1――パワー・ライフ・テクノロジー
天皇陛下は2019年4月30日に退位され、翌日5月1日に改元されることになった。現在は、元号法によって元号は皇位の継承があった場合に限り改めることになっているが、明治以前は天災などを理由に元号が改められたこともあった。
筆者は歴史に詳しいわけではないが、1年以上も前に元号が変わるということが予告されていたことは無いのではないかと思う。年末に行く年・来る年に思いをはせるように、去りゆく時代と新しい時代のことを考えてみるのも良いのではないか。
平成は30年余で終わることになり、60年を超えた昭和に比べれば短いとは言うものの、この間に我が国社会は様々な変化に見舞われた。
もちろん、変化は平成に入って突然始まったわけではなく、平成とともに終わるわけでもない。日本経済を大きく変えつつある潮流とでも言うべきだが、3つのシフトに整理できるのではないだろうか。
第一の変化は、パワーシフトだ。ソ連が崩壊して冷戦構造が終わり、中国経済が急速な発展をして世界のパワーバランスは大きく変わりつつある。日本は昭和の時代につかんだ世界第二の経済大国の地位を中国に譲った。
また国境に縛られる国に対して、企業はますます国境を越えてグローバルに活動するようになり、政府が企業をコントロールすることが難しくなっているなどの変化が起こっている。
第二の変化は、リンダ・グラットンの本で人口に膾炙(かいしゃ)するようになったライフシフトだ。日本は高齢化先進国となり、遠からず人生が100年という時代を迎えようとしている。長期化する人生を個人個人がどう過ごし、国や政府がどう支えるのか、持続性のある制度の設計が求められている。
第三は、テクノロジーシフトだろう。AI(人工知能)を使った囲碁ソフトが世界最強とされる棋士に圧勝し、自動車が人やモノを目的地まで文字通り自動で運んでいくようになる日も目前だ。我々の働き方、日常生活の姿を大きく変えてしまうだろう。
2――複雑化・加速化する変化
バブル経済の崩壊に見舞われて低迷が続いた我が国だけでなく、先進諸国はどこも経済の停滞が問題となるようになった。
サマーズ元米財務長官が長期停滞論を唱え、これを裏付けるような研究や著作も多数発表された。しかし、多くの人はむしろ世の中の変化が加速して、対応が難しくなっていると感じているのではないか。
子供の就職に際して、どのような仕事に就けば良いのかと聞かれても、今ある仕事は消えて無くなってしまうかも知れず、何か助言をすることは難しい。
長寿化によって老後が長くなったにもかかわらず、現在の高齢者が歩んできたような定年まで勤めあげて公的年金と退職金・貯蓄で穏やかな老後を送るという人生は現実的でなくなり、そもそも親の世代もこの変化に自分がどう対処して良いのか分からず途方に暮れている。
三つのシフトについては、このコラムでも「人生百年時代」や「機械との競争」というテーマで取り上げてきた。しかし、それぞれの変化は単独で起こっているのではなく、複雑に絡み合っている。
例えば、Fintechで生まれたビットコインなどの仮想通貨は急速に成長し、国境を超えて取引され、既存の通貨や中央銀行の地位を脅かす恐れが出るまでになった。変化の速度が速いだけでなく、変化は複雑で、社会がどのように変わっていくのか先行きが見通せない状況にいる。
3――新しい革袋
「新しい酒は新しい革袋に盛れ」ということわざがあるように、企業や家計を取り巻く環境が大きく変化すれば、企業や家計の活動の場である社会の仕組みも大幅に変える必要がある。
もちろん、それぞれの制度の中では、変化に対応した変更が行われてきた。しかし、変化の規模はあまりに大きく、個別制度の部分的な修正では間に合わず、日本の社会システム全体の基本設計の変更が必要だ。
変化の先にどのような未来が待っているのかが見えない中で、多くの人が不安を感じている。大幅な仕組みの変更には、幅広い世論の合意を形成する必要もある。将来の日本社会はどうあるべきかを議論し、将来に向けて政府が何を目指しているのかをはっきり国民に示すことが、今のわが国には必要なのではないだろうか。
平成に入って、日本経済はバブル経済の崩壊やアジア通貨危機、金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、欧州債務危機と次々とショックに見舞われ、政府も企業も家計も目の前の危機への対応に追われた。
日本経済は失われた10年どころか20年を超える低迷が続き、物価の下落というデフレに苦しめられてきたが、失業率は2.7%という低い水準に低下し、ようやく目先ではなく将来のことを考える余裕が少し生まれている。
平成の終わりというひとつの節目が見えてきたところで、新しい時代が始まるまでの間に、個人的にも企業でも日本全体でも、じっくりと未来の世界、日本、そして、自らの将来を考えてみてはどうだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
【関連レポート】
(2017年12月28日「エコノミストの眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー