Photos by Manchul Kim
(韓国・ソウル発)先日の日曜日の午後、G-Voiceのメンバーたちは韓国のゲイ男性の権利団体、チングサイ(Chingusai:友達同士)の小さなオフィスにある稽古場に集った。
2003年に設立されたG-Voiceは「人権運動のK-Pop」と称されてきた。だが、G-Voiceのレパートリーには、韓国でゲイであることという体験に大きく基づく数多くのオリジナルの作品の他、伝統的な民謡も含まれる。
「合唱は、私1人が歌って輝くものではありません」
創立メンバーであり合唱の音楽ディレクターでもあるジョン・ジェウ氏(Jeon Jae-woo)は語った。「合唱とはむしろ、私たちの声を調整し調和させて和音を生み出すプロセスなのです」
韓国のLGBTQの人々は法による保護を受けておらず、差別は今なお広く存在する。2003年まで、韓国の法では同性愛は「有害でわいせつ」と分類されていた。
昨年開かれたソウルのクィア・カルチャー・フェスティバルには、主催者によると12万人以上の参加者が集まったが、抗議と暴力によって台無しになってしまった。ゲイに反対するキリスト教徒のグループがイベントに襲いかかって参加者に暴行を加えたのだ。その間、警察は介入せずに見ていたという。
「韓国に広く根付くヘイトの文化は、クィアの人々だけを標的にしているわけではなく、抑圧された人々すべてに対してあります」とソウル・クィア・カルチャー・フェスティバルの主催者代表のカン・ミョンジン(Kang Myeong-jin)は当時「The Korea JoongAng Daily」に語った。「一部には、抑圧されているグループを社会から消し去りたいと望んでいる人もいます。しかし私たちは消えません。私たちはここにいます、そして存在を強調する必要があります」
「週に1度の自分探しの旅」
G-Voiceの元メンバーの中で最も有名な人物は、映画監督で人権活動家のキム・ジョーグワンスー(Kim Jho Gwang-soo) だ。彼は公にカミングアウトした数少ない有名人の1人でもある。韓国の法律では同性婚は認められていないが、2013年にキム・ジョーはパートナーのキム・センハン( Kim Seung-hwan)と象徴的な式で結婚した。結婚式では音楽パフォーマンスも披露されたが、ステージに男が飛び込んできて妨害を始めた。男は神の言いつけだと主張しながら、排泄物や食べ物を合唱団に投げつけた。
多くのメンバーにとって、合唱団はとても重要なコミュニティだ。
「G-Voiceは私が初めて参加したゲイ・コミュニティです」とバス歌手のオーウェンは語った。彼は公にカミングアウトしていないため実名の使用は拒んだ。オーウェンは合唱団で6年間歌っている。「G-Voiceに入らなかったら、今のオーウェンは存在しません...私にとっては、日曜日の午後は自分を探すための週に1度の旅なのです」
イソク(Eui-seok)は10年前、まだ大学1年の時にG-Voiceのパフォーマンスを初めて目にした。「当時、私はアイデンティティについてひどく混乱していて、LGBTの友人はいませんでした」と彼は語った。「でもG-Voiceのパフォーマンスを見てから、自信が持てるようになりました」
G-Voiveはもはや宗教的な体験になっていると彼は語った。
「G-Voiceに通うことは教会に行くようなものです。そこには自分のコミュニティがあるのですから」
人権運動のK-Pop
G-Voiceのセットリストの曲の大部分はオリジナルだ。彼らの心の中に隠れていた言葉が、歌詞となってステージで歌われている。
「私たちが自分たちで楽曲を作り始めたのは、伝えたいストーリーを歌いたかったからです」とジョンは語った。彼のお気に入りの歌は「Confession(告白)」だ。この歌の歌詞にはこんな一節がある。
「どうやって言えばいい? 朝に? 夕方に? 手紙で? 食事中に? 声に出して言うべきなのか? それとも涙と共に? それともこのまま心の中にしまっておくべきなのか?」
3月、G-Voiceは16年間で初めてのフルアルバムを発表した。「Confession(告白)」や「Open the Closet(クローゼットを開けて)」などの9曲が収められている。収益は権利団体であるチングサイに寄付される。
韓国の他の権利団体は、G-Voiceが法的保護を求めてロビー活動するのを支援している。「政治的に保守派な団体は私たちの共通の敵です。ですから、ある意味では彼らが私たちを結束させてくれています」とジョンは語り、笑いながらG-Voiceが大人気のK-PopグループであるBTSと比較されている、とも加えた。
「私たちが歌を選んだのではなく、歌が私たちを選んだのだと思います」