パキスタン東部パンジャブ州のカスールで7歳の少女がレイプされた上に殺害され、自宅近くのゴミ捨て場に遺棄された。地元では住民の抗議デモが発生し、警察と衝突して2人が死亡するなど、波紋が広がっている。
7歳の少女は1月5日、自宅を出たあと行方不明になった。少女の両親は当時サウジアラビアへ巡礼の旅に出かけており、少女は叔母と一緒に暮らしていた。
少女の足取りについては情報が錯綜しているが、少女は少人数の授業を受けに出かけたか、あるいは近所のコーランの朗読会に向かっていたとみられ、そのまま戻ってくることはなかった。
4日後の1月9日、少女は遺体で、近所の庭のごみ捨て場付近に遺棄されているのが発見された。検視の結果、少女は絞殺される前に複数回レイプされたとみられる。また、少女は発見される数日前に死亡していた。
少女の父親、アメーン・アンサリさんは当初、娘の遺体を埋葬するのを拒んでいた。父親は取材陣に、「法の裁きが下るまで、彼女を埋葬する気はありません」と語った。
「これからは子どもたちを家に残して出かけるのが怖くなりました。人の往来の激しい繁華街で、娘はどのように誘拐されたのでしょうか?」
その後少女の遺体は翌日に埋葬され、多くの人たちが葬儀に参列した。
その頃、パキスタンのテレビ各局は、少女が身元不明の男に連れ去られる様子をとらえた監視カメラの映像を放送した。
同じ地区で、1年間に12件のレイプ殺人が発生
地元では、レイプと殺人に抗議する声が高まっている。パキスタンの新聞「エクスプレス・トリビューン」によると、カスールではこの1年間に、幼い少女がレイプされ、殺害される同様の事件が12件発生しているからだという。
カスールでは長年、子供へのレイプや性犯罪が蔓延している。この地域で子供たちが危険にさらされ、地元住民が抗議し、メディアが多く報道しているにも関わらず、警察や地元当局は子供の安全を守る十分な対策を取っていない。
殺害された7歳少女の父親は報道陣に対して、「娘が行方不明になってすぐに届け出たのに、十分な捜査をしてもらえなかった」と警察の対応を批判した。
「私の親族や近隣の住民は、『警察は現場にやってきて、食事し、立ち去った』と言っていました。彼らが何もせずにいた間、私の友人や家族は、昼夜私の娘を探してくれていました。」と、アサリさんは地元のメディアに話した。
ワシントン・ポストによると、パンジャブ州フセインカーンワラでは2015年に、25人の男による犯行グループが少なくとも280人の児童を誘拐し性的虐待した事件が起きた。犯行グループは、虐待する様子を撮影し、数年にわたって子供の家族を脅迫していた。その動画や画像は数百本に及び、ネットで販売されている。
エクスプレス・トリビューンによると、カスールだけでも2017年に、子どもへの性的虐待が129件あった。子どもの権利擁護活動家によると、「誘拐が34件、強姦が23件、ソドミー(肛門性交)が19件、強姦未遂が17件、強姦誘拐が6件、集団強姦誘拐が4件」だという。
パキスタン人権委員会の調査チームはカスールで被害者に面会した。その村でも2015年以降、児童ポルノの不正売買が摘発されている。地元住民たちは児童ポルノ動画について知っていたが、黙認していたとみられる。
報告によると、「村人たちは、恥ずべき写真のため、また被害者と加害者の人々の多くが密接な関係を持っていたため、児童ポルノ問題に関して黙認を続けていた」という。
今回の事件が抗議デモにまで発展した背景には、捜査に消極的な警察の腐敗がある。被害者の両親らは勇気を振り絞って告発したが、警察は告発を受理しなかっただけでなく、加害者と共に被害者に嫌がらせをしていたという。また2015年の7月初旬から被害届が数多く出ていたのに、警察は、多くの被害者に対して十分な捜査をしていなかった。
捜査が進展しない間も、警察は加害者と共謀し、被害者家族やその支援者への脅迫や嫌がらせを繰り返した。8月には被害者家族や地元住民が抗議デモを起こした。抗議デモは激化し、地元住民たちは警察と衝突するようになった。この衝突後に、カスールでの子供たちへの性的虐待がメディアに取り上げられるようになった。
高まる抗議活動
SNS上では、被害者への正義を求めるハッシュタグが数多くシェアされる一方で、カスールの事件に対する抗議活動が高まり、人々の関心を集めた。
怒った地元住民が警察署に押し寄せ、副署長に襲いかかろうとしたところを警官が発砲し、抗議活動に参加していた2人が犠牲となった。パキスタンの新聞「ドーン」によると、警察官4人を含む6人の治安当局者が、市民に発砲した容疑で逮捕された。
ハフポストインド版は、殺害された7歳少女の両親が彼女の写真を公開することに合意していたかどうかについて確認できなかった。しかし少女の写真は、すでにあらゆるニュースメディアやSNSに掲載されている。しかし、「ドーン」紙のサイーフ・ウラー・チーマ記者はハフポストインド版に対し、「PEMRA(パキスタン電子メディア委員会)の命令により、報道機関はぼかしを入れずに被害者の写真を公開することは許されていない」と述べた。クリケットプレーヤーから政治家に転身した、パキスタン正義運動(PTI)のイムラン・カーン党首は、被害者少女の写真を投稿して暴行を非難し、1万2000回以上もリツイートされた。
しかし、専門家によると、被害者への正義が実現する道のりは長く、一筋縄ではいかないという。また抗議活動はごく一時的なものになる懸念もある。全パキスタン・フェミニスト協会の創設者シュマイラ・フセイン・シャハニ氏によると、抗議活動は被害者の写真がSNS上で拡散し始めたころから過熱したという。おそらく、被害者の姿を目の当たりにしたことで、ただ事件の内容が報じられただけよりも世論の怒りに火がついたのだろう。以前から同様の事件が繰り返されていたのに、パキスタン国内外から今回のような大規模な抗議活動は起きなかったのはそうした理由からだ。
シャハニ氏はハフポストインド版に、次のように語った。
「カスールでは2015年以降700件以上に及ぶ児童性的虐待が報告されている。これには2015年のフセインカーンワラの事件も含まれています。2017年には11人の児童が同様に誘拐され、レイプされ、殺されていますが、今回のように抗議の声が上がる機運は高まりませんでした。7歳少女の殺害が報じられた数時間後に、ファイサラーバードでは15歳少年がレイプされ、殺害された報道されましたが、気に留める人はいたでしょうか? 7歳少女の事件が起きてから、2つの事件が報告されています。1つはシンド州スックルで、レイプ犯が無抵抗の少女に火を付けました。もう1つは、16歳の児童がレイプされ殺害されました」
シャハニ氏はさらに、政治家は口をそろえて正義の実現を約束しているが、彼らの怒りは偽善的だと批判した。
「抗議活動では、パンジャブ州に性教育を学校のカリキュラムに取り入れ、性教育や性的虐待について対話する時間を作るよう求めています。パキスタンで放送されたテレビドラマ『Udaari』では、ペドフィリア(児童性愛)の問題に触れたことから、PEMRAはわいせつな内容を放送したとしてテレビ局に警告しています。国からすれば、この問題を取り上げることは、すなわち『わいせつ』にあたるのです。しかし、児童性的虐待の問題について触れないで、どうやって認知を広げることが出来るのでしょう。性教育をせずに、他にどんな方法で子供たちを救えるのでしょう?」
ハフポストインド版より翻訳・加筆しました。