQの人たち、特にトランスジェンダーの人たちに対する不寛容と差別の精神を広げています」
侮辱的な言動をしたラジオ司会者やブルームズバーグフェア、レストランは、レヴィン氏に対して謝罪の意を表明している。
レヴィン氏は真摯な謝罪は受け入れたいと話す一方で、謝罪は会話の終わりではなく始まりだと述べ、次のように訴えた。
「ペンシルベニアの全ての人たちに、LGBTQの人たちに対する寛容の精神だけではなく、受け入れ歓迎する精神を持って欲しいと伝えたい」
「私たち全員が、LGBTQの人たちを受け入れて歓迎する精神を育て、多様性に富んだ素晴らしい州を祝う必要があります」
レヴィン氏はまた、自分には憎しみや不寛容に対応するための心や時間の余裕はないとも語った。
「私の心は人々を助けたいという熱い想いでいっぱいなのです。ペンシルベニア州の皆さんの公共衛生を、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックから守るため、私の時間はいっぱいです」
レヴィン氏はコメントを、Twitterにも投稿した。
レヴィン氏のツイート:「LGBTQハラスメント、特に自分に直接向けられたトランスフォビアに対して答えなければいけないと感じました。あなたの行動は、LGBTQの人たちに対する不寛容と差別の精神を広げます。特にトランスジェンダー の人たちに対して」
レヴィン氏はペンシルベニア大学医学部の教授で、2017年にトム・ウルフ知事に保健省長官に任命された。
会見の後半で、レヴィン長官は侮辱的な言動の背景には新型コロナウイルスによる強いストレスがあるのだろうと理解を示す一方で、それが不寛容の理由にはならないと述べた。
「自分に理解できないことが起きた時に、人は強いストレスを感じそれが怒り、さらに憎しみになります」
「理由はあるのかもしれませんが、言い訳は許されません。そのために、寛容や受容、そして全ての人たちを受け入れて欲しいと私は呼びかけました」