書店員というのは、なんとも不思議な仕事です。
給料はぜんぶ本につぎ込んでいます!、と言い切れるほど読書家でもない私が、なぜか魅了されてしまう「本屋」という場所。
かなりの肉体労働だし、接客業特有のストレスもヘヴィーだし、時給も安い...それでも、本のデザインやイラストを鑑賞したり、インクや紙の匂いを感じたり、ページを捲る音や指先に感じる感触を楽しんだり、と五感で本と触れることができる書店員という仕事に、えもいわれぬ愛着を感じながら、今日まで続けてきました。
そんな私が、年齢も性別も職業も関係なく、全ての方に「これ、どうですか?」とおすすめしたい一冊があります。
それは、『ともだちはくま』(KADOKAWA)という本です。
何だかシュールで、フォルムがサイコーに可愛い。
喜怒哀楽の表情が豊かで、鼻に寄る皺でさえキュート。
見ていて飽きない。
なぜか「女装が好き」という、ちょっぴりシュールな癒やし系くまです。
元々はLINEスタンプのキャラクターとしてこの世に生まれた、名も無きくま(以下、愛を込めて「くまちゃん」と称します)でしたが、作者である「さいきたむむ」さん(以下、敬愛を込めて「たむむさん」と称します)が、Twitterでもイラストやマンガを投稿するように...。
たむむさんのアカウントは日に日にフォロワー数が伸び、その増殖が止まらず、今やフォロワー数8万超えとなっています。
Twitterに上げるイラストやマンガの主なテーマは『今日は○○の日』。「フランスパンの日だよー」「今日は鮭の日ヽ( 'ω' )ノ」「ピザの日だよー ピザ食べたい」といった具合です。
ツイートを見ていると、フォロワーさんたちの方から『今日は○○の日らしいですよ』だなんて情報を受けて、たむむさんがイラストを作成なさっているのを、よくお見掛けしています。
書籍『ともだちはくま』は、こんな風に作者とファンとの絆で育まれたTwitter上の作品を纏めた(勿論、描き下ろしも加えた)作品となります。作り手と受け手が一緒にキャラを育てていくーーまさにSNS時代を象徴する一冊だと思うんです。
くまちゃんの言動のひとつひとつには、胸に熱く来るものがあります。
くまちゃんは獣であるだけに、とにかく『本能』に忠実なんですね。
主に食欲や睡眠欲などの生理的欲求に、気持ちが良いほど素直にしたがって行動します。
好奇心旺盛で失敗を恐れない。
失敗をしても、めげない。
痛い目に遭ったり、自分の思うような結果にならなくても
そばにいる仲間を決して責めたりはしない。
これは、どのくまちゃんにも共通していることです。
私は、そんなくまちゃんたちが美しいと思うし、愛おしくて堪りません。
私たち人間は、生きていく上で必要な虚飾を纏っているものですが、そんな虚飾を一糸も纏わず生きる、くまちゃんたちの『強さ』と『優しさ』に憧れと尊敬の念すら抱きます。
......とまぁこれは、私が頭を一生懸命、回転させて分析した内容であり。
実際に本を読んでいる時には、ただただ萌えたり、笑ってしまったり、一言で言えば『癒される』訳です。
普通は、そこまで深く考えながら読むことなんてないと思います。
それでも、たいていの方が読めば「フフッ」と、笑ってしまうだろう。
そんな気がします。
どんな老若男女も、直感的に「癒し」を感じることが出来るのでは?と、信じています。
近年はストレス社会に重ねて、世界的に政治も不安定で、自然災害が容赦なく襲い掛かってくる頻度も高まり、不安や苛立ちは更に募りやすいという状況です。
そういった悲しみや怒りという感情は伝染するもので。
それらを振り払うには、やはり「楽しい」とか「嬉しい」というプラスの感情が不可欠ですよね。
世の中には様々なストレス発散法があって、人によって効果はそれぞれ違うけれど、『本を読む』という方法はすごく身近で手軽な存在です。
だからこそ『本』や『本屋』は、これからの世界にも必要であり、たとえ細やかな力だとしても、たくさんの人の生きる糧になり、人生を豊かにするものだと思います。
出来ればひとりでも多くの人が笑って楽しく過ごせたら...という願いを込めて。
私は『ともだちはくま』をおすすめしたいと思います。
どうか、あなたが明日も元気で頑張れますように。
「フフッ」と、笑ってくれますように。
連載コラム:本屋さんの「推し本」
本屋さんが好き。
便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。
そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。
誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。
あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。
推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp
今週紹介した本
『ともだちはくま』(さいき たむむ)
今週の「本屋さん」
三井洋子/ 東京都内某所の書店に勤務
(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)