私たちが女性政治家にならない理由 #ジェンダーギャップ121位

「ジェンダーギャップ指数2019」が発表された。この記事を、政治家を志す女性たちに届けます。

この記事を、政治家を志す女性たちに届けます。 

そして、私に「政治家になったら?」と言ってくれた友へ。

「なんだこいつ、政治家にでもなる気かよ」とコメントしたあなたにも。

 「私たちが、女性政治家を目指していることを発信します! 顔出しOKな人だけ、写ってね」
「私たちが、女性政治家を目指していることを発信します! 顔出しOKな人だけ、写ってね」
Saori Hiramoto

2019年9月6日の夜、私は合宿所へ移動するバス車内に乗り込んだ約30名の女性たちに声をかけた。そして満面の笑みで映る同期たちと、この写真を撮った。

今回、私が参加したのは、一般社団法人パリテ・アカデミーが主催する「女性政治リーダートレーニング合宿」。

7月、「議員になって社会を変えよう!」というコピーが入ったこのチラシ画像をSNS上で目にした時、「私は議員になりたいのか?」と自問自答してみた。

そして、その答えは保留にしたまま、まずは合宿に申し込んでみた。参加する中でその答えを探してみようと考えたのだ。

パリテ・アカデミーとは、女性の政治リーダーシップを養成する団体だ。

パリテ・アカデミー

パリテ・アカデミー(Academy for Gender Parity)は、若手女性のリーダーシップを培い、女性やマイノリティが政治に対等に参加することで、ジェンダー平等な政治の実現をめざします。三浦まりと申きよんが共同代表として2018年3月に設立し、女性の政治リーダーシップ養成講座の提供などの活動を行っています。

日本における女性政治家の現状

世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ指数2019」が12月17日に発表され、日本は153カ国中121位となった。近年、世界に比べて日本における男女平等が大きく遅れていることが話題を呼んでいる。中でも、経済・教育・保健・政治の4分野中、経済と政治の不平等が際立っている。

みなさんは2018年5月に、日本で「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されたことを知っているだろうか。男女の候補者の数ができるかぎり均等になるよう政党に努力を求める法律だ。

1945年に日本で女性の参政権を認められてから73年。世界に続いて、政治の男女格差是正のために日本でもようやくできた法律だ。

「日本版パリテ法」(候補者男女同数法)とも呼ばれ、パリテアカデミー共同代表で上智大学法学部教授の三浦まりさんがその成立に尽力した。

日本の女性政治家の割合はどうなっているのか。まずは、ジェンダーギャップ指数の指標になっている、日本における国会議員の男女比の現状をおさらいしてみる。世界各国の議会で構成する「列国議会同盟」が2018年に発表した女性の議会進出に関するレポートを見てみよう。

衆院議員(定数465)2019年10月1日時点

半数:233
女性議員数:47(10.1%
男女同数になるには、あと186人足りない。

参院議員(定数245)2019年12月16日時点

半数:123
女性:56(22.9%
男女同数になるには、あと67人足りない。

国政だけを見ても、衆参両院の定数710人のうち、女性政治家が半数の355人に届くには、現状の103人に加えて254人増えなければいけない。

フランス語で「同等・同質」を意味するパリテの実現には、程遠いのが現状だ。

ちなみにパリテ法が生まれたフランスでも、かつては女性議員の割合は日本とそう変わらず、ヨーロッパの中でも最下位クラスだった。

それでも、2000年のパリテ法導入から17年で議員の約4割を女性が占めるまでになった。その理由は、男女の候補者数の開きに応じて政党助成金を減額する、いわば罰則を同時に制定し、それを守ってきたからだ。

日本版パリテ法には、その罰則つまり強制力がなく、各政党の努力を求めるに留まっている。現時点で、各政党間で大きく意識の差があるといえる。

こう書くと、女性政治家がもっと増えてほしい、と思う人は多いだろう。一方で、女性政治家のなり手が圧倒的に不足している現実もある。

私と「パリテ」との出会い

私がパリテアカデミーを知ったのは、「Feminism for Everybody」というコミュニティでフェミニズムの読書会イベントを主催した2017年の夏だ。

イベントのゲストをお願いしたのが、上智大学法学部教授の三浦まりさんだった。参加者はフェミニズム団体や若者たちが中心になるかと思いきや、多くの女性議員が参加。思いがけず、女性議員たちと膝を突き合わせて、フェミニズムについて本音で語り合った熱気を今も覚えている。

その時にもらったパンフレットを久しぶりに見返すと、2019年の私にはより切実で身近な問題として立ち上がってきた。

「保育園落ちまくり...」「あなたのモヤモヤはパリテで変わる」などと書かれたパンフレット。
「保育園落ちまくり...」「あなたのモヤモヤはパリテで変わる」などと書かれたパンフレット。
Saori Hiramoto

この2年間で、私が有権者として投票に行くだけでなく、ママ友の中に現職議員が増えたことや、親しい友人が春の統一地方選に立候補したこと。そして、ソーシャルアクティビストとして政治家などにロビー活動をした経験が、自分の目線を変えたのだと思う。

過去のパリテ・アカデミーへの参加がきっかけで、地域政党に関わるようになった友人もいる。彼女からも「今年のパリテ行くんだ! いいな〜!」とメッセージをもらい、行ってみたい気持ちが膨らんだ。

一方で、「合宿に参加することで、(本当に)女性政治家を目指すことになるのだろうか?」という問いも浮かんでいた。

ともあれ、現在3歳になる息子の母親でもある私は、週末をはさむ2泊3日の合宿形式のプログラムに参加するには、家族の協力が不可欠だった。

まずは夫に相談することにした。

「合宿に行ってほしくないわけじゃない」夫の本音

パリテ・アカデミーの日程と丸かぶりで、夫の地方出張も入っていた。

通常、夫の出張予定は家族のスケジューリングの中でも最優先で、次に子どもの行事を入れる。私はその間で自分の仕事のスケジューリングをするのだが、自営業のため、打ち合わせやイベントなどの日程調整は、こちらから候補日を先に提案することでうまく調整できていた。

しかし今回は、パリテ・アカデミーの合宿日より1日早く夫が出張に行かなければいけない。悩みながら、私が参加するコミュニティ「拡張家族 Cift」の仲間10人ほどにメッセージを送ってみた。

「パリテ・アカデミー(女性政治リーダー合宿)に挑戦したいんだけど、夫も出張で、みんなに助けてほしい」

数日のやりとりを経て、なんとか合宿中に子どもを預かってもらえるシフトが組めた。みんなが少しずつ、少なくとも3時間から、人によっては泊まり込みの時間を捻出してくれた。

夫に伝えてみると、どこか不満そうに彼は答えた。

「合宿に行ってほしくないわけじゃない。でも、息子はまだ3歳で、両親のどちらも不在で泊りがけというのは初めて。パパもママも会えない状況に子どもを放っておきたくない」

私が調整していたのは「時間」だけで、夫と息子の「心」まで配慮できていなかったことを知った。自分の思いの至らなさに謝るしかなかったが、その後何度か相談を重ねると、私が合宿に参加することについては、夫は一貫して「応援」の姿勢だった。

そのことにも勇気をもらいながら、最終的に子どもはCiftの拠点ではなく自宅で預かってもらうこと、私は都内の合宿所から毎晩自宅に帰り、朝ごはんは子どもと食べることで合意を得た。

女性が政治家になろうとすると、家族や友人など身近な人間の反対に遭う、というどこかで聞いた話を思い返しながら、パートナーが合宿に参加することは賛成してくれていても、子育て中の親が実際に参加するハードルはこんなにも高いのか、と感じた。

“未来の女性政治家”候補たち

合宿の初日は、マレーシアの住宅・地方政府大臣、ズライダ・カマルディンさんの基調講演から始まった。続いて、パネル・ディスカッションではパリテ・アカデミー共同代表の申きよん・お茶の水女子大学准教授が韓国の状況、同じく共同代表の三浦まり教授が日本の状況を解説した。

まだお互いの名前も知らないまま、日本中から集まった受講生たちと歓迎レセプションに参加。移動して目に入ってきたのは、自民党の野田聖子衆院議員に、立憲民主党や国民民主党の議員......。政党関係者と名刺交換をしながら私が話しかけたその人は、ある政党の代表だった。

大臣がマレーシアから随行した若手幹部は20代。ソフトドリンクで乾杯。
大臣がマレーシアから随行した若手幹部は20代。ソフトドリンクで乾杯。
Saori Hiramoto

 参加者と話してみると、同期の中には、選挙経験者が何人もいて、政党関係者とも慣れた様子で話している(ように見える)。

唯一、顔見知りのママ友と目配せする。

間違いなく、今夜この場所に、未来の女性政治家候補が集結している。

その中に、自分も含まれていることに動揺を隠せなかった。 

(これでやっぱり政治家になりません、なんて言えなくない??)

1日目が終わり自宅に帰ると、保育園のお迎えをして息子と一緒に過ごしてくれていた渋谷区議の神薗まちこさんが、熱も冷めやらぬ私を迎えてくれた。

女性議員のやりがいと障壁

翌日の土曜日、私は朝7時に配車したタクシーに飛び乗った。8時半からのプログラムは、三浦さんと申さんによる「女性が議員になるということ」と題したレクチャー。

ディスカッションをしながら、目の前にいる“普通”の女性たちが、政治家になろうとしていることが、ようやく現実として受け止められるようになってきた。

Saori Hiramoto

次に3名の女性地方議員によるパネルでは、東京都議の上田令子さん、昭島市議の篠原ゆかさん、パリテ・アカデミー修了生でもある新宿区議の依田花蓮さんが、2時間たっぷりと地方の女性議員としてのやりがいと障壁について語ってくれた。

やりがいは、「地方議会には政策実現の実感がある」ということ。

障壁については、まずは選挙に当選するために、ルールや慣習に従うことが多いそうだ。例えば、本当は騒音を控えるために、選挙カーなしの選挙活動をしたいと思っても、所属する党から「選挙カーがないと勝てない」と言われて使わざるを得ないなど、党の方針を候補者が変えることは難しいといった実情を話してくれた。

受講生からは「大政党に入らなかった場合、公職選挙法にはどのように対策するのか」といった具体的な質問も挙がり、依田さんから「経験者でも間違うことはあるので、些細な疑問でも選挙管理委員会にひたすら電話すること」と、経験を踏まえてアドバイスする場面もあった。

Saori Hiramoto

午後のプログラムでは、パリテ卒業生のトレーナーが中心となって、政策立案とスピーチトレーニング、そして選挙キャンペーン戦略......と実践的なワークになった。

政治アイドルの町田彩夏さんや、立憲民主党から参院選に立候補したLGBT活動家の増原裕子さんもいた。そこここで声が上がる活気あるプログラムだった。

今回のパリテ・アカデミーでは、チームごとに模擬選挙を戦うことが最終発表の課題となっている。最終日、つまり明日の午前中までという短い時間の中で、即席の候補者と選挙対策委員がチームワークを競うのだ。 

(左から)増原裕子さんと筆者
(左から)増原裕子さんと筆者
Saori Hiramoto

新入社員研修を思い出す程のがむしゃらさだが、聞けば、昨年は徹夜するチームもあったそうだ。私のチームは、最年少受講者の現役女子高生を候補者に擁立する事になった。

くじ引きで決まった私の役割は、コミュニケーション担当。企業広報の経験を生かして、候補者のプロフィールやキャッチコピーを一晩で仕上げることになった。

この日も22時に帰宅しなければならなかった私は、持ち帰って分担する作業を確認して帰路についた。

未婚の友人が、眠る息子を見ていてくれ、合宿に参加して感じた心境の変化を、話しながら整理する私に夜遅くまで付き合ってくれた。

チームで初めての“選挙”に挑戦

3日目の最終日。前日のワークの中で、自らの政治の原点を語るスピーチなどを聞いて互いを深く知ることになった仲間たちと、模擬選挙の最終発表を前に、束の間のライバル関係となった。

くじ引きで決まったチームと候補者、選挙区について考え、たった半日だけれど、初めての“選挙”を自分ごとにしながら、候補者が何で社会に貢献できるのかを訴えてしのぎを削り、それぞれ投票した。

韓国のフェミニスト政治家のポスターをイメージしたキャンペーンを展開する対立候補(左)を見つめるチームの候補者(右)
韓国のフェミニスト政治家のポスターをイメージしたキャンペーンを展開する対立候補(左)を見つめるチームの候補者(右)
Saori Hiramoto

開票結果は、私にとって意外なもので、模擬選挙とはいえ、票読みの難しさを実感した。

友人の選挙結果を、深夜まで追っていた時とも違う、傍観していられないじれったさ。過去には合宿でのチームワークと勢いをそのままに、その時に作ったポスターのデザインを踏襲して当選した修了生もいるという。

もっとできたことがあったのでは? という悔しさは、自分だけでなく、今後応援することになるだろう同期の仲間たちの選挙で活かせるかもしれない。

Instagramのストーリーの投票機能を政策キャンペーンに使用して特別賞を受賞したチーム。右端は政治アイドルの町田彩夏さん
Instagramのストーリーの投票機能を政策キャンペーンに使用して特別賞を受賞したチーム。右端は政治アイドルの町田彩夏さん
Saori Hiramoto

「公共からどんな人も排除しないでほしい」

パリテ・アカデミーがめざす社会のキーワードは、「Inclusion」(誰をも排除しない包括性)、「Respect」(お互いの違いを尊重する関係性)、「Justice」(正義の追求)の3つ。

私が電車によるベビーカー登園やTwitterでの炎上を経て、ソーシャルアクティビストとして「子育て応援車両」のロビー活動を始めたのは、「子連れはみんなにとって迷惑なのか」という議論が湧き上がる中で、「公共からどんな人も排除しないでほしい」という切なる願いだった。

それは、このパリテ・アカデミーの理念にも通じていた。

マレーシアから来日してくれたズライダ・カマルディン大臣は、私たちの手を力強く握って、「あなたにはできる。マレーシアから日本のあなたたちを応援している」と、激励してくれた。

(左)気さくにセルフィーに応じてくれた、マレーシアの住宅・地方政府大臣、ズライダ・カマルディンさん(右)筆者
(左)気さくにセルフィーに応じてくれた、マレーシアの住宅・地方政府大臣、ズライダ・カマルディンさん(右)筆者
Saori Hiramoto

日本の国政には女性政治家が足りないが、地方議会における女性議員の割合も低い。統一地方選前のデータになるが、2019年1月時点の内閣府男女共同参画局の集計によると、女性議員の割合は12.9%。20%の議会は女性ゼロ状態で運営され、女性1人議会も相当な数に上っていた。

女性政治家の候補者はまだまだ圧倒的に足りないのだ。

私がパリテ・アカデミーに参加することを決めてから当日までに考えていたこと。

それは、私が死ぬまでに、女性の首相や大臣が当たり前になり、人口比と同じく政治家も男女半々になる未来を作りたい、ということだった。

様々な思いを胸に、各地からパリテ・アカデミーに集まった女性政治リーダーを目指す28人に出会った。

合宿に参加して、彼女たちと出会って、いま私はこんな気持ちを抱いている。

(私たちが政治家にならなかったら、一体誰がやれるのだろう)

女性政治家が増えない理由は、きっと幾らでもある。

私たちが女性政治家になりたくない理由も、数えればきりがない。

正直にいうと、女性政治家の皆さんの話を聞いて、働き方やジェンダーなど様々な課題や現実を知り、それが改善されないまま、女性政治家になるのはとても困難なことに思えた。

ただ、女性政治リーダーのトレーニング合宿に参加する機会を得たことで、これ以上はないくらいの最大限のエールを受け取り、エンパワメントされた私たちが、ただ遠くから漠然と「誰かに女性政治家になってほしい」「女性政治家が増えてほしい」と願うことは、もうできない、とも思う。自分や仲間たちが手を挙げられることも知ってしまったから。

新しい政治の担い手に

戦後、日本で最初の女性国会議員が誕生し、21世紀に入り、2018年に、男女の候補者数をできるかぎり均等になるよう政党に努力を求める「日本版パリテ法」ができた。

パリテ・アカデミーに集った同期やスタッフの女性たちが、ともに作りたい未来のために、手段として一人ひとりが政治の道を選ぶことは、何も特別なことではない。

ソーシャルアクティビストとして走ってきた私が、いま起業家から政治家への転職を考え始めていることを、オープンにすることは、おかしなことではないだろう。

なぜなら、女性でも、女性でなくても、等しく政治家になる権利があり、日本の社会が、世界が、より多様な政治の担い手を必要としているから。

私たちは、たった1人で女性政治家になろうと挑むわけじゃない。シスターフッドの精神で、日本や世界の女性たちと連携していけばいいのだ。

女性政治家を目指すのではなく、日本の新しい政治の担い手になりたい。

パリテ・アカデミー修了生として、そんな想いが芽生えている。より大きな理想に向かって、新たな一歩を踏み出したいと思う。

平本 沙織 Saori Kanda Hiramoto

ソーシャルアクティビスト / フェミニスト
株式会社wip取締役

日本女子大学家政学部家政経済学科卒業。女子大生から丸の内OL、2度の転職と夫婦起業を経てソーシャルアクティビストとして活動。2016年生まれの息子を持つ。3Dプリンタ専門家、拡張家族実験プロジェクト「Cift」メンバー。 

2017年「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」発起人
フリーランス・自営業者の産育休のセーフティネットを求めて13,000筆を超える署名を集め、厚生労働省への陳情と省内記者発表を行う。
2018年「子連れ100人カイギ」実行委員長
熊本市議の子連れ議会出席問題をきっかけに、子連れ出勤のポジティブなメッセージングを目指してハフポスト、渋谷区、東急電鉄の後援を得て初開催にして2日間で300人以上を動員。以来毎年、渋谷キャストにて開催している。
2019年「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」代表
自身のTwitter炎上をきっかけに、満員電車や公共交通機関でのベビーカーや子連れの安全のために神薗まちこ(現・渋谷区議)、藤代聡(株式会社ママスクエア代表取締役社長)と共に1,000件規模の実態調査アンケートを実施。回答した保護者の約9割が「公共交通機関は子どもにとって危険である」とした衝撃的な調査結果を持って2019年2月、小池百合子東京都知事に要望書を手渡し、子育て応援車両の早急な実装を呼びかけた。2019年7月より、都営大江戸線にて子育て応援車両が走り始める。

編集:笹川かおり

注目記事