なんで、自分だけが我慢できないんだろう?
思春期から意識が飛ぶほどの生理痛に悩まされてきたという、浅井しなのさん。周囲に理解されづらい痛みから、自分自身を責めてしまった過去を乗り越えて、フェムテック業界へ飛び込んだ――。
「生理が来るたびに、もっと自分らしくなる世界が実現したら?」
その問いを胸に、起業家として目指す未来とは。問いから未来を作るSHIIBUYA QWS(渋谷キューズ)との連載第2回は、SHIBUYA QWSを拠点にreanneプロジェクトを牽引する、株式会社asai代表・浅井しなのさんに話を聞いた。
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「生理痛で卒倒」「早期閉経のおそれ」起業の原点は自身の悩みだった
―はじめまして。自己紹介をお願いします。
はじめまして、株式会社asai代表の浅井です。生理の血の状態を記録して、リアルタイムで共有できるアプリ「reanne」を開発しています。
―起業のきっかけは?
在学中にコロナの影響で企業の採用活動がストップした時期があり、自分を見つめ直すきっかけになったんです。それで「自分ごとの悩みを解決したい」と気づいて。これまで悩んできたことは何か自問したとき、「やっぱり生理のことだな」と。
それから2021年の大学卒業とともに起業し、22年に「問い」を起点に新しい社会価値の種を生み出すことを支援する共創施設「SHIBUYA QWS」に入会しました。
―生理について、どのように悩んでいたんですか?
中学のときから意識が飛んでしまうほどの生理痛があって、教室で倒れて車椅子で運ばれることもしばしば。だけど、耐え難い痛みがあるにもかかわらず、自分が異常だと気づかなくて。
母や妹は比較的生理が軽かったので、家族に相談してもあまり理解されないというか……。「なんで自分だけが我慢できないんだろう」と自分を責めていた時期もありました。
―つらかったですね……。婦人科には行かれたんですか?
はい。成長するにつれて痛みが悪化して、大学では毎月のように倒れて保健室に運ばれるようになってしまったんです。それで、保健室の先生に「お医者さんに行ってみたら?」と後押ししてもらって。
さらにパートナーの勧めもあって、勇気を出して病院に行きました。そしたら、子宮腺筋症(※)が見つかって。いまは低用量ピルや漢方を服用して、緩和してはいます。
※子宮内膜と似た組織が子宮の筋肉の中にできる病気。月経痛や月経血量の過多などの症状を来たし、月経がある限り子宮腺筋症は進行していく
―周りの後押しがあってよかった。
はい、本当に。
―生理のほかに女性特有の悩みはありましたか?
ブライダルチェックを受けた経験もあり、そこで早期閉経の症状があるとわかりました。当時22歳の私にはかなりショッキングでしたね。
生理に限らず、女性特有の悩みはさまざまあります。私自身、長らく悩んできた経験がreanne開発につながっています。
生理のたびに、もっと自分を知る。生理が「特権」と思える世界をつくりたい
―SHIBUYA QWSを拠点にしているそうですね。QWSの施設名の由来は「Question with sensibility(問いの感性)」ですが、reanneにおける「問い」は何ですか?
「生理が来る度に、もっと自分らしくなる世界が実現したら?」です。
―どんな思いを込めているんでしょう?
以前SHIBUYA QWSのQWS CROSSTAGE(※)で、大きな模造紙に「生理の悩みを書いてください」と募集をしたことがあったんです。
※SHIBUYA QWSで活動する会員が渋谷スクランブルスクエア7階の商業フロアにプロトタイプを展示し、お客様からフィードバックをもらう実証実験イベント
さまざまな悩みを付箋に書いて、貼ってくれていたなかに「生理は素晴らしいものだと思う」という女性の意見があって。すごく納得したんです。「たしかに」って。
私はこれまで生理にさんざん悩まされて、振り回されてきました。だから「いつものパフォーマンスを発揮できない」「自分らしくいられない」と悔しく思うことも多くあった。
だけど生理って、本来は子孫を残せる素晴らしいものであるはず。だから、生理を前向きに捉えて、「生理が来るたびに自分らしさを実現できる世界があったら、ワクワクするんじゃないかな」って。そんな思いで、問いを立てたんです。
―私は生理が来るとげんなりしてしまうので、それを楽しみにできる世界なんて素敵だなと思います。
そうなんです! 自分らしさを発揮するには、まず自分を知ることが大切だと思っていて。だから、究極的には生理の血を解析して、自分の健康状態を把握するサービスをつくりたいんです。
そうして、毎月の生理が来るたびに自分のことを深く知って、さらに自分らしさを実現するアクションがとれる。生理を「特権」だと思えるような世界をつくりたいと思っています。
―SHIBUYA QWSでは、さまざまな人たちがプロジェクトに取り組んでいますが、刺激を受けることはありますか?
SHIBUYA QWSでは最近「相席文化」があって。たとえば、大きな机に私がいて、高校生がいて、大企業の人がいて。みんな、各々のプロジェクトに取り組んでいる。
そんな感じで、同じ机にいろんな人が相席するからこそ、ふとした会話ができたり、「この人も頑張ってるから、私も頑張ろう」って気持ちになれたり。日々刺激をもらっています。
―いい環境ですね。
すごくあたたかい場所です。
会員同士が交流するコミュニティもあって、私は餃子部の部長をしているんです。最近は毎週、部活のメンバーと餃子を食べに行っています。
「餃」の文字通り、食べて交流することで生まれる会話もあるじゃないですか。そうした会話を重ねてきたので、本当にみんな仲がよくて。人生相談をしたり、事業の相談をしたり。公私ともに支え合える。最高の環境です。
「第二次生理革命」を起こす。「reanne」に込めた思い
―reanneアプリのリリースはいつですか? ぜひDLしたいです。
ありがとうございます。今年の5月予定です。
―今回のリリースでは、どんな機能が使えるんでしょう?
生理の血の量や状態を記録して可視化、共有するのが基本的な機能です。くわえて、生理に伴う体調の変化や、医療機関での受診内容、婦人科検診の検査結果なども記録、共有することができます。
―生理を共有する、というのは斬新ですよね。
これまでタブーとされていた生理を共有することで、生理にまつわる不安や不満を解消したいと思っています。
じつは「reanne」のネーミングには、「第二次生理革命」を起こしたいという思いを込めているんです。
―生理革命?
62年前の11月11日に日本初のナプキンとして「アンネナプキン」が発売されたんです。以前は、布や脱脂綿をゴムでギュッと引き詰めて生理の血を吸水していたのが、やっと日本でもナプキンが発売された。
それは、当時の女性たちのなかで、まさに「革命」だったと考えていて。私もそれくらい大きな変革を起こしたいと思っているんです。
誰にも相談できない不安や不満、不調で自分のパフォーマンスがうまく発揮できない不便。いろいろな「不」がある生理だけど、「本来、素晴らしいものなんだ」と感じられる世界をつくりたい。そんな思いを込めて、「第二次生理革命」を起こす「reanne(リ・アンネ)」と名付けました。
ちなみに、昔は生理のことを「アンネ」と呼んでいたそうです。だから、いつか生理が「リ・アンネ」と呼ばれるようなになったらいいな。なんてことも思っています。
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問いを起点にした共創施設SHIBUYA QWSの情報はこちら。
reanneの情報はこちら。
写真:KAORI NISHIDA
取材・文:midori ohashi
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