1――はじめに
前稿では、共働き世帯の妻の収入を三区分に分けて、暮らし向きの違いを確認した。妻の年収が多いほど世帯金融資産は多く、経済的余裕感は強かった。
一方で妻の年収と持家率は必ずしも比例していなかった。年収300万円未満の妻ではライフステージが進んだ層も多いためか、年収700万円以上のパワーカップル妻と同様に持ち家率が高かった。
なお、パワーカップル妻ではマンションの所有率が高いという特徴も見られた。また、世帯金融資産と持家率、経済的余裕感の三者の関係も見たところ、世帯金融資産と経済的余裕感は比例していたが、これらと持家率は必ずしも比例していなかった。
よって、家を所有していることよりも、安定した収入があり、手元に金融資産があることで「使えるお金がある」ことの方が経済的余裕をもたらすようだ。
本稿では、前稿と同様に共働き世帯の妻の収入を三区分に分けて、日常生活における情報源やお金をかけたいものを見ることで、妻の収入による消費者としての違いを確認する。また、最後に、パワーカップルの増加で拡大する可能性のある消費領域を考察したい。
2――妻の年収区分別の日常生活における情報源の違い~年収によらずテレビやニュースサイト、新聞が多いが、パワーカップル妻では専門領域に特化した情報源が多い
共働き妻の年収区分別に日常生活における情報源を見ると(*1)、年収によらず、いずれも「テレビ番組」が半数を超えて最も多く、次いで「ポータル・ニュースサイト」、「新聞(一般紙)」と続く(図表1)。
なお、共働き妻全体と比べて、年収700万円以上のパワーカップル妻で多いものは、「新聞(専門紙)」や「ダイレクトメール」、「雑誌・書籍」、「個別企業サイト」、「セミナー・イベント」であり、専門領域に特化した(時には専門知識も要する)情報源や特定層を対象とした情報源の利用が多い。
一方、全体と比べてパワーカップル妻で少ないものは、「テレビ番組」や「家族や友人、知人」、「ニュース・情報アプリ」、「ブログ・Twitter・SNS」、「メールマガジン」などであり、万人向けで専門知識を必要としない情報源や周囲とのつながりによる情報源の利用は少ない。
なお、年収300万円未満の妻では「テレビ番組」が、300~700万円未満では「ポータル・ニュースサイト」が多い。
(*1) データはいずれも前稿同様、弊社実施の調査データ。詳細は前稿参照。
3――妻の年収三区分別の日常生活の中で今後(も)お金をかけていきたい先~年収によらず最も多いのは国内旅行、パワーカップル妻では海外旅行や外食、自動車などの高額消費が多い
次に、共働き妻が日常生活の中で今後(も)お金をかけていきたい先を見ると、年収によらず、いずれも「国内旅行」が首位で3割を超える(図表2)。
2位以降は、年収300万円未満の妻では2位「貯蓄」(32.0%)、3位「子どもの教育」(26.4%)、4位「健康・リラックス」(19.3%)、5位「外食(グルメ)」(17.5%)の順、300~700万円未満では同様に2位「貯蓄」(33.6%)、3位「子どもの教育」(23.8%)、4位「外食(グルメ)」(21.0%)、5位「健康・リラックス」(19.2%)の順となっている。
一方、年収700万円以上のパワーカップル妻では2位「海外旅行」(30.2%)、3位「外食(グルメ)」(27.9%)、4位「貯蓄」(23.3%)、5位「その他の自分の趣味」(16.3%)であり、年収700万円未満までには上がらない「海外旅行」と「その他の自分の趣味」が上位5位までにあがる。なお、「子どもの教育」は6位、「健康・リラックス」は7位である。
なお、共働き妻全体と比べてパワーカップル妻で多いものは、「海外旅行」や「外食(グルメ)」、「国内旅行」、「その他の自分の趣味」、「自己啓発」、「ローン返済」、「自動車・バイク」であり、比較的高額を要する消費領域が多い。
一方、全体と比べてパワーカップル妻で少ないものは、「子どもの教育」や「貯蓄」、「健康・リラックス」である。
子どもの教育費や貯蓄が比較的少ない背景には、「パワーカップル世帯の動向(2)」で見た通り、パワーカップル妻はライフステージが第一子大学入学や末子独立、50歳代が多く、教育費がかかったり、将来への貯蓄に励む時期を過ぎている層も多いことが影響しているのだろう。
4――おわりに~パワーカップルには「高額消費」と共働きの「時間がない」を解決する消費の拡大が期待
四回に渡り、「パワーカップル世帯の動向」について見てきた。仕事と育児の両立環境の整備により、今後、共働き世帯は増えていく。また、女性の管理職登用や出産後の就業継続が進むことで、男性並、あるいは男性以上に稼ぐパワーカップル妻も増えるだろう。
共働き世帯では仕事と家事・育児で「時間がない」世帯が多い。共働き世帯が増える中では「時間がない」ことを解決する消費が活性化するだろう。「時間がない」ことを解決するには、時間を短縮し効率的に家事等を進めるか、家事や育児を代行(アウトソーシング)してもらうかということになる。
例えば、時短・効率系の商品・サービスとしては、洗濯乾燥機や食洗機、ロボット掃除機などの自動家電(代行とも言えるだろうが)やカット野菜、半調理済みの食材の入った料理キット、風呂や窓掃除など掃除目的ごとに適した素材で出来た使い捨ての紙シートなどの時短家事商品があげられ、これらのニーズの高まりが見込まれる。
さらに、同じ時間内に二つ以上のことを平行してできるサービスのニーズもあるだろう(美容院+ネイルサロンなど)。そして、場所や時間を選ばないインターネット通販やオンライン系サービス(英会話、カウンセリング等)などの利用もますます増えるだろう。
また、アウトソーシング系には、家事代行やベビーシッターに加え、子どもの習い事関連のサービスがあげられる。
働く親は平日に子どもの習い事の送迎をすることが難しいため、現在でも人気が高いようだが、保育園や学童保育クラブに習い事が併設された施設や習い事送迎タクシーなどのニーズが更に強まるだろう。
消費力のあるパワーカップル世帯の増加によっては、これら共働き世帯の「時間がない」を解決する消費の更なる拡大に加えて、海外旅行や外食、自動車の購入などの高額消費も見込まれる。
一方で、これまでにいくつかのレポートで述べてきた通り、年齢が若いほど経済不安が強く、貯蓄性向が高まる傾向もある。
パワーカップルをはじめとした共働き世帯の消費を活性化するためには、ニーズにあう商品・サービスを充実させるとともに、社会保障制度の持続可能性を担保することや可処分所得の引き上げ等により、現役世代の経済不安を緩和させることが必要だ。
(2017年11月7日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員
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