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(写真提供:ドラゴーヌ)
舞台、オペラ、ミュージカルなどのパフォーミングアーツは、何百年もかけて進歩してきており、いまさら新しいことを考えつくのは容易ではない。だが、ニッチな分野であり、どちらかといえば世間の見る目の冷たかったサーカスのアクロバットをポストモダンなダンス、音楽、語りと組み合わせ、大規模プロダクションにして成功させたこのベルギー系イタリア人にかかれば、劇場空間にはまだまだ成長の可能性が無限大に存在している。
フランコ・ドラゴーヌは、もともとドラッグやホームレスなど社会的な題材に基づく演劇のディレクターとしてキャリアをスタートさせている。だが、カナダ、モントリオールのナショナル・サーカス・スクールでのワークショップを終えたとき、ギー・ラリベリテの新ベンチャー、シルク・ドゥ・ソレイユに参加。1985年から1998年にかけて、同集団の名を一躍世界的に有名にした数々の名物プロダクションを作り上げた。
ドラゴーヌの名声を確立したのはおそらく、サーカスの伝統様式と劇場芸術を融和させ奇想天外なステージで世界を驚嘆させたラスベガスでの同集団最初のショー「ミステール」と、それに続いて発表された水をモチーフにした驚異的なショー「O(オー)」の2つであろう。2000年には自身のカンパニーを立ち上げたが、その後の10年間というもの、ドラゴーヌは目立った活動はしていなかった。
そして2010年、マカオのシティ・オブ・ドリームスのために壮大なスケールのスペクタクル水上劇「ハウス・オブ・ダンシングウォーター(水舞間)」を作り上げ、近くのヴェネチアン・ホテルで上演されている古巣シルク・ドゥ・ソレイユのショーに観客動員数で200万人以上の差をつけて大成功させている。そんなドラゴーヌだが、今年は特にさらなる飛躍が望まれる。彼にとってのロイ・ディズニーを見つけたからだ。
ディズニー帝国の礎を築いたのはもちろんウォルト・ディズニーの創造性だが、実はその兄ロイの経営手腕も大きく貢献している。ドラゴーヌにとってのロイ、それはYves Delacollete。彼のプロダクション作品を「ドラゴーヌ」というブランドのもと、再活性化させようと動き始めている。
BLOUIN ARTINFO ではDelacolleteとドラゴーヌの副社長ジョナサン・ヴァン・パリスにインタビューし、中国で予定されている億単位の新しいプロダクションについて、今年満を持してドラゴーヌの名前を前面に押し出す戦略に出たことなどについて、話を聞いた。
Delacolleteいわく「我々は今、過去と未来の分岐点にいます。これまではワンマンショーだったけれど、これからドラゴーヌを世界で一番素晴らしい芸術創作カンパニーにしていきます」とのこと。
「フランコは間違いなく、世界で最も優秀なアーティスティック・ディレクターです。その才能をうまく活かすために、ウォルト・ディズニーにとってのロイのような存在が必要であると悟ったのは、当然の成り行きといえます」と、Delacolleteは続けて述べた。金融業界に長くいた彼は、その候補としてぴったりと言えるだろう。
「私はベルギーとフランスで、ドイツ銀行のリテールと個人双方のオペレーションを一から作り上げました」と自身の経歴に触れ、「決断を下すとき競合会社と同じではだめだと思ってやってきました。今やっていることにも通じるところが多いです。自分のことは起業家だと思っており、なにより今も昔も、お客様第一に考えています」
同氏は50歳のときにいったんリタイヤし、好きな旅行に専念していた。自分自身のコンサルティング会社Finovate はあったが、「楽しいと思える案件以外は受けない」という悠々自適の生活だった。2012年そんな彼のところに、思いもかけない人物から一通のメールが届いた。「1年前までフランコのことは全くと言っていいほど知りませんでした。セリーヌ・ディオンやシルク・ドゥ・ソレイユを手がけているという評判くらいしか知りませんでした。そんな彼からとても丁寧なメールをもらい、そこには自分の会社が急成長していること、世界各地での契約があり、誰か戦略アドバイザーとして経験者を迎えたいのだが、話合いに応じてもらえるだろうかということが書かれていました」
一度ディナーを共にし、まずは四半期間のアドバイサリー・コミッティに入る契約を交わした後、Delacolleteは「素晴らしい魔術にかけられてしまい」、そして結局社長に就任することになる。
「ドラゴーヌにとっては世界中が市場です。ヨーロッパも中東もアジアも。唯一読めないのはアフリカくらいでしょうか。競合はいます。シルク・ドゥ・ソレイユです。ただ、競合というのはある意味、同業者というつながりもあります。それにフランコのおかげで、アーティスティックな面においてドラゴーヌは一歩先んじています。シルクにも素晴らしいプロデューサーたちがおり、その運営はとても優秀です。が、我々がリーダーなのは間違いありません。問題は、いかにその優位性を保っていくか、いかに将来もっと大きくしていくかということです。現状では、何億円でも喜んで投資しようという潤沢なパートナーたちが世界中におり、メガショーの市場を我々が占有しています」
だが、単に規模の大きいショーを興行すればいいというものではない。副社長のジョナサン・ヴァン・パリスは、ドラゴーヌのミッションを創造性によってショーの新境地を切り拓き、どんな国どんな文化的土壌においてもそれを継続させることであると強く主張している。
「アジアには、伝承されてきた文化が根強くあります。ですが、だからといってあまりに慎重になりすぎて、過去の文化的歴史をひたすら研究し、あまりの重厚さに押しつぶされて結局自分達でなにも革新的なことができないような状況に陥ってはいけません。民族衣装を付けて高度なプロダクションを遂行することは可能ですが、それでは長続きしません。自分たちに必要な研究は行いますが、必要以上に委縮するべきではないのです」とも語っている。
ドラゴーヌ2014年のメイン・プロジェクトは、12月20日に中国武漢市にオープン予定のイギリス人建築家マーク・フィッシャーによるレッド・ランタンと呼ばれる劇場での公演であろう。「シドニー・オペラハウスのようなランドマークになります」とDelacolleteは言う。「収容人数は2千。ショーは基本毎日で、週に10回行われます。1千万リットルの水の入ったプールに動く客席と、これまでにない一大スペクタクルとなります」
他のドラゴーヌのショーと同じように、キャストにはローカルの人たちも起用される。「公演を行うその国の人材養成は、我々の重要な使命の一つです」とDelacolleteは述べており、彼いわく「ハウス・オブ・ダンシングウォーター」の場合など、その場での訓練に何ヶ月も要したとのこと。
「我々の求めるレベルの人材はなかなかいません。それぞれのショーのために6ヶ月から9カ月の特別なトレーニングが必要です。単発で雇えばいいというものではなく、育成せざるを得ないのです」と、ヴァン・パリスも述べている。
(2014年1月14日のBLOUIN ARTINFO「ドラゴーヌ、ウォルト・ディズニーに学んで、シルク・ドゥ・ソレイユ凌駕へ」から転載)