前回、ウィーン・プライドを取材しましたが、深い内容には立ち入れませんでした。そこで今回、プライドの主催者であるHOSI(ホモセクシャル・イニシアティブ・ウィーン)を直撃することにしました。成功の立役者ともいえるクリスチャン・ヘーグルさんとバーバラ・フレーリッヒさんのお二人から話をうかがい、オーストリアのLGBTの歴史や現状についてもう少し詳しくみていきたいと思います。
ヘーグルさんは過去30年もゲイのための活動を行ってきたHOSIの代表です。組織を運営し、政治的ロビー活動に忙しい方です。フレーリッヒさんは偶然にもアイヌの研究をしたこともあるという親日家でした。地方出身のレズビアンで、草の根活動を展開し、マイノリティーへの関心がライフワークのようです。
インタビューは三部構成で、最初はウィーン・プライド、そしてオーストリアのLGBT全般の話、最後にHOSIについてうかがいました。今回はその第一回目を掲載します。どこまで彼らの本音を聞きだせるか、期待と不安を胸にインタビューに臨みました。
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初めてプライドを取材してみたのですが、盛り上がっていましたね
[ヘーグル] 恐らくこれまで(のウィーン)で最大のイベントでした。今、多くの人がプライドのことを考えており、勢いがあります。1996年の最初の参加者は数百人程度でしたが、それは当時としてはセンセーショナルでした。イベントを大きくするために、コミュニティー全体に宣伝したためです。その5年後にはのユーロ・パレードを主催しました。
昨年はプライドの一週間前にアメリカのゲイ・クラブでフロリダ銃乱射事件(50人のゲイが殺害された)という戦後最大の乱射事件があって、そのショックがありました。それ以前は「なぜまだプライドをやっているのか」という質問をされたのですが、この事件以降そういう質問を受けなくなりました。今年は天気もまずまずでした。
[フレーリッヒ] 参加者は楽しんでいましたし、観光客は90%フレンドリーでした。全体で62団体が参加し、楽しむことと政治的なメッセージを届けるという意味で成功だったと思います。私はパレードを先導するレズビアンの山車を取り仕切りました。19世紀のジェーン・オースティンの小説をもじって、「先入観ではなく、プライド(Pride not prejudice)」というスローガンを掲げました。
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他のヨーロッパのプライドと比べると?
[ヘーグル] ヨーロッパ最大のイベントの一つですね。ハンブルクと同じくらいです。スペインやロンドンも大きいですが、10番か15番目くらいの大きさでしょうか。ウィーンが特別なのは、バロック様式の歴史ある建物に囲まれていることです。また、オープンな体制も独特です。パレードにフェンスがないのと同時に、参加登録制をとっています。フェンスがないので、参加者と観光客が入り混じることができる一方、登録制ではない他のイベントでは、集団の区別ができなくなります。我々は参加団体ごとに大きな看板を持たせているので、その心配はありません。ウィーンはゲイにフレンドリーな都市で、町中が参加し、雰囲気もいいです。
なるほど、そういう点もチェックが必要ですね。ずばり、成功の秘訣は?
[フレーリッヒ]市の関係者と良いコネを作ることです。また、市や民間のスポンサーを獲得し、マーケティングするのも重要です。プライドには、オーストリア各地から参加者が来るので、そうし人々が来れるようにすることです。そのためには、オープンでなくてはなりません。市を味方につけるには、LGBTに理解のある団体や政党を見つけることが大切です。そういう人々が必ずいますから。
パレードは人目を引くので良いですが、講演などプライドの他の啓蒙・教育活動と比べると遜色がありませんか?
[ヘーグル] 種類の違うイベントですから。パレードは数時間ですが、プライド村は一週間続きます。また、前者は全ての人向けですが、後者は一部の人向けです。ただ、小さなイベントをもっと宣伝するなど改善の余地はあると思います。
[フレーリッヒ]プライド村にはたくさんの団体が参加しており、多くの情報をもっていますので、知識がない人でも情報を得る機会があります。また、ワークショップよりも大切かもしれないのは、個別の会話です。情報を得るのには、インターネットで見るよりも、個人的にコンタクトをとって話をするほうが良いのです。
さて、パレードで驚いたのが露出度です。東京のパレードでは、過度な露出は禁止されています
[ヘーグル] とくに問題はないですね。開始当初からこんな感じです。性器を露出したりしない限り、オーストリアでは自然と受け止められています。
もう一つは性的労働者の団体があったこと。間接的に売春を助長することになるかもしれませんが、この当たりはどう考えますか?
[ヘーグル] 売春を助長しているわけではありません。大きなイベントですので、多くの団体が参加を希望し、それぞれの主張を宣伝したいのですが、参加には厳格なルールがあります。例えば、他にもマリファナの合法化を目指す団体からの参加申請がありましたが、LGBTとの関係が全く見えませんでしたので断りました。
性的労働者の権利団体はLGBTと関連性はあるかもしれませんが、LGBTと違う議論も含まれていそうです
[ヘーグル] 性的労働者の主張を詳しく見たわけではありませんが、LGBTとの関連性に関しては微妙なところです。ゲイを含む男性の性的労働者へのサポート不足、健康や犯罪問題などではLGBTと少しは関係はありますが、主催者の中には好ましく思わなかった人たちがいたことも事実です。我々の関心とは違いましたが、参加させました。事実、我々はオープンなことが売りですので、最低限の条件にあえば、誰もが参加できるようにしています。
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ところで、プライドはLGBTが一つになるイベントですが、実際はL、G、B、T(やその他)とそれぞれ異なる人々です。彼らの間で交流はあるのでしょうか?
[フレーリッヒ]各々は非常に自立的と言えるでしょう。それぞれ違う関心がありますから。しかし、大きな課題には一緒に取り組むのです。また、結婚観や家族観などは人によって異なりますので、法律の細かい部分では将来的に議論が必要になるでしょう。
[ヘーグル]レインボー・ファミリーのような団体は、子供がいるので、例えばフェティッシュな団体のそばを歩きたくないといった声もありましたが、私には理解できませんでした。パレードの本質は、違う種類の団体が存在することを示し、一緒に活動し、多様性を示すことなのですから。異なる団体としては百数十人ですが、それが多く集まって団結すれば、その強さを示すことができるのです。
LGBTの中にはプライドのようなイベントを好まない人もいるのでは?
[ヘーグル] そうですね。騒がず、なるべく平穏に生きるのを好む人もいれば、プライドに参加しているのを見られるのを恐れる人もいます。また、露出や性的自由を宣伝するプライドを強く批判する人もいますし、自身のLGBTを認める寸前の人で保守的な人もいるでしょう。
先ほども出ましたが、プライドはもはや市の重要な観光資源といえます
[ヘーグル] その通りです。オーストリアは小さな国ですが、各地から観光客が来ます。国営鉄道もプライド向け割引を実施しています。国外からは、ドイツやスイスが多いですが、近隣のスロバキア、ハンガリー、チェコなどからも来ます。もちろんヨーロッパ各地や遠くアメリカから来る人もいますし、LGBT(特にゲイ)には毎年ヨーロッパの数都市をツアーする人もいるほどです。「プライド観光」はビッグなものです。
ウィーンの観光トップはゲイを公表していますが、彼はもう何十年もウィーンをゲイ・フレンドリー都市としてを推進しています。そのため、プライドや休暇で訪れた人が、ウィーンを気に入って、次回ビジネスに使うといったリピーター効果もあります。事実、ウィーンでは政治がオープンで、LGBTフレンドリーな観光を促進しているのです。
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パレードで国会前を通ったことが印象的でした。一方、先日お隣ドイツで同性婚が合法化されました(正確には、正式な合法化は後日)。オーストリアの政治的雰囲気はどんな感じでしょうか?
[ヘーグル] ドイツの場合、異性婚とパートナーシップ制度は税金や相続で違いがあり、違いを解消することは重要でした。ただ、ドイツはオーストリアより10年早くパートナーシップ制度を合法化していました。
オーストリアのパートナーシップ制度は異性婚とほぼ同等です。ある団体は細かくみると29の違いがあるという人もいますが、そのいくつかは事実ではありません。我々の制度はよりモダンで、ある意味異性婚より有利ともいえるのです。例えば、離婚に関してです。現在の結婚法では、一方が望めば6年間離婚をブロックすることができるのですが、パートナーシップ制度では3年です。また、異性婚に依然として存在する婚約ですが(これはすでに古代の価値観です)、パートナーシップ制度では法的拘束力がありません。こうした違いがあるので、HOSIとしてはパートナーシップ制度と異性結婚法の両者を含めた抜本的改革を望んでいます。
ただ、これは実現できないでしょう。オーストリアでは過去30年間、保守の国民党が政権を握っています。現在の世論調査でも国民党が圧倒的に優勢で、10月15日の総選挙では国民党と極右の自由党の連立政権が発足する可能性が高いでしょう。そうなると次の5年、10年で同性婚は成立しないでしょう。