新型コロナの影響で、生活に困窮する層が拡大している。
現場で活動する支援者は、その特徴を「リーマンショックとは違う」と明かす。困窮状態に陥っている人の中には、非正規労働者などを中心に、これまで目先の暮らしには困っていなかった人々も多いという。
その実態は…。
新型コロナ、しわ寄せは非正規労働者へ
7月下旬の土曜日14時、新宿の都庁前には約160人ほどの人が、ソーシャルディスタンスを取りながら何重にも列を作っていた。NPO団体による無料の食料配布を待つ人々だ。そのほとんどが男性。最前列の男性は、3時間前から待機をしていたという。
配布が始まると、シリアルやバナナ、ミニトマト、飲み物が入ったビニール袋を順番に受け取っていく。多くの人が2周目を受け取るため、再び列を作った。
食料配布を行ったのは、NPO団体「新宿ごはんプラス」と「自立生活センター・もやい」だ。新型コロナによる生活困窮者増加を受けて4月からは、これまで毎月2回だった無料の食料配布を週1回に増やした。
新型コロナの感染が拡大した3月末、食料配布に訪れた人数は前年同時期の約1.7倍である120人に膨れ上がった。緊急事態宣言が出された4月に入ると、都内で炊き出しや食料配布を休止する団体も増えたこともあり、毎週約180人が食料を求めて訪れるようになった。緊急事態宣言が明けた今も、毎週約150人に食事を提供している。
食料配布をする傍らでは、専門スタッフによる生活相談や医療相談も受け付けており、相談に応じて生活保護や自立支援センターなど行政の支援などに繋げる。
もやいの代表である大西連さんによると、これまで食料配布や相談会に訪れる利用者は年配の長期路上生活者が中心だったが、新型コロナが拡大するにつれて、20代から40代の若年層が増えたという。そのほとんどが非正規や業務委託、フリーランスなど不安定な雇用形態で働く人だ。若い世代の相談は、電話やオンラインも多い。
「非正規だから在宅ワークもできず、シフトを減らされた」「日雇いの仕事が休止になった」「新しい仕事が見つからず、貯金が底をついた」など新型コロナによる失業や減給などで、生活に苦しむ相談が多く寄せられているという。
「相談に来られる方は、正社員の方はほとんどおらず、圧倒的に“非正規”の方。もともと毎月手取りで20万円前後は稼いでいて、目先の生活には困っていなかったという人も多い。そんな人たちが、不安定な雇用形態から、コロナの煽りを真っ先に受けて生活困窮状態になってしまっているというのを感じます。リーマンショック時と比べると、年代や業種にも偏りがない印象です」大西さんはそう話す。
特例貸し付けの申請数、すでにリーマンショック・東日本大震災時の5倍以上
生活困窮者の急増は、新型コロナにより収入が減った世帯を支援する特例貸し付けに申請が殺到している状況からも明らかだ。
20万円を無利子で借りられる「緊急小口資金」には3月から申請が殺到。全国社会福祉協議会への取材によると、8月1日までの貸し付け件数は計約60万3千件、貸付額は1089億円を超えている。
新型コロナを受けて貸し付けの条件が大幅に緩和されたため単純比較はできないが、貸し付け件数はすでに、リーマンショックや東日本大震災の影響が大きかった2009年度から11年度の3年間の5倍に及んでいる。
路上生活者「生活はますます厳しいが給付金は受け取れない」
一方、一人当たり10万円の特別定額給付金すら受け取れない生活困窮者もいる。路上やネットカフェで暮らす人々だ。
給付金の受給には住民登録が条件となるため、住民登録や身分証明書がないホームレスは受給が難しくなっているのだ。
東京・南千住駅から徒歩5分ほどの山谷地区(台東、荒川区)で生活困窮者の支援をするNPO法人「山友会」は、周辺のホームレスから「どこに住民登録があるかわからない」「長年路上に暮らしていて、住民登録が消除されてしまった」など定額給付金についての相談が相次いだという。
給付を受けるためには住民登録をしなければならないが、都の自立支援センターなどの施設は空きがなかったり、アパートを借りようとしても賃貸契約の入居審査に通らなかったりと、ハードルは高い。
山谷地区では、都が日雇い労働者向けに清掃や草刈りなどの仕事を紹介する「特別就労対策事業」が、新型コロナの影響で規模が半分に縮小。仕事が割り当てられる日数が減り、額面で8921円の日当を頼りにしていた路上生活者の生活に打撃を与えている。
「生活はますます厳しいが給付金は受け取れない」という状況が起こっている。
特別給付金の申請期限は「受け付け開始から3カ月以内」と定められており、5月に受け付けが始まった東京都などでは概ね8月末が期限になる。
山友会の副代表 油井和徳さんは「全ての国民に給付すると決めた以上、住民登録のない人であろうと確実に給付できるように対応を考えるべきではないか」と話す。