NPO法人僕らの一歩が日本を変える。代表理事の後藤寛勝です。先日、新しい取り組みとして、業務提携先の岐阜県美濃加茂市で、『若者委員会』を設置しました!
この委員会は、政治家ではない若者でも"直接"政治に参加することができる、地方自治体の中に所属する正式な機関です。委員会は市から正式に任命を受けた美濃加茂地域に所縁のある25歳以下の若者で構成されており、委員は任期中美濃加茂市の行政に携わる活動を行います。
任期は1年で、定期的な市長とのミーティングや地域調査、それを踏まえた政策提言、そしてさらにその提言の実行までを担うのが委員の役割です。実際に政策を実行する際は、委員会のアドバイザーとして登録していただく美濃加茂出身のアーティストやデザイナー、経営者の方との協力により政策が実行に移されます。現在アドバイザーの強化と委員を募集しています!ご応募はこちらからどうぞ!
この記事では、若者委員会の解説よりも、僕らがなぜこの機関の設置にいたったか、今後の地方自治体において若者の政治参加を進めるには何が必要だと思っているかを書きたいと思います。実は、前々から薄っすらと考えていたこの仕組みを、本格的につくりたいと思ったのもアメリカのポートランドにインスパイアされたからです。ポートランドで僕が学んだものは、「思わず政治に参加したくなる仕組み」です。15年以内には人口が倍になると言われている "全米一住みたい街"が、常に成長し続けるヒントは、この仕組みにあると考えました。
まず、ポートランドには60万人の人口に対して、市長を含め政治家が5人しかいません。(例えば、僕が生まれ育った新潟市は人口80万人に対し、市長を含め、政治家は52人存在します)これは、市の行政運営スタイルとして「コミッション制(委員会制)」を採用しているからです。
この制度は、市の全体を選挙区としたうえで、1人の市長と4人の議員をコミッショナーとして公選し、各コミッショナーがそれぞれの行政分野を担当する制度です。例えば、一人の議員は環境局や水道局、地域アート・文化委員会を担当していたり、またある一人は住宅局や消防&レスキュー局を担当していたり。
もちろん市長も警察や総務財務等担当が決まっていて、役割分担がなされています。つまり、日本の"市長-議会"の役割を5人で構成するこの委員会のみで担っているということです。
ポートランドでは、このコミッション制が市民の政治参加を加速させています。
しかし、ここで僕が強調したいことは、「政治参加を進めるために、日本でも政治家を5人にしよう!」ということではなく、「この制度のもとで確立されている政治家と市民の関係性に焦点を当てよう!」ということです。
コミッション制におけるコミッショナーは少人数のため、各局の委員会や会議には必ず市民や市民団体が積極的に参加し、各分野のコミッショナーへの提案や、計画を共に策定し、実行します。つまり、市民主体の政治を政治家がサポートするという関係性が、政治家と市民間で確立しているのです。
例えば日本では、「既に決まっている行政計画に対して、市民から意見を集める。」ことが多いように思えます。政治家に任せきりで、市民は決定にそのまま従っていくという関係性のままだと、アンテナを張っている一部の層や政治への関心が高い層のみの政治参加がメインになってしまいます。若者と政治の距離も、もちろん遠くなりますよね。
では、何が市民参加の鍵になっているのでしょうか。ポートランドにおいて、上記のような「政治家と市民の関係性」が成り立つ理由は、僕が考えるに下記の2つです。
⑴「どの政治家が、どの行政分野を担当しているか」が明白であること。
つまり、政治に対してのアクションを起こす際に「誰に何を伝えればいいか、提案すればいいか明白である」ということです。このことにより、行政の既に決まった計画について市民に意見を求めるだけでなく、市民はプラスアルファの提案が可能です。さらに、明白であるからこそ、市民側は各議員の議会での発言や活動を通して市政についての理解を深めやすく、政治との距離が近くなる鍵になっています。
⑵コミッショナーはリーダーではなく、ファシリテーターであること。
コミッショナーの役割はあくまで、各部局の代弁者として市民の意見を聞くことや、提案を実現に近づけるための土台作りです。市民や市民団体主体で政治を動かすことが主な目的でこの制度が成立しています。さらに、コミッショナーはビジネス界のリーダーから選出される場合が多く、民間の視点を持って行政に携わっているという点も特徴的です。
※高校生100人×国会議員での若者の政策提言
ただ、「市民が実行部隊、政治家はあくまでファシリテーター」という関係性は、制度だけが理由で確立しているわけではないと思います。注目したいのは「思わず政治に参加したくなる」モチベーションづくりです。このモチベーションを生み出す要因になっていることは主に2つあると考えています。
⑴「自分たちが街を変えることができる」という意識が生まれている。
ポートランドは、市民が政治を大きく動かした歴史がいくつか存在します。前回の記事でも書きましたが、市民の反対運動により高速道路計画が廃止され、市の新しい公共交通システムの構築が実現しました。現在の公共交通政策の根幹を担っています。
また、市の広場である「パイオニアスクエア」も市民の声から建設が実現したものです。元々は、高層駐車場を建設する予定でしたが、市民の「街の中心には広場があったほうがよい」という声から、計画は反転し、資金集めなど市民も参加した上で建設が実現しました。都市の根幹を担う様々なものが、市民の参加の上で実現していることは注目すべき点ではないでしょうか。
⑵「街を担う一人」としての、行政からの責任が与えられている。
コミッション制を採用していることからも、「街に生きるあなたがた一人一人の声が政治には必要なんだ!」というポートランドのスタイルが読み取れます。選挙の際、一時的に行われる政治家と市民のコミュニケーションのみでなく、日常的な政治家と市民のコミュニケーションの上で政治が成り立つことが大前提なのでしょう。
だからこそ、ポートランドでは若い人でも参加できるような仕組みが整っており、地域単位で市民の自覚と責任に基づいた街づくりが行われているのだと思います。これらは、今から紹介するネイバーフッドアソシエーションにも見受けられます。
※ポートランドの街並み
ネイバーフッドアソシエーション(以下NA)とは、市公認の自治組織です。1974年に成立した条例で、市政運営プロセスに携わる重要な機関としての役割が明確に規定されています。現在、市内に95ものネイバーフッドアソシエーションが存在し、まちづくりのための活動を行っています。
日本で言うと、町内会や自治会のようなものですが、市公認である点や、予算が与えられている点で、大きく役割が違っています。実際にNAは、市の環境保全政策に伴って街の道路のデザインを提案したり、医療廃棄物を安全に処理するための専用のゴミ箱設置を提案したり、近所の公園が地域のつながりを生むためには街灯やベンチをどのように設置したらよいかの計画書を提出したりなど議論の上で様々な提案を行います。
さらに、提案は自分たちで実行に移します。実行に移せることの幅を広げるために、アーティストや建築家など、各分野の専門家も所属しているのも特徴です。行政が関わるのは最低限だそうです。
こういったチームが市にいくつも存在しているため、市民は政治の議論に参加しやすく、議論して提案したものが形になる体験を何度も経験することができます。やはり、「政治に参加することの楽しさ」を体験できることが、「思わず政治に参加したくなる」モチベーションの鍵です。この仕組みから、刺激を受けました。
※票育の担い手として活躍している、宮崎県日南市の票育CREW
選挙権年齢が引き下がり、昨年の参議院選挙をきっかけに若者が「投票」という形で外側から政治に関わることの重要性が叫ばれました。僕らが次に発信したいのは、内側から政治に携わることの重要性です。つまり、若者が政治に「投票以外の形で」"携わることのできる仕組みづくりの必要性です。
※被選挙権年齢の引き下げ実現に向けたキャンペーン、OPEN POLITICSも活動中!
僕は前回の記事で「地域の魅力的な特色を生かしながら持続可能な都市開発や、補助金や助成金に頼ることのない地域が自走するまちづくりはどうやったら実現するのだろうか。」と最後に書きました。
ポートランドに訪問し、色々と学びを深めるなかで、「多くの人が政治に参加し、みんなでまちを作っていくことのできる仕組みを整えること」と「その制度を活用したくなるモチベーションづくり」を両輪で進めていくことの大切さを強く感じました。
この考えのもと、美濃加茂市に設立したのが「若者委員会」です。票育で政治教育を推し進めるだけではなく、意欲のある若者がプレイヤーとして政治に参加することのできる舞台を行政の中に用意することが目的です。
若者が継続的に政治に参加できるこの仕組みが、多くの自治体のモデルケースとなるように引き続き頑張ります。委員への応募は2月末締め切りです。たくさんのご応募、お待ちしております!