2025年4月13日より開幕する「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」を目前に控え、各領域で開催に向けた取り組みが加速している。
文化や産業領域での交流やつながりが期待される大阪・関西万博において、特に注目されている領域の1つが「アート」だ。
万博における未来社会ショーケース事業のうち、「アート万博」のひとつである「パブリックアート」の一部を担当する「Study:大阪関西国際芸術祭」実行委員会は2月19日、東京建物八重洲ビルにてメディア発表会を開催。
万博の開催時期に合わせて、万博会場と周辺地域(全6箇所)で開催される芸術祭の概要や、企画に込めた思いなどを聞いた。
「得体の知れないもの」から社会を考える
未来社会ショーケース事業「パブリックアート」は、大阪・関西万博会場内各所に、多様なバックグラウンドを持つ国際的なアーティストによる作品を展開するというもの。
本展示は「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」の1部でもある。アートと人、社会の関係を考える同イベントはアートを通じた「ソーシャルインパクト」をテーマに掲げており、文化芸術による経済活性化や社会課題の可視化を目指しているという。
万博会場以外にも、大阪文化館・天保山(安藤忠雄設計)、中之島の大阪府立国際会議場(黒川紀章設計)、西成・船場地区など、大阪を象徴する東西南北での展示を予定している。また、国立民族学博物館(大阪・千里の70年万博跡地)の展示では俳優・アーティストののんさんも参加予定だ。
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大阪関西国際芸術祭 実行委員長を務める山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長)は、本プログラムの狙いについて、「アートをビジネスに、ビジネスにアートを」という個人的な見解を持っていると説明。
企画の問い「ヒトはなぜアートをみたいのか」については「サステナビリティや社会課題について考える際には、科学や倫理だけではなく、アートの持つナラティブ(ストーリー性)を持ってアプローチすることも大切な手段」と見解を述べた。
芸術祭にかける思いについては「アートは見る人の主観に語りかけ、その背後に隠れる思想を表現します。そうした『背後に隠れる何か』の力を借りることも(社会を考える上で)必要だと思います。今回の芸術祭では、アカデミアを含む様々なステークホルダーの方々と連帯して、得体の知れない、けれど未来を変えるヒントを持っているような作品をご覧に入れたいと思います」と話した。
アート領域でのSXSWを目指して
続いて大阪関西国際芸術祭 理事長の鈴木大輔さん(アートローグ代表取締役CEO)が登壇し、アートによるソーシャルインパクトの事例や大阪におけるパブリックアートの事例を紹介した。
オーストリアのアルス・エレクトロニカ・フェスティバルなどと並んで、過去に大きなソーシャルインパクトをもたらした例として挙げられたのが、スペイン北部の都市・ビルバオにあるグッゲンハイム美術館だ。
ビルバオは、かつて工業都市として栄えたものの、1970年頃から経済は徐々に衰退。しかし1997年にグッゲンハイム美術館が開館すると、わずか3年で予想を大きく超える約400万人が訪れ、一躍世界的な観光名所へと躍り出た。また、近隣地域には約5000人分の雇用を生み、大きな経済効果をもたらしたという。
一方で、アートの持つ可能性を生かしきれていないことも、国内外において深刻な課題だ。鈴木さんは「忘れ去られたパブリックアート」の例として、現代イギリスを代表する彫刻家・アントニー・ゴームリ―が手がけたモニュメント「MIND-BODY COLUMN」を紹介した。
大阪・梅田に位置する同作品について「東洋の思想から色濃く影響を受けたゴームリーの作品は、国際的にも高い評価を受けており、本来は観光地として成立できるほど価値があるものです。こうした資産を生かしきれていないことが残念であると同時に、そこに多くの可能性を感じます」と話した。
また、実行委員会では、万博の開催を見据えて、過去3回にわたって今回の芸術祭に向けた検証を進めてきたという。多くのステークホルダーが一堂に会する万博と芸術祭の開催を被らせた意図としては「アート領域でのSXSW(※1)のようなイベントを作りたい」という思いがあったと話し、実行委員会設立の経緯を振り返った。
※ SXSW:South by Southwest の略称。アメリカ・テキサス州オースティンで毎年開催される大規模なイベント。音楽、映画、インタラクティブ・テクノロジーを中心に、さまざまな分野の最新トレンドが発表・議論されている。
大阪関西国際芸術祭を構成する6つの「章」
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芸術祭を構成する6つの「章」では、それぞれ設定されたテーマに応じて、多様なアーティストや企業などが参加する。国内外のアーティストによる作品の展示やビジネスコンテストの開催、地域経済に焦点を当てた取り組みの紹介など、参加の形はさまざまだ。
また、芸術祭期間中は国内外のアーティストがエリア内を直接案内する「アートツーリズム」体験や、芸術祭を盛り上げるアート企画やイベントを全国から募集する「Co-Study」も開催される。
今後、参加アーティストを含め、新たな情報が随時公開されていく予定だ。
【大阪関西国際芸術祭】
第1章:多様なる世界へのいざない(大阪・関西万博会場)
第2章:人・命への考察(大阪文化館・天保山)
第3章:都市とアートの関係性(大阪キタエリア)
第4章:変容する街でのアートの可能性(西成エリア)
第5章:南北東西、文化の交差する街(船場エリア)
第6章:クリエイティブエコノミーと地球の未来(大阪府立国際会議場)