■ プロフェッショナル・グリーフとは?
病院、高齢者施設、在宅ケアなどの現場で働いていると、喪失を頻繁に経験します。
患者さんや利用者さんが亡くなったとき、私たち医療従事者も悲しみを経験しますが、それを表出する機会は少ないのではないでしょうか。
大切な人を失ったときに起こる深い悲しみをグリーフと言いますが、職業柄起こるグリーフは「プロフェッショナル・グリーフ」と呼ばれます。
日本では耳慣れないかもしれませんが、アメリカの医療者の間では、よく聞かれる言葉です。
このようなグリーフが長年積み重なると、さまざまな症状が現れます。仕事が思うようにできなくなったり、バーンアウト(※)したりするのです。
※燃え尽き症候群のこと
私も長年ホスピスケアに携わる中で、プロフェッショナル・グリーフを経験しました。
しかし、医療従事者は患者さんの死を個人的なものと捉えないようにトレーニングされていますので、このようなグリーフは自分でも気づかないことが多いです。
あなたの職場では、悲しみを表現できるような雰囲気はありますか?
私が、家族やペットとの死別というパーソナル・グリーフ(個人のグリーフ)を経験したときには、プロフェッショナル・グリーフが重なり、仕事が続けられないと思った時期もありました。
そんなとき役に立ったのは、グリーフについての知識とそれに向き合うための具体的な方法でした。
今回は、医療従事者が経験するプロフェッショナル・グリーフとそれを乗り越えていくためのヒントをご紹介します。
■ 「プロフェッショナル・グリーフ」と「パーソナル・グリーフ」の違いは?
「プロフェッショナル・グリーフ」であっても「パーソナル・グリーフ」であっても、グリーフは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアル的な面で私たちに影響を与えます。
例として、下記のような症状が挙げられます。
・体がだるく、疲れやすい
・食欲がない
・夜眠れない
・溢れ出すような気持ちに圧倒される
・何も感じない(無感覚・無感情)
・突然イライラしてしまう
・周囲の人が自分の心の苦しみに気づかない、ということに驚いてしまう
・大切な人の死を防げなかった自分に罪悪感を覚える
・自分自身や周りに怒りがある
・物忘れがはげしくなる(例:頻繁に鍵をなくす)
・何か言いかけて、忘れてしまう
・物事に集中できない
・人生が虚しく感じ、意味がないものに思える
・忙しく予定を立てて、悲しみをまぎらわせようとする
このリストからもわかるように、グリーフの症状は幅広く、人によって異なります。
■ プロフェッショナル・グリーフの特徴
プロフェッショナル・グリーフはパーソナル・グリーフと違い、大抵の場合オープンにされることはなく、個人の心の中にしまったままになっています。
医療従事者はプロとして、患者さんの死を個人的なものと捉えないようにしていますし、日々の忙しい仕事に追われ、一人ひとりの死に向き合う暇もない、という現状があるからです。それでもグリーフは、知らず知らずに積み重なっていきます。
プロフェッショナル・グリーフの特徴をいくつか挙げてみましょう。
・グリーフが隠れていて、わかりにくい
・喪失が積み重なっていき、グリーフが慢性化する
・グリーフが怒り、不安、罪悪感、無力感、非難などの感情として現れる
・喪失が起こってからグリーフを経験するまでに、時間がかかる場合がある
・グリーフが燃え尽き症候群につながる
■ 私たちにできることとは?
グリーフの過程で最も大切なことは、自分のグリーフを認識し、何らかの形で気持ちを表現することです。そのためにできる方法をいくつかご紹介します。
・定期的にスーパービジョン(※)を受ける
・日記をつける
・音楽やアートを通じて気持ちを表現する
・信頼できる同僚に気持ちを打ち明ける
・「自分のための時間」をつくり、好きなことをする
・健康的な食事、充分な睡眠、適度な運動を心がける
(※専門家からの支援)
「音楽療法士は『普通ではないこと』を日々経験し、それを知らず知らずに家に持って帰ってきてしまう。まずはそれを認識しないといけない」と学生時代、恩師によく言われました。
これはすべての医療従事者に言えることではないでしょうか。
■ グリーフそのものは「普通のこと」でも...
グリーフそのものは、喪失の際に経験する「普通のこと」です。
でも、医療や介護の現場で働き、喪失を繰り返し経験するということは、それが日常の出来事であっても、決して「普通のこと」ではありません。
それを自覚することが大切だと思います。
そうすることで初めて、セルフケア(自分を思いやること)に目を向けることができるからです。
(参考)
佐藤由美子 著『死に逝く人は何を想うのか-遺される家族にできること』(ポプラ社)
Understanding Professional Grief(National Association of Social Workers)
(2017年12月29日「看護roo!」より転載)