本屋さんで働きたいなと思ったのは、本を読むことと同じくらい本を紹介することが好きだと気づいたからです。きっかけは、とある読書記録サイトの利用でした。
ちなみに、そのときのペンネームは「あさ・くら」。ちょうどハマっていたのがアーサー・C・クラーク。なんともひねりがなく、お恥ずかしい......。
今回ご紹介いたしますのは、ショーペンハウアー『読書について』です。
曰く、「ただ経験しただけ、本を読んだだけでは、ものを食べたところまでに過ぎず、じっくり考え、思索することで初めて消化吸収し、自分の血肉となる」のだそう。
当時の私は、その言葉を受け、袈裟切りにバッサリ斬り捨てられたのでした。そして、「消化せねば!」という勢いだけで、読書サイトに登録したのです。それが転じて、転じて、いまに繋がっているのかもしれませんね。
さて、突然ですが、私が幼い頃に熱中した1本のゲームソフトがあります。
『ドラゴンクエストモンスターズ2 マルタの不思議な鍵』
2000年代初頭、ゲームボーイに色がついた頃のRPGです。主人公の少年少女は、タイトルにある「不思議な鍵」を使って異世界への扉を開き、経験値やアイテムを稼いで戻っては、元の世界のストーリーを進めていきます。
鍵は無数。じっくり探索するもよし。手早く戻るもよし。得られるものも運や時間、当人のレベルによって様々です。
「これって読書に似てない?」と思うのは飛躍が過ぎるでしょうか。
私はこう思うのです。「ショーペンハウアーさんの言う、読書に似てない?」と。
星の数ほどある本。選書も読み方も人それぞれ。その中に赴き、冒険した後、みな元の人生に戻っていくのです。しっかり冒険すれば、それだけ本筋、つまり人生に活かすことができます。でも、冒険しているだけでは本筋が進みません。
なんだか本筋が停滞気味という方、おられませんでしょうか。あるいは、冒険してばかりの本の虫な方、おられませんでしょうか。
そんな方々には『読書について』をお勧めしたいと思います。
本は読むだけ、食べるだけで終わってしまっているなら、ぜひ本書を読んでみてください。栄養として吸収してこその「読書」です(もちろん感想・書評として排泄するのもまた一興です)。
読書のレベルを一段階上げる不思議な鍵の1本、『読書について』は本屋に売っています。
忙しく過ぎ去る毎日の合間、私は"不思議な鍵"を空想します。
「今日書棚に並べた1冊が、今日POPを書いた1冊が、きっと異世界への不思議な鍵で」
「そこで得た経験値やアイテムは、血肉となってストーリーを進めていく助けになる」
「本筋のストーリーに行き詰った人は、また別の鍵を探しにお店に足を運ぶ」
そんな鍵屋をやりたいなぁ、と思いながら、私はいま本屋をやっております。
連載コラム:本屋さんの「推し本」
本屋さんが好き。
便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。
そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。
誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。
あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。
推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp
今週紹介した本
ショーペンハウアー『読書について』(光文社古典新訳文庫)
今週の「本屋さん」
萩原健太(はぎわら・けんた)さん/フタバ図書 ジ アウトレット広島店(広島県広島市)
どんな本屋さん?
「フタバ図書 ジ アウトレット広島店」は、広島市に昨年オープンしたアウトレット商業施設内にある書店。いつも多くの人で賑わっています。売れ筋の本が手に入るのはもちろん、華やかな広島カープグッズコーナーも見どころの1つです。入り口のフェアコーナーでは、おしゃれ、かつ、珍しい書籍のフェアを常時展開中。ある意味、フタバ図書"らしくない"お店です。 ツイッターのアカウント(@futaba_toh)も要チェックです。
(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)