近年、気候変動に対する危機感が高まっています。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書などで科学的にも地球温暖化が進行していると説明されていますが、その変化や影響を「実感」できない、どこか遠い話のように思えてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
しかし、既に日本にも気候変動の影響を受けている人たちがいます。自然と向き合いながら、私たちの「食」を支えてくれている農業、漁業、畜産業などの生産者たちです。
生産者と消費者をつなぐプラットフォームを運営する「ポケットマルシェ」の調査によると、生産活動を行っている時に、気候変動の影響を感じると回答した生産者は91.9%。気温や海水温の上昇、豪雨など雨量の増加を感じている生産者が多いことが分かりました。
ポケットマルシェのイベントでは、岡山県岡山市でぶどうの栽培と品種改良を行う林慎悟さん、福井県小浜市でサバの養殖を行う横山拓也さんが、生産現場で感じる気候変動について語り合いました。
「この100年で、魚にとって20度近く海水温が上がった」
福井県でサバの養殖業を営む横山さんは、海水温の変化が魚に与える影響について指摘します。
「気象庁が100年間蓄積してきたデータによると、近年、海水温が底上げされて右肩上がりです。特に日本海側は顕著で、日本海中部では1.75℃上がっています。変温動物である魚にとっての+1℃は、人間にとって7~8℃上がるのと同じくらい影響が大きいんです」
サバの養殖に取り組みながら、その海水温上昇の影響を目の当たりにすることがありました。2020年の夏、平均海水温が30℃を越える日が1週間ほど続き、いけすで飼っていた7000尾のうち約4500尾が、たった10日の間に死んでしまったそうです。横山さんのこれまでの計測では、平均海水温が30℃を超えることはめったにありませんでした。
「皆さんの食卓に届けるために、毎朝、多い時で百何十匹のサバを絞めて殺しています。せめて皆さんに美味しく食べてもらいたいと思いながら命を頂いているのに、海水温の上昇でなす術もなくサバが死んでしまって…自分がものすごく悪いことをしているんじゃないかという気持ちになりました」
その後、高い海水温でサバが死んでしまうのは、酸欠状態になるからだとわかった横山さん。2021年の夏は、いけす1つあたりのサバの数を1500尾から300尾に減らすことで乗り切ったと言います。
品種が現在の気候と合わなくなってきている
「特にこの4〜5年で気候変動を顕著に感じます」と語るのは、岡山県でぶどうの栽培と品種改良を行う林慎悟さん。例えば下のぶどうの写真をご覧ください。
みどりのぶどうかな?と思う人も多いかもしれませんが、実は紫色になる品種のぶどうです。気温が高すぎると、このように色づきに変化が出てしまうと林さんは言います。
「もちろん、栽培技術が色づきを左右することもあるのですが、、明らかに質の高い管理をしている農家さんでも気温上昇による影響がぶどうに出ています」
生産している品種が現在の気候に合わなくなってきている、と考える林さんは、交配による品種改良にも長年取り組んでいます。
「とはいえ、品種改良をして、売れるようになるまでには20年、30年かかります。その間に気候変動がさらに進めば対応しきれないこともあります。気候の変化によって作物が変化することを、消費者の皆さんに理解してもらうことも重要だと考えています」
林さんは消費者と生産者の距離を近づける取り組みとして、耕作放棄地にワイン用のぶどうを植えて、管理までを一般の人に担ってもらう「おかやま葡萄酒園」をスタート。ぶどうを苗木から育てて自分で醸造作業をしてマイワインをつくることで、農業の大変さやその中にある楽しさ、自然環境の変化まで「自分ゴト」として体感してもらうことを目指しているそうです。
「鶏500羽が暑さで…」「50年間、貝毒はほとんどなかったのに…」
ポケットマルシェには、他にも生産者から気候変動の影響に関する声が寄せられています。同社は生産者たちの声を、危機が迫っていることをいち早く知らせる「炭鉱のカナリア」になぞらえ、連載形式で紹介。以下にその一部をご紹介します。
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栃木県芳賀郡益子町で養鶏をしている薄羽哲哉です。養鶏業を始めて4年になります。私たちが直面している一番の課題は、夏の暑さです。この地域の8月の最高気温について、過去30年分のデータを調べたところ、35℃以上の猛暑日を5日以上記録した年は、1990年代と2000年代ではそれぞれ2年だけでした。ですが、2010年代に入ってからは、そのような年が7年もあり、明らかに暑くなっています。
鶏は暑さにとても弱いです。2020年の夏は、飼っている鶏の5%にあたる500羽が、梅雨明けのわずか3日間で死んでしまいました。
また、暑いと産卵率が1〜2%下がってしまいます。わずかに思えるかもしれませんが、1万羽飼っていると、1日あたりに採れる卵が100個ほど少なくなるということです。1ヶ月あたりの売上に換算すると、月10万円ほど減少することになります。さらに、暑いと鶏がえさを食べなくなってしまうので、卵が小さくなり、価格もそれに伴って下がります…(全文はこちら)
岩手県大船渡市でホタテの養殖をしている中野圭です。
この浜では4年前から、貝が毒を体に溜め込む「貝毒」が出るようになりました。僕の父がこの浜でホタテの養殖をはじめた50年ほど前から今まで、貝毒が出ることはほとんどありませんでした。まれに出ても、1ヶ月以内には毒量の数値が下がっていました。それが4年前からは、毎年、しかも4月後半から11月頃までの約半年という期間にわたって貝毒が出ています。
貝毒の原因は、毒素を持つプランクトンの大量発生です。貝が毒素を持つプランクトンを餌として食べることで起こります。
プランクトンが大量発生している理由はまだわかりませんが、近年は夏場の海水温が例年より平均2〜3℃は高くなっているので、海水温上昇が要因の一つではないかと考えています。貝毒の発生から4年も経ち、漁業者は大変な思いをしていますが、原因の調査すらされていない状況です…(全文はこちら)
愛媛県八幡浜市で柑橘を栽培している二宮昌基です。
ここ数年、夏が長くなり、それに伴って秋がとても短くなったと感じています。以前は10月の上旬には半袖から長袖に衣替えしていましたが、今では下旬まで半袖のままで、11月のある瞬間から急に寒くなっています。
夏が長くなると、病害虫の発生期間も長くなります。以前なら年に3回しかなかった病害虫の発生が、4回に増えたりしています。また、みかんは昼と夜の寒暖差で色がつくので、秋が短いと色づきが悪くなります。
雨の降り方も変化しています。西日本豪雨以降特に感じるようになりましたが、一晩で200mmや1時間で45mmなど、短時間にどっと降ることが増えました。また、梅雨時は、以前であれば6月によく降って7月は雨量が少なかったのが、逆に6月は少なくなって7月に大雨が降るようになりました。
雨はみかんの大きさに影響しますが、これだけ降り方の変化が大きいと、大きさをコントロールするのがとても難しいです…(全文はこちら)
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生産者にとって、気候変動の影響が作物や自分たちの収入に直結します。それぞれができる形で環境の変化に対応できるよう努力が続けられていますが、どうにもならないことも既に起こっていると、消費者も知る必要があります。
ぶどう栽培の林さんは「気候の変化によって作物が変化することを消費者の皆さんに理解してもらうことも重要」と話していました。サバの養殖の横山さんは、「魚のおいしさは脂を舌でパッと味わうだけではなく、噛めば噛むほど旨味が出て、それを自分の舌で探り当てる楽しみもあります」と言います。
いつでも、どこでも、「色付きのいい甘いぶどうを食べたい」「脂の乗った魚の方がいい」と思う消費者の意識も、変わっていく必要があるのではないでしょうか。
ニュースでサンマやサケなどの不漁を耳にすることはあっても、豊かな海に囲まれた日本で暮らす私たちにとって、「食卓から魚が消える日がくるかもしれない」という危機感は縁遠いものかもしれません。
しかし、実は海の漁業資源は「枯渇」に向かいつつあるといっても過言ではない状態です。
国連食糧農業機関(FAO)によると、資源状態が十分に豊富な魚はわずか6.2%。世界人口の増加や途上国の経済成長を受けて、世界中で魚の消費量が増加し、その需要に応えるように魚を「獲りすぎ」てしまったのです。
日本食のアイデンティティともいえる「魚」を守るためには、どうすればいいのでしょうか。4月のハフライブでは、「魚」を入り口に、日本の食卓と海の豊かさのこれからについて考えます。
<番組概要>
番組は無料です。時間になったら自動的に番組が始まります。
配信日時:4月26日(火)夜9時~配信(60分)
配信URL: YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=H1D9Lsv4yX8
配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)
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