社会生活において必要な成人の能力を測定した初の「国際成人力調査」(略称PIAAC)が発表されました。メディアでは、我が国が国別平均点でトップという結果を概ね好意的に伝えていました。
この調査は、経済協力開発機構(OECD)加盟国など先進24カ国・地域を対象にしたもので、社会に氾濫する言語情報を理解し利用する「読解力」、数学的な情報を分析し利用する「数的思考力」、パソコンなどを活用した「IT活用能力」などの能力を調べたものですが、我が国は「読解力」と「数的思考力」においてトップ、IT活用能力で10位という結果だったことがわかりました。
この調査結果を詳細に調べると、日本の特徴が浮き彫りになってきます。
各項目とも習熟度に応じてレベル5から1未満の6段階に分けられていますが、日本は「読解力」と「数的思考力」においてレベル1とレベル1未満が最も少なく、レベル3とレベル4の割合が最も高いという結果になりました。
一方、レベル5の割合は「読解力」で第4位、「数的思考力」で第6位でした。
つまり、日本の成人は国際的に比較して「中の上」に位置する人がほとんどで、社会に適応できない最下位レベルの人は最も少ないが、抜きん出て能力の高い人が多いわけではないと分析できると思います。
また、この調査では学歴別の結果も発表していますが、日本は中卒者のレベルがOECD全体の平均を上回り、米国やドイツの高卒者を上回っていたことが判明しました。
さらに、職業別の分析もなされており、日本は事務職やサービス業などのいわゆるホワイトカラー同様に、現場作業員や農林水産業従事者などブルーカラーのレベルも高く、各国のホワイトカラーと同程度かそれ以上だったことがわかりました。
日本の製造業が強い理由の一端が垣間見えたような気がします。
さて、この「国際成人力調査」の"好結果"をどう考えるかです。手放しで喜んでいいのかと考えると、私はどうも違う気がします。素直に喜ばないひねくれ思考なのではなく、この調査の結果が意味している我が国のウィークポイントを意識して強化していくことが今後の我が国の発展につながると思うのです。
この調査に表れていない能力がどうなっているのかが、私には気に掛かります。例えば、想定外の事態に対し臨機応変に対応する適応力、斬新な発想で未来を切り拓くアイデア力、自分の主張を的確に伝えるコミュニケーション能力、情緒などを含めた総合的な人間力などについては、わが国のレベルは果たしてどの程度でしょうか。
近年、自殺者の数は毎年3万人を超え、働けるにもかかわらず生活保護を受けている人も現認されています。さらには児童虐待、家庭内暴力、ストーカー殺人などの凶悪犯罪も多く発生しています。
つまり、今回の調査だけを一見すれば、現代の日本人が社会に対応できているようですが、その実、「心」の問題を抱えている人がたくさんいるということではないでしょうか。
今回の「国際成人力調査」は、目に見える指標です。しかし、その背後にはもっと多くの「目に見えない現実」があることも無視できないと考えます。
また、私たち政治家には、社会現象として現れている諸々の問題の根源を探り、効果的な対策を講じなければいけない職責があります。だからこそ、「国際成人力調査」に現れていない現実を怜悧に見つめる努力を怠ってはいけないと思っています。
(この記事は「中田宏のオピニオン」に掲載された10月29日付記事の転載です)