芸能人のチャリティーが「胡散臭い」と思っている人たちへ。古坂大魔王が、小児がんのイベントにピコ太郎を出す理由

プロデュースするピコ太郎が小児がんのチャリティーイベントに出る。
古坂大魔王さん
古坂大魔王さん
photo by 野村雄治

「ペンパイナッポーアッポーペン」によって世界的なアーティストとなったピコ太郎。2月15日、小児がん治療をサポートするためのチャリティーイベント「LIVE EMPOWER CHILDREN 2020」(東京国際フォーラム)に出演する。

芸能人や起業家をはじめとした有名人が、こうした社会貢献活動をすると「偽善だ」「売名行為だ」と叩かれることがある。

ところが、ピコ太郎をプロデュースする古坂大魔王さんは「そういうことを言われたら、むしろ勝ったと思います」として、批判を気にしないそうだ。

古坂さんが考える「芸能人と社会貢献のあり方」について聞きにいってみた。

古坂大魔王さん
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photo by 野村雄治

「目立ちたい、モテたい」がアーティストの原点だと思う

「LIVE EMPOWER CHILDREN 2020」は2月15日に東京国際フォーラムで開かれるチャリティーイベントだ。ピコ太郎のほか、Every Little Thing、倖田來未、サンプラザ中野らがライブ演奏を行い、収益は小児がん治療の支援に回る。アーティストが「チャリティーをする意味」とは? 

意義も何も、こういうことをする事がアーティストだと思うんですよ、単純に。そもそもアーティストって、なんでこういう仕事をしていると思いますか?

人前に出て目立ちたい、モテたい。そこから始まっていくんですけど、おおもとは、自己承認欲求だと思うんですよね。小さい子供が大人に「ねえ、こっち見て、見て」と言うのと同じ。

注目を集めて、「人気」がお金に変わっていく。そうすると、アーティストは与える側になれます。

お金持ちの人は、成功して慈善事業をやっている人も多いですけど、慈善事業をすることが何よりも楽しいんじゃないですかね。

ところで、有名人やアーティストがチャリティーをすると「偽善だ」とか「意味が無い」という言葉が必ず出てきますが、言われ始めたら「よっしゃ」なんですよね。それだけ「効いている」「効いている」ということです。

というより、チャリティーが出来るようになって、批判も含めて社会から注目されることを目指してやっている人間が、売れていくのだと思いますね。かっこいいじゃないですか、チャリティーやるって(笑)。

古坂大魔王さん
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photo by 野村雄治

人間は弱肉強食では生きられない。助け合いが一番強い

これだけの豪華アーティストが集って、来てくれる方も7500円ものチケット代を払って、みんなの力で、小児がん治療の支援のために使われるなら、素晴らしい。

僕は、アーティストはもっとチャリティーをやるべきだと思います。例えばTake2の東MAXは、東日本大震災のあと、「被災地でライブをやろう」と旗を振ってくれました。その時から、ずっと被災地に行っていて、僕も参加しています。

人間は、弱肉強食というより、助けあわないと生き残れない生き物なんじゃないでしょうか。

助け合うことが「強い」ということを日本社会は3.11以降に気づきました。こういうこともアーティストは発信していくべきだと思います。

ピコ太郎
ピコ太郎
Christopher Jue via Getty Images

食べ物で喩えたらお笑いは「ラーメン」。一方、音楽はコース料理なんです。

古坂大魔王さんは1990年代に「底ぬけAIR-LINE」として、お笑い番組「ボキャブラ天国」などで活躍。現在はピコ太郎のプロデュースなど音楽活動で注目を集めている。音楽とお笑い。どっちがチャリティーに向いている?

(音楽ビジネスなどを手がける)エイベックスに僕が入ったのは、14年前です。それまではお笑いをやってきましたが、お笑いは「大衆芸能」。食べ物に喩えたら、ラーメンです。

誰でも「美味しい」とか「まずい」と評価ができるし、気軽に食べることができる。それに対して、音楽はコース料理なのですよね。規模が大きいし、「ちゃんとしている」感じがある。

お笑いは、トップのビートたけしさんでさえ、「俺らお笑いごときは」ってよく言いますよね。

歌は、「愛」とか「恋」とか「平和」を語れますが、お笑いでは難しいですよね。ドラマで言ったら、お笑いは「第二話」とか「第三話」で、初っ端ではなく、しばらくあとからお客さんに提供するもの。

例えば、東日本大震災のあと、僕が福島に行けるようになったのは、2-3年後でした。すごく大変な思いをしている人には、共感して寄り添って、ほっとさせてあげるようなエンターテイメントが、まずは必要だと思います。音楽が向いているんです。

でも、お笑いにも可能性はありますよ。すごく悩みましたが、東日本震災から数日後に東京の代々木公園で、チャリティーライブをやったんです。

日本中が「自粛ムード」で、テレビでもお笑いなどのバラエティ番組をやりづらい雰囲気でした。

「笑う」という行為が不謹慎扱いされるような空気がありましたから。

もしかしたら被災地から距離的に離れた東京だったから出来たかもしれませんが、今回のような小児がん治療支援のチャリティーイベントだって、音楽のアーティストだけでなく、お笑いの人も出られたらいいですね。

古坂大魔王さん
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photo by 野村雄治

音楽にもお笑いにも不思議な力がある イベントで、がん検診の「認知度を高めたい」

僕の本「ピコ太郎の作り方」(NewsPicks Book)の最後にも書いたんですけど、2018年4月、あいりちゃんという3歳の女の子に出会いました。

彼女はピコ太郎のファンで、難病と闘っていました。ピコ太郎は彼女と出会い、一緒に踊りました。

「きっと元気になる」と信じて手紙のやり取りもしていたんですが…。残念ながらその年の9月、天国に行きました。

でも、少なくともピコ太郎と一緒に踊って歌うことによって、あいりちゃんは辛い治療中に一瞬でも楽しむことができたと信じているし、僕は、音楽にもお笑いにも不思議な力があるんだなと思っています。

今回のチャリティーイベントを企画したエイベックス社員の保屋松靖人さんは、ご自身の息子さんが小学校6年生の時に、小児がんと診断されました。

今は元気になっていますが、保屋松さんは、この経験をきっかけに、「線虫検査」といって、手軽簡単なやり方で、がんの早期発見ができる仕組みづくりのために奔走しています

イベントに参加した人の間で、こうした検査の認知度も高まって欲しいですよね。

お腹が空いている時に、目の前に牛丼屋さんがあったら「食べましょう」となるじゃないですか。そのぐらいの気持ちで、保屋松さんに出演を頼まれた時「ああ、僕やります」とすぐ答えました。

チャリティーはボディーブロー。続けていれば、後から「効いてくる」

国立がん研究センターによると、1年間にがんと診断される小児は約2100例と推計される。早めの発見がカギとなるが、子供のがん検診の認知度はまだまだ広がっていない。

こういうのは、ボディーブローだと思うんですよ。小児がんのことは問題意識を持っている人も多いですが、まだまだ検診がみんなに広まっていない面があるのは確かですよね。

だから、今回のようなイベントは、1度だけではなくて、ボディーブローが効いていくまで何度もやらないといけない。

今までだってそうじゃないですか。例えば「クールビズ」。最初はみんながネクタイを外すまでが大変で、「そんな風にならねえよ」とめちゃくちゃ言われましたが、定着しています。

セクシャルハラスメントやパワハラも、意識が結構変わってきましたよね。職場がどんどん変わっていく。あれだけ日本人に向いていないとされた働き方改革も、あちこちで聞かれる。

ボディーブローの一発目って、地味。地道に、続ければ良いんですよ。毎回、豪華なメンツを集めなくても、1組だけでもやっていいんですよ。とりあえず続けて、発信していく。

よく、こういうイベントをやるんだったら、予算を全て小児がんの支援に寄付すればいいという皮肉が出るじゃないですか。

あれって、「人が良いことをしているのを見たくない人」の意見だと思うんです。うらやましいんですよ。さっきも言ったけど、アーティストがチャリティーをやるって、かっこいいんで。

古坂大魔王さん
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photo by 野村雄治

寄付をした人の銅像をドーンって建てよう

例えば喫茶店を「カフェ」と言い出したら、「うわー、カッコつけている」と思われるのと一緒。今は普通にみんな「カフェ」と言っていますよね。だからそういう批判を気にしないで良いんです。

ZOZOTOWN創業者の前澤友作さんとかも、番組で取り上げられた難病の子供にお金の支援をしました。Twitterでは叩かれていましたけど、そうやって助かるんです。

もっと寄付をする人をリスペクトするべきじゃないですか。あと、寄付をした人の銅像を建てるのもいいです。ドーンって。

古坂大魔王さん
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photo by 野村雄治

「日本人=照れ屋」では、もう通用しない

照れ屋だと思うんですよ、日本人って。だから良いことをしてもなかなかアピールしないし、周りも褒め称えない。照れ屋さんって、とっても奥ゆかしくて、今まではそれでやってきて良かったんですけど…。

でも、ピコ太郎を連れて世界を回ってみて気付いたのですが、照れ屋では、世界では通用しない。日本のサラリーマンのように、相手が言った事に対して「うーん、ちょっと持ち帰ります」っていうのは、だめ。どんどん相手のペースで物事が進んでしまう。

やっぱり、多民族多言語でやってる人たちと、インターネットで繋がっている時代なんですよ。高速通信の「5G」が広まって、より多くの情報を世界中の人とやりとり出来るようになったときに、照れ屋ではやっていけないですよね。良いこと、面白いことをやったら、世界にどんどん発信していかないと。

「ピコ太郎は、日本人だったんですねー」と言われる

というか日本は、世界ではそこまで興味持たれていないですから。ピコ太郎の動画を広めてくれた、世界的スターのジャスティン・ビーバーだって、ピコ太郎を日本人だと分かっているのかな。

日本は、アニメ、ゲーム、ちょっとしたファッションと、飯ぐらいですよ、注目されるの。ピコ太郎が「日本から来たんで」と言っても、「あー、日本人だったんですね」っていう。

日本は、子供が減って、人口が減って、いままでのような大きな経済成長も期待できないですよね。既存のインフラや高品質のサービスが今のようには、受けられなくなり、地方も疲弊していく。

そういう時代なんです。だから誰かが、何か役立つことをやったら、「うわ、意識高けー」とか「チャリティーなんて偽善だ」「売名行為」とツッコミを入れる文化は、やめたいですね。

「良いなー、かっけー」って言おうよ、と思います。そうやってみんなで社会に貢献できることをしていくのが、これから必要なんだと思います。

ピコ太郎
ピコ太郎
VCG via Getty Images

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