白髪のピアニストが涙をこらえながら、両手で力強くバッハを演奏する様子が、世界中のSNSでシェアされて感動を呼んでいる。
動画に写っているのは、ブラジルのジョアン・カルロス・マルティンスさん。80歳のピアニストだ。バイオニック技術を利用した手袋を使うことで、20年ぶりに指の自由を取り戻した。
■病気と事故で指の自由が利かなくなっていた。
しかし、彼はピアニストとしてのキャリアを諦めず、24回もの手術を受けた。BBCによると、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックの開会式でピアノを弾いた際、右手の指1本と左手だけでブラジル国歌をゆっくりと演奏している。
■バイオニック技術の「魔法の手袋」で両手の自由を取り戻す
2019年3月に音楽活動を引退したマルティンスさんだったが、思わぬ転機が訪れることになった。AP通信の表現を借りると、それは「魔法の手袋」によってもたらされた。
マルティンスさんの引退を惜しんだ工業デザイナーのウビラータ・ビザロ・コスタさんがバイオニック技術を利用した手袋を開発したのだ。マルティンスさんは2019年12月から、彼が再びピアノを演奏できるようになったのだ。
この手袋は合成ゴムの「ネオプレン」で覆われており、マルティンスさんの指が鍵盤を押した直後に、カーボンファイバーの板が指を上に突き上げる仕組みとなっている。マルティンスさんはこの特殊な手袋を使って10本のうち9本を動かせるようになったという。
両手の指の大半を使ってピアノを弾くのは1998年以来とみられる。
■元NBAプレイヤーがシェアして拡散。「彼は泣いている、私も泣いている、あなたも泣いている」
今回、世界中に広まった動画は、マルティンスさんが9月23日ごろに公式Instagramに投稿したものだ。インディアンエクスプレスによると、この曲は、アレサンドロ・マルチェロのオーボエ協奏曲をバッハが編曲したものだという。
元NBAプレイヤーのレックス・チャップマンさんがTwitterで29日で「彼は泣いている、私も泣いている、あなたも泣いている」と称賛を込めて動画をシェアしたところ、6万回以上もリツイートされ、世界中に拡散されることになった。
AP通信に対して、マルティンスさんはピアノの演奏について「過去のスピードを取り戻せないかもしれません。どのような結果が得られるかわかりません。私は8歳の学習者であるかのように、最初からやり直しています」と話していた。