近所に動物病院がある。病院といっても、シャンプーをしたり、ブラッシングをしたり、またペットを預かるホテル的なサービスもしているようだ。正面は大きなガラス窓になっていて、スタッフが動物の毛を整えたりしている様子が見える。

近所に動物病院がある。

病院といっても、シャンプーをしたり、ブラッシングをしたり、またペットを預かるホテル的なサービスもしているようだ。正面は大きなガラス窓になっていて、スタッフが動物の毛を整えたりしている様子が見える。ちなみに、私は動物を飼っていないので、世話になったことはない。

この動物病院の前には、柵付きのごく小さな庭がある。それだけなら、「動物を自由にさせておくためのスペースなんだな」と思うところだが、一度も犬などが放たれているところを見たことがない。

それもそのはず、この庭は、ここで飼われているミニ豚専用のスペースなのだ。「なのだ」と断定はしたものの、本当のところは分からない。しかし、少なくとも、私はそこに豚以外の動物がいるところを見たことがない。

ミニ豚というのは、「ミニ」と付くからといって、そう小さいわけではない。成長するとそこそこデカイ。いわゆる食用の豚などに比べて小さいだけだ。そして、その庭で豚は、寝てばかりいる。ボテっと、気持ちよさそうに、毎日毎日。考えてみれば、起きている姿を一度も目にしたことがないのではないか。

ある朝、外出する際に、その病院前を通った。豚はやはり気持ちよさそうに寝ている。「今日も寝ているな」そう思って通り過ぎた。が、しばらく歩いたところで忘れ物に気付き、引き返した。

再び病院の前を通ると、先ほどまで静かだった院内にスタッフが集まり、朝礼が始まっているのが、窓ガラス越しに見えた。それから、ふと豚のいる庭の方に目を向けると、珍しく豚が立ち上がっているではないか! そして、その目線の先には、朝礼をするスタッフたちの姿があった。

そうか、と私は気付いた。豚は、朝礼に参加しているのである。別に院訓を唱えるわけでもなければ、今日の目標を発表するわけでもない。そもそも、窓ガラス越しだから、中の声だって聞こえていないだろう。偶然だろうか? いや、でもその姿には、なぜか「習慣」のようなものが感じられた。

忘れ物を取り、再び病院の前を通ると、豚はまたいつものようにボテっと庭に横たわっていた。豚が、朝礼で確認したであろう今日1日の予定はどんなものだったのだろうか。朝食・寝る・昼食・寝る・夕食・寝る・・・・・・ざっとこんなところだろう。

ここの豚は朝礼をする。そう考えた方が愉快なので、そういうことにしておこうと思った。

※気になって調べてみたところ、ミニ豚は目は弱いが、聴力には優れているそうだ。やはり朝礼に参加していたのである。間違いない。