Courtesy of USC
先日、ショッキングなニュースがロサンゼルスの高等芸術教育界を駆け巡りました。5月15日、南カリフォルニア大学ロスキー・スクール・オブ・ファインアートの大学院生が、教育制度とカリキュラムに対しウェブサイトで異議表明書を公開、全7人が一斉に退学を申し出たのです。
その表明書の内容は「私たちは、時間、お金、そして学校の信頼を失った」というものでした。彼らは、奨学金の減算、教授の無情な教育姿勢、また、学部プログラムの改訂要望についてオンラインで言及。さらに翌日には、同プログラムの修士課程を終了した生徒がボイコット、2015年度の卒業式に全員欠席するという事態が起こったのです。
このニュースを聞き私が思ったこと、それは「ついにやったか」。
今回の騒動について、ロサンゼルスの美術業界に携わる幅広い人々の意見がSNSに殺到。美大生だけではなく、アーティストや美術評論者までがコメントを寄せました。「Yes! 勇気ある行動」、「アートギャラリーはこの7人に展覧会の機会を与えるべきだ」、「彼らはロサンゼルスの真のアーティスト」など、退学した生徒をサポートする内容が多数。この出来事により学生はヒーローとなり、長い歴史を持つ名門私立校である南カリフォルニア大学にとっては大きな汚点となりました。なぜ、このような結果となったのか。
カリフォルニア州の高等教育は、バジェットカットという大幅な予算減少を余儀なくしており、2011 年時点で州の大学・短大においての教育予算が6億5千万ドル減少。各校で全体の20%のコストカットが発生し、授業、教授、その他の運営費を最小限の状態に抑えなければならないという現状となりました。キャンセルされる授業、授業料増加で入学できない生徒、フルタイム教授が一つの学部に対したったの一人であるという事態が続いています。実際に、私が院生として大学に通っていた頃に、大きな手持ち看板や幕を持ち、キャンパス内をプロテスト行進する大勢の学生達を何度も目撃しました。
カリフォルニア州にある大学の全カリキュラムが同じ状況下にあるとはいえませんが、美術教育、特にロサンゼルスでは、高等芸術教育に対し不満を持つ学生は決して少なくありません。中でも問題視されているのは、教員の数と素質、そして教授の矛盾した教育姿勢です。
大きな学部にしても、教授がたったの一人、その他のインストラクターは在学中または修士取得直後の大学院生、もしくは非常勤講師で補うなど、予算減により修士を保持する経験豊富な外部アーティストの不採用や、教育者の少数化が目立っています。学部はまるで鎖国と化してしまい 、これでは進歩的な教育を与えられず、生徒の著しい成長をサポートすることができません。
そして、美術教授の授業態度にもインモラルが見られています。ある美術の非常勤講師が、教授に挨拶をしようと油絵の教室に足を運びました。すると、一人の学生が油絵の具を素手で取りペイントしています。油絵はシンナーやテレビン油など有毒な科学液を使いますので、長時間直接触れるのはとても危険です。非常勤講師はそのことを教授に告げましたが、生徒に注意することはなく、「好きにさせておけ」と放っておきました。また、他の教授は学期中に忽然と姿を消し、数週間後何事も無かったように出校。その間生徒はメールで連絡も取れず、教授が書くと約束していた仕事採用の推薦状も手つかずのまま、結局提出期限が過ぎてしまいました。
これらは全て実話で、終身在学職を持つ教授の立場と職権を乱用した無情な出来事が、市内のあらゆる美術大学起こっています。それも、一度や二度のことではありません。
このような現状に対し、従来の生徒ができることといえば、キャンパス内でデモを起こすことだけでした。しかし、今回のロスキー・スクール・オブ・ファインアートの院生の抜きん出た行動により、たくさんの美大生が抱えていた葛藤が解け、この度の結果になったというわけです。
生徒達の行動が、カリフォルニア州の大学に今後どのような影響を与えるのかは定かではありませんが、ロサンゼルスのアートシーンと美術教育界に多大なインパクトを与えたことに間違いはありません。これを期に、全ての学生が良い環境で充実した教育と安心できるキャンパスライフを得られることが何よりも重要であるというという認識が高まれば、それだけで大きな収穫となるのではないでしょうか。