東大で政治学の研究者になったときに、私が最初に取り組んだのはナチズム、ファシズムの研究でした。数多くの文献の中でも印象に残っているのが、シグムント・ノイマンの名著『恒久革命』です。ノイマンは、全体主義の特徴として、永遠の革命、つまり常に、コマネズミのように動き回り、次々と革命の対象を広げていくことをあげ、それこそがファシズム運動だと指摘していました。具体的には、何かイベントをあつらえたり、目新しい政策を打ち出したり、対外戦争に乗り出したり、とにかくじっとしておらず、次々と新しい課題を作っていくのです。
マスメディア、特に、テレビを作る立場からは、こんな動きをする政治ほど美味しいネタはありません。限られた時間内で視聴率をあげるためには、思考過程を短縮して善悪二元論で問題を扱うことが、一番てっとり早いのです。このような善悪二元論的な図式化にぴったりとあてはまるのが、現在の小選挙区制度です。外交や社会保障など、長期的、専門的な視点にたって解決すべき、複雑化した問題が山積しているのに、選挙の争点は賛成か反対の二択に単純化されてしまいます。
民主党の政権交代から、今回の自民党勝利までをもう一度振り返ってみれば、選挙結果は、オセロゲームにように白黒反転してしまいました。3年後には、現在の自民党と真逆の政策をあげる党が政権につく可能性も十分ありうるのではないでしょうか。民主党による政権交代を声高に訴えていたメディアですが、現在は新聞各紙までもが自民党の機関紙に成り下がりつつあります。日本の民主主義の危機です。
二大政党制の伝統をもっているのは一部の国であって、例えば、ヨーロッパ諸国においては、国民の意見合意の所作を備えた連立政権が誕生してきました。日本の国民気質からいって、小選挙区制度における二大政党制が健全に成り立つかどうかには疑問が残ります。日本の憲政史上、二大政党制の失敗から成立したのは、太平洋戦争開戦時の大政翼賛会です。現在の国会も、大政翼賛会のようになりかねません。
有能な人材を政治や行政の世界に集めるにはどうしたらよいのか、自分の周辺の一部の人のためにではなく、広く国民に公平な心で尽くす志ある人材を育てるにはどうしたらよいのか。という観点に、全員が立ち戻るべきです。
このような危機感から、MASUZOE LAB(舛添ラボ)を立ち上げました。大臣時代には、外部ブレーン、東大の仲間や教え子、その関係者たちから現場の声や、省庁からは上がってこないデータをリアルタイムで寄せてもらい、タイミングを見計らって重要な政策決定をしていきました。このような人と人とのネットワークから生まれる議論を舛添ラボから発信したいと思っています。
(※舛添要一氏の政治経済研究サイト「MASUZOE LAB」の7月26日付記事を転載しました)