グローバル化や技術の進歩によって、大規模プロジェクトを管理する能力が問われる現代。「これまで以上にプロジェクトマネジメント力が必要だ」と語るのは、世界60万人以上の会員を誇る非営利組織「PMI(プロジェクトマネジメント協会)」のベン・ブリーンさんだ。
今回、NECで海外子会社向けITツール導入を推進する森唯一さん、NTTデータでAIを使った検診を指揮する雨宮俊一さんが鼎談に参加。国際ビジネスの現場で感じた、日本の課題や未来像を話し合った。
■NEC、NTTデータ社員が考える「日本の強みと課題」
森:NECの強みは、生体認証や5Gなどの技術にあります。一方、課題は人材採用です。日本の若年層の人口減少も影響し、特にグローバル・プロジェクトにおいて経験豊富な人材の確保が難しくなっています。
実際、経済産業省のIT 人材需給に関する調査報告書では、なんと2030年には最大79万人ものITエンジニアが不足すると予測されています(*1)。
雨宮:日本企業には2つの大きな課題があると思います。1つ目は「イノベーション」です。日本は過去に比べて、イノベーションが起きにくくなっていると感じます。2つ目は、森さんと同じく「少子高齢化」です。高齢化社会の中で人材を集め、グローバルビジネスを展開することは困難です。
ブリーン:世界的に見ても、優秀な人材の確保が課題です。特に、プロジェクトマネージャーが不足しています。「プロジェクト」とは、始まりと終わりがあり、予算があり、明確な結果があるもの。どんな分野でも、何かを成し遂げようとすれば、プロジェクトマネジメントが必要になります。
■なぜプロジェクトマネジメントが重要なのか
森:確かにプロジェクトマネジメントのスキルは、重要度が増しています。私は海外勤務を経て、NECの海外拠点にITツールを展開するプロジェクトマネージャーに任命されました。
しかし、当時のNECには、グローバルで標準的に利用できるプロジェクトマネジメント手法はありませんでした。ITツールの展開も手探りでした。現在はPMIのガイド本「PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)」等のグローバルで普及しているノウハウや手法に従うことで、成果をあげています。
雨宮:私はコロナ禍にプロジェクトマネジメントの重要性を痛感しました。私の仕事は、NTTデータのCSR活動として、インドで画像処理AI技術を使った結核の検診を進めることです。当初は2020年の開始を予定していましたが、突如ロックダウンが始まりました。スケジュールの目処が立たない中、マネジメント手法も見直しながら、2021年に検診をスタートさせました。
■プロジェクトマネジメントと多様性
ブリーン:プロジェクトマネジメントの成功には、多様性も欠かせません。PMIが実施した調査「Pulse of the Profession」によると、約83%のリーダーが「組織において多様性が重要である」と答えました(*2)。実際、ダイバーシティを取り入れる企業は、そうでない企業よりも良い業績を上げています。成功した結果を計算すると、前者63%に対し、後者は36%と大きな差があります(*2)。これは多様性の力を示すものです。
企業は、性別、年齢、性的指向、文化など、バランスのとれた意見を取り入れることが重要です。そのためリーダーは、まず意識を高めること。チームメンバーの何気ない冗談やコメントに偏見が潜んでいたら「それは許されない」とはっきり伝えてください。時間はかかりますが、地道なプロセスがプロジェクトを成功へと導きます。
森:私は海外拠点のメンバーを主役とした、多様性のあるチームをつくることで成功を収めました。プロジェクトマネージャーに任命されてから、私はまず各国のNEC拠点を回りました。プロジェクトマネジメントの変革に共感し、それを実行するスキルを持ち合わせる多様なメンバーを探し出すためです。
結果、ブラジル、アルゼンチン、シンガポール、オーストラリア、インドなどから見つけることができました。次に、プロジェクトの初期段階から国際的な“バーチャルチーム”を組み、現地のニーズや多様なアイデアを吸収しました。その結果、リモート環境でプロジェクトを進め、新型コロナ禍の影響を最小限に抑えることができました。
雨宮:多様性のあるチームのリーダーにとって重要なのは、チーム内に信頼関係を築くことです。リーダーは、目標についてメンバーにメッセージを送り、コミュニケーションをとり続けることが重要です。
ブリーン:信頼関係を築くためには、環境を整えることも大事です。例えば、メンバーの失敗を許すこと。失敗しても、そこから学び、改善できる環境をつくれば、メンバーはより大胆に挑戦し、チームに貢献してくれるはずです。
■プロジェクトマネジメントとビジネスの未来
ブリーン:最後に、私が最もプロジェクトマネジメントで重要だと思うのは、「情熱を持つこと」です。PMIは、情熱を持つ人々のキャリアアップやネットワーキング、組織の成功を強化する、プラットフォームを提供しており、「PMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)」をはじめとした認定資格のオンラインコースや、ガイド本「PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)」等の出版物を日本語で用意しています。
森:良い方法論でプロジェクトマネジメントを学び、良いITツールを使うことは、実はSDGsにつながります。例えば、フィールドサービスマネジメントのツールを活用し、ルートを最適化することで車両移動のためのエネルギー消費を抑えることができます。これはSDGsの目標7「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」につながります。
PMBOK準拠のツールを駆使し、グローバルなチームでバーチャルに仕事ができるようになること。これは世界経済の格差を縮め、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」につながります。日本のITリソース不足の問題も緩和できるでしょう。
雨宮:日本企業は様々なステークホルダーとのコラボレーションを進めていくのが良いでしょう。ステークホルダーとは、パートナーやアカデミア、地域のNPOやスタートアップなどのことです。協業によって変化の兆しを感じること。それが、自分たちの進むべき方向性を知る手がかりにつながると思います。
ブリーン:未来の多くが、DXやテクノロジーに関連しています。日本でも最近、デジタル省を設立しましたね。テクノロジーは、これまでと同様に将来的にも影響を与えるでしょう。新しい世界でより価値のある仕事をするためには、スキルアップしたり、自分の仕事に磨きをかけたり、新しいことを学んだりする必要があるのです。私たちがどうテクノロジーと関わり、どう社会的利益のために使うか。そこに焦点を当てていく必要があると思います。
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執筆・編集 / 磯村かおり