悩みを相談すると、周囲から"熱い"フィードバックをもらえるワークショップが、1月11日、エンジニア向けのイベント「Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)」で行われた。
相談に乗ってくれるのは、ほぼ初対面の赤の他人。にもかかわらず、持ち込まれる相談に、周りの参加者が責任と情熱を持って一緒に考えてくれる"仕組み"があるのが特徴だ。
ワークショップに参加したのは、約200人。
- 社員のモチベーションを上げるには、何をすればよいか?
- エンジニアにビジネス思考を身に着けてもらうには
- 地方で開発の請負仕事をしているんだけど、首都圏にいる仕事の発注者との溝に悩んでいる
- 業務委託の方にも、自社のビジネスの考え方をうまく共有したい
など、25件ほどの相談がイベントに持ち込まれた。これらの相談が、どのようにワークショップで展開されたか、その一例を紹介しよう。
「部下への振り返りがうまくできない」と相談してみたら...
ある30代の会社経営者は、「部下への振り返りがうまくできない」という相談を持ち込んだ。良かれと思って部下にフィードバックしたのだが、うまく伝えられなかったのだという。
この相談のグループには、入れ代わり立ち代わり約20人が集まり、解決のアイデアを出し合った。自分自身も部下へのフィードバック方法に悩んでいる20代の女性や、長年部門を率いている50代の部長職の人など、年代も経験もバラバラなのだが、冒頭に参加者の自己紹介などはなく、相談の内容を聞いた参加者らは、まず自分の体験を話し始めた。
「私はフィードバックで次の3つを含めるようにしています。
・行動そのもの
・その行動による影響
・その人に期待していること
これをセットで話すことで、フィードバックの意義を伝えられるようになりました」
「1対1でのフィードバックではなく、みんなの前でフィードバックをしなくてはいけないときもありますよね。
例えば、他の人もやりそうなミスだったり、大きな事故に繋がりそうなミスだったりしたとき。翌日の朝礼でミスがあったとみんなに伝えるのですが、私は、ミスをした人を褒めるようにしています。『よく最初に事例を作ってくれたね』という感じです。そのうえで、どうすればミスはなくなるかを考えてもらいます」
実は、この相談のセッションは、特別な進行の型式があるわけではない。しかし、誰かが話し始めると、他の参加者からも、気付きや新たな質問、自分の持っている課題がシェアされ始める。
「ネガティブなことばかりではなく、ポジティブなコメントをすることも、フィードバックだよね」
「行動に対する期待が、フィードバック"する"側と"される"側でずれていることが、よくあります」
「フィードバックされる側にも、フィードバックしてほしいことを事前に言ってもらってもいいかも」
「入社したばかりの人とか、フィードバックに慣れていない人にフィードバックしなくてはいけない時に、何か工夫していることはありますか?」
「フィードバックに慣れてもらうために、2日に1回の頻度でやってみています。ただし1回10分とか短い時間にしてます」
「フィードバックのときに使う"言葉"の基準をすり合わせるのが難しいです。
例えば、『これをやってはダメ』と言いたいときに、『ダメ』の影響度が、大事故につながる『ダメ』なのか、ちょっと作業が複雑になるからというような『ダメ』なのか、同じ『ダメ』でも違いますよね。ただ単に『ダメ』というだけではダメなんですよね」
これら1つ1つの発言が付箋に書き込まれ、模造紙にまとめられていった。対話が深まり、相談のだいたいの目安とされていた30分という時間が、あっという間に経過した。
初対面の相手でも盛り上がる「OST」とは?
今回紹介したワークショップでは、「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」と呼ばれる手法が使われた。
OSTは1985年にハリソン・オーウェン氏によって提唱されたワークショップの形式だ。何を相談するかや、進行の段取り、参加人数は特に決められておらず、参加者に任せている。個人の主体性を重視しているためなのだが、最も特徴的なのが、相談のグループへの参加者の出入りが自由だということだ。
相談を持ち込みたい人は、一緒に考えてくれる人はいないかとアピール。参加者らはそれらの相談のなかから、自分が貢献できると思ったり、興味があったりする相談のグループに加わるのだが、加わらずに他のことをしていてもいい。
また、参加してみて、自分が貢献できないと感じたり、つまらないと感じたら、途中で席を立つ自由も認められている。相談を持ち込んで参加者を招致した人は、他に行かないでと止めることはできない。
この、参加自由・出入り自由という点は、「関心があるテーマが他にないから、仕方なくこのグループに参加した」という"言い訳"ができないとも言えるだろう。自然と参加者も、熱意をもって参加するようになるのだ。
今回のRSGTのように、初対面の人が多いOSTもあるが、もちろん、社内など知っている人だけでのOSTを実施してもOK。誰かに言われて参加するのではなく、自主的に参加することが大切だ。
RSGTの主催者によると、例年、OSTをイベントに組み込んでいるという。RSGT実行委員会メンバーが、北米の本家イベント「Global Scrum Gathering(SG)」でOSTのワークショップを経験。様々な出会いや気づきを体験できたことから、日本のイベントでも実施するようになった。世界各地で行われるSGのイベントでは、OSTは人気セッションになっているのだという。
参加者はどのように感じているのだろうか。聞いてみると、
「うちは社員が少なくて会社には相談相手がいない。仕事の関わりがない人に、ざっくばらんに相談する機会があってありがたかった」
「他の人の事例がたくさん聞けた」
「参加したテーブルは少人数だったけど、ひとりひとりの話が深く聞けた。繋がりができたので、今後もまた相談したい」
「自分の発言が、役に立つと言ってもらえた。嬉しい」
など、様々な感想が出た。
「部下への振り返り」について相談した参加者は、これまでにもフィードバックの方法に関する書籍をたくさん読んでいたというが、現場の知恵を得たかったので相談してみたのだと話してくれた。
「本を読んで理解したつもりでしたが、本には書かれていない多くの収穫がありました。例えば、振り返りの際に3つのことを取り入れる"ビヘイビア・ベースド・フィードバック"というキーワードを知ることができました。『読んだ本のあそことここに書かれていた』というバラバラの情報を、一つに整理して再構築できました。
振り返りをする相手から、フィードバックしてもらいたい内容を聞くとか、ちょっとした振り返りを積み上げていくなど、実際に使えそうなアイデアもありました。
相談前に期待していた以上の内容が得られたと思います」
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何かを誰かに相談したいと思ったときに、200人もの人に質問できる機会はなかなかないのではないか。初対面でも打ちとける。聞いている側も、思わず自分のことを話したくなる。他の会社の若者が持つ悩みを、自社の若手の悩みに置き換えて考えてみたりもできる。取材をしながら、私自身も相談セッションに夢中になっていた。またどこかのOSTに、参加してみたい。